糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
596 / 644
7章 赤い珠が映す空想未来

恋する鬼 7

しおりを挟む
 昼は彼の横で眠れたものの夜のほうが眠れなくなった。
 夜になると体調が変化してまた悪夢の中にいるようだった。
 汗の雫を拭いてあげると頬がぴくりと動いた。なんとなく、その寝顔が可愛いと思えてしまう。
 熱も上がって汗の量も増えた。冷たい水が必要だった。
 たらいのぬるくなった水を交換しようと立ち上がると彼が布団から手を伸ばして私の手を掴んだ。
 目蓋の合間からうっすらと赤い瞳が見えていたが、私を見ていないみたいだった。
 「ひとりにしないで」
 息苦しそうに呟いた。
 私を母親だと勘違いしているようだった。
 彼はまだ夢の中だ。発言は否定せず諭すように話す。
 「水を交換しに行くだけだからすぐに戻るわ。安心して」
 彼は納得できず、嫌だと首を振った。掴む手は強くなって緩めようとしない。
 「いつも」
 乾いた唇から息苦しそうな言葉で私に言う。声があまりにも小さいから口元まで耳を寄せて、一音も逃さないと耳を澄ませる。
 「いつも、みたいに抱きしめて」
 昨晩までの記憶が残っているのか、私は嬉しくなった。
 「仕方ないわね」
 そう言ってもまんざらではなく、昨晩と同じように彼を抱きしめた。
 外では雨が降っている。昼間から続いている雨だ。吐息は二つ、雨音は大きい。静寂のような音が静かに流れる。
 なのに静寂を否定するような音が鳴る。彼からの心音だ。身体を密着させているからよく聞こえる。
 この音が好きだと理由もなくそう思った。
 悪夢にうなされていた彼もいつの間にか安らかに眠った。



 この音が好きだと理由もなくそう思った。
 悪夢にうなされていた彼もいつの間にか安らかに眠った。

 朝になると雨も収まり、厚い曇天はどこかへ消えて日差しが草についた雨玉をきらきらと照らした。
 まだ眠っている彼の為に食事の準備をしようと台所に立った。
 ひと通り終えてから自身の身だしなみを思い出して、着替えをする。
 彼の代わりの服も必要になる。この三日間、少しずつ彼の黒衣を直していた。刀傷も治ってきたしそろそろ着させてもいいかもしれない。
 黒衣を持ち、寝ている彼の元へと戻った。
 囲炉裏の彼は起きていた。上半身を敷布団から起き上がらせて戸惑う赤い瞳と目があった。
 「やっと起きたのね」
 彼が起きている。悪夢にうなされていない。現実をしっかり認識している。私を見ている。
 満開の笑みが私の顔に広がった。
 迷子のように戸惑う彼の目線が私の手元に映った。私が持っているのが気になるようだった。
 「汚れてたから直したのよ」
 そう言いながら彼の傍まで近寄っていくとなぜか彼は床に尻をつけたまま後退して、火が消えた囲炉裏に落ちてしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...