糸と蜘蛛

犬若丸

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6章 盤上の外で蜘蛛喰い蝶は笑う

改変 9

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 清音の指示のもと白鬼は必要なものとそうではないものを分けながら瓦礫と亡骸を片付ける。ゴミをゴミ捨て場に持って行く。そんな白鬼の姿を赤眼の少年は地下の中で想像していた。
 地下の通路の片隅に小さく体育座りをしていた。目の前にはシャッター。
 赤眼の少年は輪廻を見たくてここにいるが、シャッターが遮っている。
 ハザマの塊人が殲滅され、争いとも呼べない殺戮の後を白鬼が後片付けをする。その間に蝶男が次に移行する為の準備をする。赤眼の少年に指示はされず、暇をもて遊んでいた。
 特にそれが苦痛というわけではなかった。
 光弥が言っていた「輪廻の引力」と言うものがわかってきた。
 何も見ず、聞かず、考えずにいると少年の身体が浮いて風に乗り、シャッターを超え歯車が噛み合う輪廻に吸い込まれそうになる。
 自然の理は絶対だ。鹿は草を、狼はお肉を食わねば生きていけないし、死んだら菌類が分解して地になる。魂は現世から流れ、輪廻の引力に引かれて生を受ける。
 それが正しいサイクルなのに赤眼の少年はずっと留まってている。心残りはない。生まれてすらいないのにあるはずもない。なのに、輪廻に行けない。少年は理の外にいる。
 「何してるの?」
 心地良い引力を感じていたのにそれを邪魔するのは清音だった。
 「別、に」
 萎縮してしまう。声をかけないでほしいとはっきり言えない。緊張で舌が回らない。
 口籠った少年の発言を清音は馬鹿にしなかった。いつもいつも強張って喋れなくなる少年を散々に弄ってきたのでいい加減に飽きていた。
 「そういえば君のお父さんを連れてきたのよ」
 小馬鹿にした笑みを浮かべて話す内容は心底どうでもよかった。ただ、奴のことを父と言われ、生理的な嫌悪が症状として現れた。
 「会いたい?」
 首を振って否定する。彼女への返答は大体肯定しておかないと酷い目に遭うのでいつもなら会いたくなくても「会いたい」と答えなければならない。
 清音は機嫌が良いのか少年の否定を咎めたりはしなかった。その代わり、わざとらしく残念そうにいつもより高い声を上げる。
 「えぇ!どうしてよ!せっかくの親子の再会なのに」
 「親子、じゃ、ないし」
 「冷たくない?酷いよ。だって唯一の肉親なんだから」
 拳を強く握る。皮膚が赤くなり、血が滲み、爪が食い込む程に強く握る。
 清音は少年の尊厳を潰したいだ。腹の内は理解しているし、奴の現状も知っている。その上で会わせようとする意地の悪さは今に始まったことではない。感情を荒らげるのは馬鹿げていると達観する。
 「会いたくないの?」
 黙ってやりすごそうとするも清音は許さず、低くなった声色に肩がびくりとはねる。
 否定し過ぎてしまったかもしれない。機嫌が良いからと油断した。
 だが、どうしても会いたくない。あいつと対面するくらいなら清音にいくら殴られてもいいかもしれない。
 「会いたくない」
 はっきりと告げた自分の意思。
 俯いて答えていた。目を合わせるのも怖い。彼女の形相は想像できる。
 「会いたくないの?」
 2度目の同じ質問は更に低く、想像通りの顔で話す。
 「会いたいでしょ。親子なんだから」
 恐らくこれが最後だ。これの返答で決まる。
 少しだけ悩む。会うだけならそれだけでいい。言葉を交わすこともないし、目を合わすこともしない。
 迷いが生まれたが、少年の返答は変わらなかった。首を振った少年に清音の機嫌は一気に変わる。
 弱い少年に清音の手が伸びかけた。
 「蝶男が探してたよ」
 そんな2人に割って入ったのは光弥だった。
 薄暗さで色が見えずらい、彼は胸・手と血塗れだった。誰の血かは言わなくても知っている。
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