糸と蜘蛛

犬若丸

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7章 赤い珠が映す空想未来

空想未来に向かって 1

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 なるべく、人目につかないように野宿をするのが常であるが、そうしない場合もある。紅玉の情緒が危うい時だ。
 宿を一人分取り、一人分しかない布団で紅玉を寝かせた。
 森林を抜けた後、紅玉はまた意識が混乱し、なんとか宿に着いたものの布団に寝ると緊張の糸が切れ、悪夢へと沈んだ。
 夢の中ではあの三人が笑っていた。私は死んだままで。
 それが黒く塗りつぶされて、三人を覆い隠す。
 私は隠れた三人を探して走り出したが、代わりに現れたのは影弥に似た男で、こいつが蝶男だと知った。
 夢の中で初めて対面した蝶男は影弥とそっくりな顔なのに影弥とは全く似ていない。そんな矛盾した第一印象だった。影弥と同じように笑う顔は不気味で気色悪かった。
 私の妹をどこにあったの。
 蝶男は問いかけに答えずに手を差し伸べた。私は苛立って手を振り払う。
 瞬時に流れたのは悪夢と幸福が交差するような最悪な気分にさせる未来の予測。私の目では捉え切れない数々の夢が無理矢理、私の頭に流れてくる。
 人里離れた海の荒屋で過ごす二人。首を切って自殺する赤い瞳。
 産ぶ声を上げる赤子を抱きしめる妹。その隣には赤い瞳の男。
 血塗れになった赤子を裂かれた腹から取り上げる死んだ男。
 響く赤子の泣き声。
 それらが私の脳裏に焼きついて離れなかった。
 悪夢の最後には「紅柘榴」と呼ぶ赤い瞳の男の声がした。

 目が覚めると早朝の鳥が鳴いていた。
 どこから鳴いているのか目を回して見ても天井しか見えなかった。
 いつもの野宿ではないと焦りそうになるも影弥が宿を取ったのだとすぐに思い出した。
 「七日も寝ていたんだよ」
 部屋の片隅で影弥が紅玉の目覚めを持っていた。
 眠るはずのない幽霊が七日間の夢を見ていた。驚くことなのだが、不思議とそういう感情はなかった。寧ろ冷静な部分が強かった。
 「七日もあったら収穫はあったよね?」
 妹の居場所がわかったのだ。塀の観察とか、人の出入りとか、蝶男か妹を探すとか、やれることはたくさんあったはずだ。
 しかし、影弥が気まずそうに俯いたので何もやっていないのだと分かった。
 「七日もあれば色々できたじゃん」
 「こうが心配だったんだよ」
 呆れてあるが、紅玉の身を案じてくれるのはこの世で
で影弥しかいないので責めるのができなかった。
 目を閉じ、大きく深呼吸をした。そして目を開け、天井見つめたまま影弥に話す。
 「心配することないわ。夢を見てたの」
 夢の中で見たものを淡々と話した。
 「あれは未来だった」
 あの夢が未来で起きる出来事だと確信して言えるのか紅玉もわからなかった。内容はほぼ抽象的なもので、人物の背景も真っ白だった。
 曖昧でもあれは未来だ。未来で、紅玉の妹は赤目の男との間に赤子を作る。そして二人を失う。しかし、もう一つの未来もあって、何も失わない未来だ。紅玉が見た夢では別々の二つの未来が同時に存在していた。
 「それは可能性だよ」
 夢の話を一通り話を終えると影弥は部屋の隅に居座ったまま解説する。
 「こうが見たのは確かに未来だ。糸の能力の一つだよ。過去から未来までは一本で繋がってるからね」
 「本当になんでもありなんだね」
 糸とはなんなのかと影弥に聞いたことがある。影弥はそれを想像の力だと答えた。紅玉ができると思えば可能になってしまうのだと。
 なんだか曖昧で半ば信じていなかった。が、未来が見えると言う突拍子もない事象が真実味がした。
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