糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
58 / 644
1章 神様が作った実験場

魂のプログラム 6

しおりを挟む

 囚獄の窓枠から黄金色の蓮が揺れる。
 どんな構造になっているのかカンダタには到底理解できないが、この座敷牢は池の中にあるらしい。水音と蓮はそれだけを教えていた。
 一度、窓から外を見てみようと試みたが、できなかった。窓枠は高く、手を伸ばしても跳ねても届かない。壁を登ろうにも窪みや罅もない壁では登りようがない。
 高い窓枠の金の蓮は嫌味なほどに美しく現状に抗うカンダタを見下す。埃っぽい空気と変えられていない畳が更にカンダタを惨めにさせた。
 鉄格子の外には椅子に座った見張りが一人。驚くことに8頭身の鶏がカンダタを見張っていた。カンダタには無関心で叫んでも走っても跳ねても目線は変わらず書物を読みふける。
 そんなもので見張りが務まるのかと囚人側から言うのも変わっているが、それを言っても奴は無言を貫くだろう。そもそも、カンダタがここから逃げたとしても行く先はない。
 カンダタが現在いるのはハザマというところらしい。大体の説明は一通り聞いた。光弥と名乗った男は常に笑顔でそれでいて、奴もこちらを見下した様子で話していた。
 あの時のことを思い出すと腹の中が煮えてくるようなふつふつと湧き上がってくる激情があった。

「空の穴、ここで俺を待っている人がいるはずなんだ。彼女はここにいるはず」
「なるほどね」
   にんまりとした癪に障る笑みを浮かべた光弥は頼んでもいないのに自身の解釈をカンダタに伝える。
 「その女性は存在しないよ。あんたの頭はいくつかのプログラムで組み込んである。その中に一定の場所へ向かうように使命感のコードを入力してあるんだ。そのプログラムとあんたの妄想が混ざって、待ち人がいると思い込んだみたいだね」
 プログラム、コード。カンダタには聞き慣れない単語だ。だが、彼らがカンダタに何をしたのかは、なんとなくだが掴めた。要は、覚えていいないうちに頭の中をいじられたということだ。はい、そうですか、と受け入れられるはずがなかった。
  「そんなはずない。俺は彼女がいると思って」
「ならさ、その女性思い出せる?どんな約束をした?その時の風景は?相手の名前は?」
 答えられなかった。カンダタの中で、長年支え続けていた、自我を繋ぎとめていたものが、崩れていく感覚がそこにあった。
  ほら、見ろと。光弥は嘲笑う。
 「人間、死んだ後も忘れるものさ。よくあるんだ。元々あった記憶や好みの異性とかがプログラムと混ざって妄想が現実だと勘違いすること。あんたの好みがその妄想に反映されたんだろ」
 そんなはずない。彼女はいた。
「まぁ、ショックは大きいよな。でも、平気さ。すぐに処分するから」
 「処分?」
 光弥が発する単語はどれも不快なものばかりだ。ただ、それだけは特に不吉に聞こえた。
 「わかりやすく言うとな、魂を輪廻に流さずに基板、魂の核の部分なんだけどな、そこを砕いて魂そのものを分解するんだ。あんたが受けたショックもなくなるわけさ」
 「お前らは何様だ。他人の頭をいじって地獄に落として。まるで子供遊びだ」
  覇気を失くしたカンダタは枯れた草木の声をしていた。弱くて細い声しかでなくても、目の前の理不尽を受け入れそうになったとしても、言わずにはいられなかった。
 「仏様だよ。人間は塊人をそう呼んでるぜ」
 なるほど。どこかの坊主の言っていた通りだ。信じる者は救われる。悪人は人ではなくなる。仏の玩具というわけだ。
 怒りも涙も出ないのはそれすらも忘れてしまったからなのか。それとも怒りや涙も頭をいじられて失くしたのか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...