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7章 赤い珠が映す空想未来
白い鬼、幼い記憶 5
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また蝶男と二人になって、ついに私は涙を落としてしまった。それでも蝶男からの慰めもなく、寂しくて泣いている女の子をひたすらに見つめていた。
静かな座敷牢に私の泣き声が響いて、さらに孤独が目立つ。
私が離れを嫌う理由がこれにあった。
静かすぎる。乳母さんや兄がいる屋敷にはいろんな音がする。私と兄が遊ぶ笑い声、乳母さんが家事に忙しく動き回る足音。
誰もいない離れではそれらはいけない。
むずむずとむかむかは一向に治らない。寝返りをすれば良くなるかもと思って身体の向きを変えても何も変わらない。
ずっと、大人になっても一生、このむずむずとむかむかしたまま生きなくちゃいけないんだ。
私が不安になって、怖くなっても蝶男は私を見つめるだけだった。
蝶男は動かないし、食事も取らない。呼吸も心臓の音すら聞こえない。別の生き物なんだと思い知らされて、更に怖くなる。
生きてるのか死んでるのかわからない瞳に見つめられ、私も見つめ返していると不意に冷静になって涙が引っ込んだ。
色んなことを考えすぎて不安になって強くなって泣いてしまう。だったら違うことでむかむかとむずむずを誤魔化してしまおう。
「蝶男は寝ないの」
私は牢の外にいる生き物ではないものと会話をすることにした。
「睡眠が必要ないからね」
「私も眠れない」
「紅柘榴は寝たほうがいい」
それができないから困っているのに。
時折、蝶男は話が噛み合わない。
そんなことがよくあるので今更気にしない。
「お話がしたいの」
素直に言うと蝶男は首を傾げた。
「話といっても、何を話したいんだい?」
話すといっても相手との共通点がないと会話は続かない。
私は天井の木目を見つめながら考える。
「女の人なのに、どうして蝶男って呼ばれてるの」
日頃から疑問に思っていたものを会話として使うことにした。
「僕らのような存在よね、便利なんだよ。見た目も性別も人格の好みに変えられる。まぁ、その好みとやらも軽薄なんだね」
よくわからない。
「蝶男は女の人が好きだから女の人になったの」
「好きとかではないよ。こちらのほうが融通が利くからさ」
「女も男も変わらないのに変なの」
失礼だと思える私の返しにも蝶男は黙って微笑んで聞き流した。
相手が黙ってしまったので、そこで会話が終わったのだと気づいた。終わった後の沈黙が気まずくて、次の質問をする。
「なんで私だけ鬼になれるの」
これもずっと疑問だった。
私が鬼になれるから侵入者が来ても退治できるし、乳母さんはそんなところを褒めてくれる。頼られるのは嬉しい。鬼になるのに不満はない。けど、乳母さんや兄は鬼になれないのか私にはわからなかった。
微動だにしなかった蝶男が徐ろに腰を下ろして、一回だけ息を吐いた。
「翡翠の話は覚えてるかい?」
「私の前世」
ずっとずうっと昔の話、私は翡翠と言う別の人間だったらしい。その子と翠玉という子が地獄というものを作ったらしいが、地獄を見たことがないので実感がわかない。
「翡翠と翠玉はね、元気な子供までよく手を開いたよ」
「私よりも元気なの」
「同じ位かな」
その子と鬼、関係しているのかなと蝶男の話を聞く。
「事情があってね、不都合だからと翡翠の魂に鬼を混ぜた」
「事情って何、不都合って何」
しかし、蝶男はこの質問には答えなかった。代わりに鬼の説明を続ける。
「魂と混ざり合っているから、輪廻に流された後も君に鬼が引き継がれているんだよ。もう寝なさい」
会話はこれで終わりだと言うように蝶男は沈黙し、立ち上がる。
「寝れないんだって」
「横になるだけだよ」
冷たくなった気がする。
拒絶するような態度はもう会話をしてくれないのだとわかった。むかむかむずむずは変わらず私の中にいる。こんな状態では眠れない。
「ねぇ、もっとお話ししたい」
私が強請っても蝶男は沈黙で返す。
