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7章 赤い珠が映す空想未来
白い鬼、幼い記憶 4
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乳母さんと兄は血の繋がった親子だが、私にその繋がりはない。だってそんなものなくても乳母さんは優しいし、兄はちょっぴり意地悪だけど怖い夜の廁には一緒に行ってくれる。餅も焼いてくれる。
私が赤ちゃんの頃、私の世話係として塀の外から来たらしい。
塀の外で乳母さんは酷い目に遭って自死を選ぼうとした時、蝶男に助けてもらったと嬉しそうに話していた。
その酷い目と言うのは何かと聞いても「下敷きにされる、恐ろしいところ」と言って詳しいことわ教えてくれない。
塀の外は地獄そのもので、子供を抱えて生きていくことができない。そんな時に出会った蝶男はまさに菩薩に見えたと言う。
だから蝶男の言う事は絶対だし、従うように日頃から口うるさく言い聞かせられていた。そうすれば恐ろしい事はないのだと。
私は乳母さんと兄が大好きだからずっと一緒にいたい。
だから、乳母さんを悲しませるようなことをしたくなかった。外は恐ろしいと聞かされても外を知らないと想像もできない。
できなくてもそれで良い。私は二人がいる所が好きだ。
採血が終わった後は薬湯を飲ませられた。蝶男は「試薬」と薬の効果を説明してくれるけど、意味がわからないから適当に相槌して聞き流していた。
薬を飲んだ後は経過観察と告げられて、座敷牢の中でお手玉や貝合わせとかで時間を潰す。
夕暮れ近くなるとお腹の中がむずむずむ、かむかして一人遊びをしようとしても集中できない。
夕食の時間になっても食欲は湧かず、布団の中に潜っていたが、まだ寝るには早い時間で頭が冴えて眠れない。
寝返ると牢があり、外には蝶男が立って瞬きもせずじっと私を見ていた。
「気持ち悪い」
「さっき聞いたよ」
体調の悪さを伝えても蝶男はそこから動かない。
こんこん、と離れの戸が叩かれた。中に入ってきた乳母さんの手にはお盆があって、その上には粥やたくあんがあった。
この時間帯になると私はお腹空かせていて、食事を用意する乳母さんの傍に寄っては空腹を訴えて困らせている。
今はその元気がない。
「やはり今夜は無理そうだ」
蝶男が私の体調を伝えると乳母さんは残念そうに眉を垂らした。
私は座敷牢の外にいる二人を眺めていた。
時間が経ってもお腹がむずむずして胸がむかむかしている。私だけが座敷牢の中に入るのが更に寂しくさせた。
「乳母さん」
小さく布団の中にいても呼び声は乳母さんにも聞こえた。
「傍にいて欲しい」
体調のせいでもあるが、私の声が小さかったのは恥ずかしさもあったからだ。それでも寂しくて乳母さんにお願いしてみた。
乳母さんはまた困った顔をして蝶男を見つめた。蝶男は縦に首を振るう。
私以外、座敷牢の中に入ってはいけない。蝶男の意図は幼くても伝わって、私は掛け布団を強く握った。
「中に入らなくていいから」
視界に入っているだけでもいい。これなら蝶男も許してくれる。なのに乳母さんは「無理よ」と告げる。
「あの子を一人にするもの。ここには彼女もいる」
乳母さんは蝶男を信用しているが、私は彼女よりも乳母さんが好きだ。安心して眠れるのも乳母さんの隣だ。蝶男じゃない。
乳母さんに私の思いは届かず、息子の方を優先する。
涙目になる私に乳母さんは「ごめんね」と謝っても、早く息子のもとに帰りたいようで、私から目を逸らしてまた屋敷へと戻っていく。
私が赤ちゃんの頃、私の世話係として塀の外から来たらしい。
塀の外で乳母さんは酷い目に遭って自死を選ぼうとした時、蝶男に助けてもらったと嬉しそうに話していた。
その酷い目と言うのは何かと聞いても「下敷きにされる、恐ろしいところ」と言って詳しいことわ教えてくれない。
塀の外は地獄そのもので、子供を抱えて生きていくことができない。そんな時に出会った蝶男はまさに菩薩に見えたと言う。
だから蝶男の言う事は絶対だし、従うように日頃から口うるさく言い聞かせられていた。そうすれば恐ろしい事はないのだと。
私は乳母さんと兄が大好きだからずっと一緒にいたい。
だから、乳母さんを悲しませるようなことをしたくなかった。外は恐ろしいと聞かされても外を知らないと想像もできない。
できなくてもそれで良い。私は二人がいる所が好きだ。
採血が終わった後は薬湯を飲ませられた。蝶男は「試薬」と薬の効果を説明してくれるけど、意味がわからないから適当に相槌して聞き流していた。
薬を飲んだ後は経過観察と告げられて、座敷牢の中でお手玉や貝合わせとかで時間を潰す。
夕暮れ近くなるとお腹の中がむずむずむ、かむかして一人遊びをしようとしても集中できない。
夕食の時間になっても食欲は湧かず、布団の中に潜っていたが、まだ寝るには早い時間で頭が冴えて眠れない。
寝返ると牢があり、外には蝶男が立って瞬きもせずじっと私を見ていた。
「気持ち悪い」
「さっき聞いたよ」
体調の悪さを伝えても蝶男はそこから動かない。
こんこん、と離れの戸が叩かれた。中に入ってきた乳母さんの手にはお盆があって、その上には粥やたくあんがあった。
この時間帯になると私はお腹空かせていて、食事を用意する乳母さんの傍に寄っては空腹を訴えて困らせている。
今はその元気がない。
「やはり今夜は無理そうだ」
蝶男が私の体調を伝えると乳母さんは残念そうに眉を垂らした。
私は座敷牢の外にいる二人を眺めていた。
時間が経ってもお腹がむずむずして胸がむかむかしている。私だけが座敷牢の中に入るのが更に寂しくさせた。
「乳母さん」
小さく布団の中にいても呼び声は乳母さんにも聞こえた。
「傍にいて欲しい」
体調のせいでもあるが、私の声が小さかったのは恥ずかしさもあったからだ。それでも寂しくて乳母さんにお願いしてみた。
乳母さんはまた困った顔をして蝶男を見つめた。蝶男は縦に首を振るう。
私以外、座敷牢の中に入ってはいけない。蝶男の意図は幼くても伝わって、私は掛け布団を強く握った。
「中に入らなくていいから」
視界に入っているだけでもいい。これなら蝶男も許してくれる。なのに乳母さんは「無理よ」と告げる。
「あの子を一人にするもの。ここには彼女もいる」
乳母さんは蝶男を信用しているが、私は彼女よりも乳母さんが好きだ。安心して眠れるのも乳母さんの隣だ。蝶男じゃない。
乳母さんに私の思いは届かず、息子の方を優先する。
涙目になる私に乳母さんは「ごめんね」と謝っても、早く息子のもとに帰りたいようで、私から目を逸らしてまた屋敷へと戻っていく。
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