584 / 644
7章 赤い珠が映す空想未来
白い鬼、幼い記憶 9
しおりを挟む火鉢を挟んで兄は餅を焼いてくれた。
「今夜は俺と一緒に寝ようか」
焼ける餅を待ちながら兄が言ってきた。
「いいの」
歓喜で声が跳ねたが、すぐに冷静になった。
「でも乳母さんに怒られるよ」
兄は頭を振って私の心配事を否定する。
「あの人も蝶男もこの今夜は別のとこで寝るよ」
顔は笑っているのになんだか悲しんでいるように見えた。
笑いながら悲しんでいる兄の顔を見ていると辛くなってきた。不意に立ち上がると兄の頭をくしゃくしゃと撫でる。背が高くていつもは届かない頭は座っているお陰で容易に届く。
一回りも小さい娘に撫でられた兄は居た堪れない気持ちになるものの、乳母さんの時のように振り払う事はしなかった。
寧ろ、もう少しだけ二人の時間が続けばいいと願っていた。
その夜、兄が言っていた通り乳母さんは私たちの前には出てこなかった。なので、夕餉は餅となって兄は「いつもより多く食べれるな」と悪戯っぽく笑って、私も嬉しくなった。
囲炉裏の傍で二人分の布団を持ってきて、内緒話をしているうちに眠りについた。
独りの夜が続いていたから、兄の視界に入っているとわかると心底安心できた。
眠りも深くなっていた。なのに目が覚めたのは兄の怒声があったからだ。
「何しに来たんだよ」
私は目が覚めて傍にいたはずの兄がいなくなってることに気づいて不安になった。でも兄の声で起きたのだから近くにいるはずだ。
私は布団から出た。
縁側の方から聞こえてきた。兄が声を上げたのは一度きりで後は聞き取れない小さな話し声で誰かと話している。
なんとなく、私が起きていると気づかれたくなくてきしむ床に気をつけながら四つん這いで縁側へと向かった。
夜なのに縁側の戸は開いていて、冷たく澄んだ空気が冬の月をより美しく夜空を飾っていた。その満月を眺めていたのは蝶男で、縁側に腰掛け月見を楽しむように微笑む。
呑気な蝶男に対して兄は真逆で、今にも襲ってしまいそうな剣幕をしていた。
「君は自由にしていいよ。塀の外に出ても構わない。ここでの生活を外部に話しても良い。ただ戻って来てはいけないよ」
「紅柘榴も連れて行く」
「それはいけない」
兄の決意よりも硬い物言いだった。
「あの子は私のものだ。遠くの昔から決まっていたんだよ」
私は月明かりの下に出ないよう影の中に隠れて耳を済ませる。
兄の唇が震え、それから大きく開いた。
そこから声が発する前に蝶男が兄の口を塞いだ。月に照らされた微笑はぞっとするほど怖くて、目が離せないほど美しかった。
「静かにしないと、ほら起きただろう」
蝶男と目が合って影の中に隠れていた私は驚いて一歩下がる。更に影の中に隠れようとしても既に私は見つかってしまった。
「ごめんな。起こしたな」
兄は私に近寄ってきて四つん這いで小さくなっている私を立ち上がらせた。
「なんの話をしてたの」
「明日になったら教えるよ。独りにしてごめんな布団に入ろう」
言いようのない不安があったけど、兄が手を繋いでいてくれたからそれでいいと思った。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる