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6章 盤上の外で蜘蛛喰い蝶は笑う
それは薄明のような赤い記憶 4
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穴を潜り、再び闇に包まれ、また光が差す。
洞窟の外に出た。あの赤い風景が目に映るが、絶景を楽しむ余裕は残念ながらない。
洞窟の外は岸壁になっており、降りるのは難しい。登ったほうがまだ簡単だ。
ここまで洞窟内を走ってきたので内部の構造が大体つかめてきた。蟻の巣のように枝道が分かれており、進めば行き止まりか外の出口だ。
敢えて降りるほうを選んだ。
ケイも迷わずに追ってくるだろう。そうすれば誤って落ちるかもしれない。
横穴なから身を乗り出し、掴めそうな突出した岩を掴み、足をかける。
横穴は下にも上にもある。いくつもある選択から一番近い横穴から行こうとしていた。
登るより降る方が慎重になる。石を掴む、足をかける。見つけて選ぶのも躊躇する。
そうしているうちにケイも横穴の出口に立ち、カンダタを探す。カンダタは上を目指すだろうと見上げるがいない。
ケイの片手には白い刀がある。岩壁を伝って降るのは困難だ。
そう踏んでいたが、ケイは横穴から跳んだ。
まさか、身を投げ出すとは想像もしていなかった。カンダタは呆気に取られ降りる手を止めてしまった。
口を開き、間抜けに眺めている間にもケイが落下してくる。勢い良く急速に来るのでカンダタは我に返る。
空中に身を任せれば身体の自由は効かない。ケイの奇行に驚愕し、混乱するも冷静に左側へ跳ねるように移動する。
掴む石に、踏む石に目星をつけ、跳ぶ。その瞬間、石を掴めなかった時の想像がちらりと脳裏に映る。選んだ石に見捨てられた絶望が想像から生まれる。
そうした絶望と向き合いながら左側へと移動していく。ケイの刀が届かない所へ。
今なお落下するその最中でケイは白い刀を壁に突きたてた。刀が今にも折れそうな振動をたて、落下する速度は緩やかになり、一時的に止まると白い刀の柄を鉄棒がわりに身体を左右に揺らす。助走がついたところで白い刀を壁から抜きながらカンダタに向けて再び身を投げ出した。ケイはその身ごとカンダタを落下させたようだった。
そうなるとカンダタには術がなく、ケイの裏足が衝突する。
一人と一匹が岩壁が落ちる。急勾配の終わり、つまりは山の根元まで身体をぶつけながら転がる。止められない。
視界は回転し、赤い空と岩壁が脳の処理も追いつかないまま入れ替わる。
その中でケイはしっかりとカンダタを捉え、襟首を掴んできた。
何が何でもカンダタを捕まえたいようだった。そこまで清音に対する執着が強いのだろうか。洗脳とでも言うべきか。
声は届いているはずだ。先程は無反応であったが、なんとか動揺させたい。
回転する視界とともに頭も回転する。ケイに関する記憶をくまなく探る。
いずれ急勾配は終わり、カンダタとケイは山の麓の地面にぶつかった。落下した分だけ衝突が強くなり、全身の内臓が振動し、混ぜ合わせられたような感覚がした。
ケイはそんなことなく、襟首を掴んだままカンダタに跨る。
瑠璃に託すと言っていた白い刀、木目のお面、存在理由、ケイの成分。
「影弥だっ」
記憶が繋がり、閃いて叫ぶ。
その名がカンダタの口から出た途端、ケイの動きは銅像のように止まった。
だからといってケイから敵意が消えるはずもなく、微動だにせずにカンダタを睨む。またカンダタも目線を逸らせず、声も出せぬほど動けなかった。
ふと、掴んでくる手が緩んだ。刹那にカンダタはその手を払い、ケイの胴を蹴る。後ろに下がり、距離をとる。カンダタの後ろには洞窟の入り口がある。走ればすぐだ。
ケイは蹴られても呆然としている。今なら逃げれる。
しかし、カンダタは対峙する。
清音に支配されているケイが自分を取り戻そうとしているとカンダタは推測していた。ただ、沈黙したままではそれも解かれない。疑問が強くなるケイにひと押しする言葉が必要だった。
乾いた唇を舐め、潤す。
カンダタの行動ひとつ、言葉ひとつで大きく変わる。
静寂の中、ほんの僅かに大気が揺れた。カンダタの喉から声が漏れた。
「ケイの存在理由はなんだ?」
光弥が話していた。塊人の根源にあるもの。行動原理は全てそこからきているのだと。
更に弱く、大気が揺れた。ケイが息を呑み、吐いたせいだ。そのひと息からケイの敵意がなくなった。
手応えはある。だが、まだ喜べない。もうひと押しだとカンダタは口を開く。
「ケェイ!」
洞窟の入り口に立った清音がわざとらしく重ねてきた呼び声はカンダタの声を上乗せし、ケイには届かなかった。
支配欲の強い愛情がこもった彼女の声は歪な絆を強めた。
「負けないでぇ!」
なんとも普遍的で誰にでも言える台詞だ。それだけでもケイの敵意は復活する。
引き戻された敵意により他者の声は拒絶されてしまう。これは無理だ。訴えても命乞いをしたとしてもケイには清音以外の言葉は聞こえない。
カンダタが一歩下がればケイは大股で3歩進む。
踵を返してケイに背を向け走り出そうとすれば、いつの間にか清音が立っており、カンダタの顎と彼女の前髪が軽く触れあった。