蝶男も一緒にいてくれないんだ。
なんだか悔しくなって、布団を頭まで被せて無理にでも寝てやろうとした。
結局、その日の夜は眠れなかった。
静かな座敷牢に私の泣き声が響いて、さらに孤独が目立つ。
私が離れを嫌う理由がこれにあった。
静かすぎる。乳母さんや兄がいる屋敷にはいろんな音がする。私と兄が遊ぶ笑い声、乳母さんが家事に忙しく動き回る足音。
誰もいない離れではそれらはいけない。
むずむずとむかむかは一向に治らない。寝返りをすれば良くなるかもと思って身体の向きを変えても何も変わらない。
ずっと、大人になっても一生、このむずむずとむかむかしたまま生きなくちゃいけないんだ。
私が不安になって、怖くなっても蝶男は私を見つめるだけだった。
蝶男は動かないし、食事も取らない。呼吸も心臓の音すら聞こえない。別の生き物なんだと思い知らされて、更に怖くなる。
生きてるのか死んでるのかわからない瞳に見つめられ、私も見つめ返していると不意に冷静になって涙が引っ込んだ。
色んなことを考えすぎて不安になって強くなって泣いてしまう。だったら違うことでむかむかとむずむずを誤魔化してしまおう。
「蝶男は寝ないの」
私は牢の外にいる生き物ではないものと会話をすることにした。
「睡眠が必要ないからね」
「私も眠れない」
「紅柘榴は寝たほうがいい」
それができないから困っているのに。
時折、蝶男は話が噛み合わない。
そんなことがよくあるので今更気にしない。
「お話がしたいの」
素直に言うと蝶男は首を傾げた。
「話といっても、何を話したいんだい?」
話すといっても相手との共通点がないと会話は続かない。
私は天井の木目を見つめながら考える。
「女の人なのに、どうして蝶男って呼ばれてるの」
日頃から疑問に思っていたものを会話として使うことにした。
「僕らのような存在よね、便利なんだよ。見た目も性別も人格の好みに変えられる。まぁ、その好みとやらも軽薄なんだね」
よくわからない。
「蝶男は女の人が好きだから女の人になったの」
「好きとかではないよ。こちらのほうが融通が利くからさ」
「女も男も変わらないのに変なの」
失礼だと思える私の返しにも蝶男は黙って微笑んで聞き流した。
相手が黙ってしまったので、そこで会話が終わったのだと気づいた。終わった後の沈黙が気まずくて、次の質問をする。
「なんで私だけ鬼になれるの」
これもずっと疑問だった。
私が鬼になれるから侵入者が来ても退治できるし、乳母さんはそんなところを褒めてくれる。頼られるのは嬉しい。鬼になるのに不満はない。けど、乳母さんや兄は鬼になれないのか私にはわからなかった。
微動だにしなかった蝶男が徐ろに腰を下ろして、一回だけ息を吐いた。
「翡翠の話は覚えてるかい?」
「私の前世」
ずっとずうっと昔の話、私は翡翠と言う別の人間だったらしい。その子と翠玉という子が地獄というものを作ったらしいが、地獄を見たことがないので実感がわかない。
「翡翠と翠玉はね、元気な子供までよく手を開いたよ」
「私よりも元気なの」
「同じ位かな」
その子と鬼、関係しているのかなと蝶男の話を聞く。
「事情があってね、不都合だからと翡翠の魂に鬼を混ぜた」
「事情って何、不都合って何」
しかし、蝶男はこの質問には答えなかった。代わりに鬼の説明を続ける。
「魂と混ざり合っているから、輪廻に流された後も君に鬼が引き継がれているんだよ。もう寝なさい」
会話はこれで終わりだと言うように蝶男は沈黙し、立ち上がる。
「寝れないんだって」
「横になるだけだよ」
冷たくなった気がする。
拒絶するような態度はもう会話をしてくれないのだとわかった。むかむかむずむずは変わらず私の中にいる。こんな状態では眠れない。
「ねぇ、もっとお話ししたい」
私が強請っても蝶男は沈黙で返す。
蝶男も一緒にいてくれないんだ。
なんだか悔しくなって、布団を頭まで被せて無理にでも寝てやろうとした。
結局、その日の夜は眠れなかった。
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