糸と蜘蛛

犬若丸

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6章 盤上の外で蜘蛛喰い蝶は笑う

改変 5

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 塊人からの悲鳴はなかった。逃げるものも少ない。これが生きてる人との違いなのだと赤眼の少年はぶつけた尻を擦りながら思った。
 蝶男が継ぎ接ぎのロボットと表現した意味がわかった気がする。
 彼らは考えることができない。その上、命を持たない塊人は危険に関して鈍い。自身の消滅に無関心な奴もいる。
 白鬼が塊人なのどう噛み砕いても頭をつぶされても手足を切断され半端に生き残ったとしても逃げない、抵抗しない。
 蝶男が言っていた。精度が低い塊人は命令に忠実さが、命令以外のことはしない。白鬼たちが襲ってきても命令されていないから逃げない。
 唯一、命令を下せる弥は白鬼が見えた途端、背を向けて本殿へと避難していった。その弥についていく塊人も何人かいる。
 白鬼が掘って空いたトンネルから異形の頭を持った女子生徒が後から出てきて取りこぼした塊人をことごとく破壊していく。
 「間に合った?」
 4人の女子生徒生と一緒に来ていたのは清音で蝶男に声をかけた。
 「丁度いいよ。ありがとう。あの黒猫はまだ来てないね」
 「うん!カンダタと運んでるから」
 清音の弾んでいる声。純粋な素振りが望ましい。少年は自身の存在を隠すように深く俯く。
 「なら移ろうか」
 小舟から浅橋に上り、本殿の玄関口に立つ。後には赤目の少年を含めた清音たちが待機している。それらを見渡しながら告げる。
 「清音は白鬼と彼女たちの世話お願いするよ」
 「あいつはどこ?」
 蝶男が指示している最中に光弥が咲いている。
 「弥なら本殿に逃げたよ。白鬼が彼を追い詰めてる。場所は子供部屋だよ」
 話を中断させたわりに光弥の返答は素っ気なく、「そうか」とだけで終わった。
 第4層の喫茶店で出会った時とはまた違う気まずさが光弥にあった。あの時は相手との距離が掴めず、喋るのも相手の目に怯えながら走っていた。
 そこに立つ光弥はその怯えがない。怒っているわけでも悲しんでいるわけでもない。緊張し、引き締まった顔は喜怒哀楽のどれでもない表情だ。
 「なら光弥は弥をお願いしようかな。アカメ君は光弥についてあげて」
 唐突に貰った指示に赤目の少年は反射的に頷いたが、会話もなく、目も合わせたことのない相手と二人っきりにさせられた。あまり乗り気がしない。
 光弥は少年にも一瞥もくれない。人との付き合い方もわからず、でも声はかけないといけないもどかしい態度とは一変している。
 蝶男はどうするのか聞きたかったが、光弥が早足で本殿の中に入っていくので、少年は彼についていかなければと遅れないよう急ぎでついていく。
 「鬼も貸そう」
 去る2人に向けて行った蝶男の声色は軽快に跳ねているようにも聞こえた。
 それに対して光弥はやはり何も答えなかったが、了承はしているのだろう。
 少年の隣に1体、光弥の隣に1体、白鬼がぴったりとくっついても光弥は無反応で嫌がる様子もなかった。
 この白鬼にも人としての人生を暮らしていたのかなと少年は思いを馳せる。
 白鬼は人間の魂と鬼を生きたまま混ざり合わせたものだ。その技術は荒く、白糸と白鋏がなければ作れないらしい。
 蝶男の過去やハザマの歴史など少年はあまり聞かないが、蝶男が白糸と白鋏を使えていた時代と言うことはそれなりの大昔だ。それこそ少年の母、紅柘榴が生まれる前の時代だろう。
 白鬼はその頃に作ったものだと言う。
 身体能力も身体の大きさも黒い鬼よりも上だ。だからといって量産できるものではないから長い間隠し持っていたのだという。
 蝶男は白鬼も塊人と同じロボットとして扱っているような口調であった。赤眼の少年には割り切れそうにない。
 人としての尊厳を奪われた鬼に同情したいが、人の心も記憶も奪われたこの子は少年が撫でようとしただけで噛み付いてくる。鬼としての本能が強いのだ。
 白鬼は地下へと光弥たちを案内する。
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