糸と蜘蛛

犬若丸

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7章 赤い珠が映す空想未来

恋する鬼 6

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 それを見届けてから駆け足で押し入れに行くと勢いよく戸を開ける。
 押し入れの中の彼は寒そうに震えていて、身体は火傷してしまうんじゃないかと心配になるくらいに熱かった。
 「こんなところに置いていってごめんね」
 彼を抱き締めればすり寄せてきて胸の奥から湧く謎の感情が溢れた。
 歩けるかと聞けば辛そうに首を横に振った。
 鬼になれば楽に彼を運べる。背中の傷が開く心配もない。けど、今の彼は虚ろでも意識があるみたいで、そんな彼の前で鬼になるのは恐ろしかった。
 夢か現かの状況もわからない彼は這いつくばりながらの押し入れから出て、包めてくるあった布団も自然と剥がれた。
 彼に肩を貸して、よろよろとした歩調に合わせて囲炉裏に向かう。
 なんとか彼を連れて行くと囲炉裏に炭を足した。
 布団を敷き、彼が寒くならないよう何枚も被せた。五枚目から彼が苦しそうに呻いたので二枚ほど減らした。
 次第に震えがなくなって、穏やかに寝息をたてる。
 日はまだ高い。
 今日の難問を超えたからまた疲労がどっとやってきて、眠気が強くなって彼の隣で寝てしまった。
 彼の寝息は不思議で私に安息を持ってきているようだった。
 その間に雨が降ってきて、外に干した布団を濡らしてしまった。

 門のない塀をどうやって入ってきたのか、猫が迷い込んできた時期があった。
 雄と雌の猫だった。乳母と二人、二匹の猫が重なっているのを眺めていたら兄に怒られた。
 兄に怒られるのは珍しくて、嫌な気持ちになったが、あれがどういう意味なのか今ならわかる。
 その数ヶ月後、屋敷の軒下で雌猫が赤ちゃんを産んだいたのを発見した。
 それを乳母と兄に報告すると二人は一目でも見たいと猫の住処を尋ねた。
 丁度毛づくろいされているところで、私たちは幸せそうな猫一家を穏やかな気持ちで眺めていた。
 「あの時の子ね」
 ほう、と息を吐くように乳母が呟いた。
 異性に対して嫌悪感を抱いていた乳母であったが、そういった行為に対しては寛容的なところもあった。
 私の着付けを教える時も相手に身を任せる大事さを話していた。
 「世の中はね、どうしようもなく許せない人もいるけどそうじゃない人もいるのよ。その人の為なら身なりを整える面倒も面倒じゃなくなるものよ。いつまでも綺麗だと思われたいから」
 蝶男に言われたから気になったわけじゃない。それを思い出したからだ。
 久しぶりに肌襦袢以外のものを箪笥から引っ張り出した。花丸文の赤い着物だ。
 崩れないようにしっかりと紐を結んで帯を巻いた。
 自身の身体を見下ろして後ろの結びを確認する。変なところはないとわかると彼の元に戻った。
 彼はまだ眠っていて、肩を揺すると僅かに反応した。ご飯は食べれるかと聞いたら無理だと言うように首を振った。
 でも、飲まず食わずと言うわけにはいかないから昨日のように無理に食事を取らせた。二口ぐらいに水を飲んで、六口ほど米を食った。
 私にご飯を食べさせられた彼は苦しそうにしていたが、しばらくして落ち着いた。
 熱はまだあるようだったが、下がっているようだ。寝顔も穏やかになっている。刀傷も塞ぎつつあるようだった。
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