気配もなく近づいた清音に恐怖を覚え、咄嗟に下がるが反対にはケイがいることを思い出し、2、3歩で踏み止まる。
洞窟の外に出た。あの赤い風景が目に映るが、絶景を楽しむ余裕は残念ながらない。
洞窟の外は岸壁になっており、降りるのは難しい。登ったほうがまだ簡単だ。
ここまで洞窟内を走ってきたので内部の構造が大体つかめてきた。蟻の巣のように枝道が分かれており、進めば行き止まりか外の出口だ。
敢えて降りるほうを選んだ。
ケイも迷わずに追ってくるだろう。そうすれば誤って落ちるかもしれない。
横穴なから身を乗り出し、掴めそうな突出した岩を掴み、足をかける。
横穴は下にも上にもある。いくつもある選択から一番近い横穴から行こうとしていた。
登るより降る方が慎重になる。石を掴む、足をかける。見つけて選ぶのも躊躇する。
そうしているうちにケイも横穴の出口に立ち、カンダタを探す。カンダタは上を目指すだろうと見上げるがいない。
ケイの片手には白い刀がある。岩壁を伝って降るのは困難だ。
そう踏んでいたが、ケイは横穴から跳んだ。
まさか、身を投げ出すとは想像もしていなかった。カンダタは呆気に取られ降りる手を止めてしまった。
口を開き、間抜けに眺めている間にもケイが落下してくる。勢い良く急速に来るのでカンダタは我に返る。
空中に身を任せれば身体の自由は効かない。ケイの奇行に驚愕し、混乱するも冷静に左側へ跳ねるように移動する。
掴む石に、踏む石に目星をつけ、跳ぶ。その瞬間、石を掴めなかった時の想像がちらりと脳裏に映る。選んだ石に見捨てられた絶望が想像から生まれる。
そうした絶望と向き合いながら左側へと移動していく。ケイの刀が届かない所へ。
今なお落下するその最中でケイは白い刀を壁に突きたてた。刀が今にも折れそうな振動をたて、落下する速度は緩やかになり、一時的に止まると白い刀の柄を鉄棒がわりに身体を左右に揺らす。助走がついたところで白い刀を壁から抜きながらカンダタに向けて再び身を投げ出した。ケイはその身ごとカンダタを落下させたようだった。
そうなるとカンダタには術がなく、ケイの裏足が衝突する。
一人と一匹が岩壁が落ちる。急勾配の終わり、つまりは山の根元まで身体をぶつけながら転がる。止められない。
視界は回転し、赤い空と岩壁が脳の処理も追いつかないまま入れ替わる。
その中でケイはしっかりとカンダタを捉え、襟首を掴んできた。
何が何でもカンダタを捕まえたいようだった。そこまで清音に対する執着が強いのだろうか。洗脳とでも言うべきか。
声は届いているはずだ。先程は無反応であったが、なんとか動揺させたい。
回転する視界とともに頭も回転する。ケイに関する記憶をくまなく探る。
いずれ急勾配は終わり、カンダタとケイは山の麓の地面にぶつかった。落下した分だけ衝突が強くなり、全身の内臓が振動し、混ぜ合わせられたような感覚がした。
ケイはそんなことなく、襟首を掴んだままカンダタに跨る。
瑠璃に託すと言っていた白い刀、木目のお面、存在理由、ケイの成分。
「影弥だっ」
記憶が繋がり、閃いて叫ぶ。
その名がカンダタの口から出た途端、ケイの動きは銅像のように止まった。
だからといってケイから敵意が消えるはずもなく、微動だにせずにカンダタを睨む。またカンダタも目線を逸らせず、声も出せぬほど動けなかった。
ふと、掴んでくる手が緩んだ。刹那にカンダタはその手を払い、ケイの胴を蹴る。後ろに下がり、距離をとる。カンダタの後ろには洞窟の入り口がある。走ればすぐだ。
ケイは蹴られても呆然としている。今なら逃げれる。
しかし、カンダタは対峙する。
清音に支配されているケイが自分を取り戻そうとしているとカンダタは推測していた。ただ、沈黙したままではそれも解かれない。疑問が強くなるケイにひと押しする言葉が必要だった。
乾いた唇を舐め、潤す。
カンダタの行動ひとつ、言葉ひとつで大きく変わる。
静寂の中、ほんの僅かに大気が揺れた。カンダタの喉から声が漏れた。
「ケイの存在理由はなんだ?」
光弥が話していた。塊人の根源にあるもの。行動原理は全てそこからきているのだと。
更に弱く、大気が揺れた。ケイが息を呑み、吐いたせいだ。そのひと息からケイの敵意がなくなった。
手応えはある。だが、まだ喜べない。もうひと押しだとカンダタは口を開く。
「ケェイ!」
洞窟の入り口に立った清音がわざとらしく重ねてきた呼び声はカンダタの声を上乗せし、ケイには届かなかった。
支配欲の強い愛情がこもった彼女の声は歪な絆を強めた。
「負けないでぇ!」
なんとも普遍的で誰にでも言える台詞だ。それだけでもケイの敵意は復活する。
引き戻された敵意により他者の声は拒絶されてしまう。これは無理だ。訴えても命乞いをしたとしてもケイには清音以外の言葉は聞こえない。
カンダタが一歩下がればケイは大股で3歩進む。
踵を返してケイに背を向け走り出そうとすれば、いつの間にか清音が立っており、カンダタの顎と彼女の前髪が軽く触れあった。
気配もなく近づいた清音に恐怖を覚え、咄嗟に下がるが反対にはケイがいることを思い出し、2、3歩で踏み止まる。
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