糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
622 / 644
7章 赤い珠が映す空想未来

一寸先は深淵 1

しおりを挟む
 秋から冬までを想定して考えた紅玉の子供じみた作戦を影弥と話し合い、考えて決めた。
 人食い塀を中心にその周りの町をいくつか選び、さらに紅玉が実行する箇所を選んだ。
 一カ所だけに留まらず、複数に拠点を置いて回る。そうすれば蝶男に紅玉たちを特定されにくく、赤眼の男からも目を逸らせる。
 実行すると決めた際、未来視では特に変化はなかった。良い結果も悪い結果も紙一重になったままだ。変わったとすれば赤眼の男が妹を連れ出す時期が早まったことだ。彼は順調に影弥が言った日時に妹を人食い塀から出すだろう。
 「あとは私たち次第なんだ」
 気合を入れろと両頬を叩く。
 紅玉を見てくれるのは影弥しかいなかった。自身の存在を知らしめようと大声を出したり、地団駄を踏んだりした。すっかり悪癖になってもそれを認識できたのは影弥だけだ。
 しかし、今からするのは紅玉の足跡を残すようなものだ。紅玉の姿は見えなくてもそこに誰かいると知らせる。
 幽体である紅玉は現世のものには触れられない。
 現世とあちら側の境界線は絶対的なこの世の理だと勘違いしそうになるが、理にも穴もある。
 新鮮な魚や解体される前の肉、果実は境界線が曖昧なので触れられることもある。触れられるが持てないこともある。境界が曖昧ものは大抵そうだ。
 未来視が覚醒してから触れられる曖昧なものが増えた。
 だからこの作戦ができた。
 黄昏時。噂が広まりやすい時間だ。影弥はいない。
 紅玉は再度やる気を入れて、下を見下ろす。木造の屋根から見る黄昏の風景には帰早足で帰路を歩く人たちが通り過ぎていく。
 生きるのに必死な人たちはその境界線の外にいる紅玉を見ようとしない。目に入らないのだから仕方がないが、それが悔しくなる。
 それを仕返してやるのだ。そう思うと緊張とは違う高鳴りがした。
 子供じみた作戦の重要なところは場所と回数だ。なので、それは紅玉に任せられた。
 やりすぎたらダメで、地味になっても噂にならない。丁度、真ん中になるような塩梅でやらないといけない。
 屋根の上に立ち、人の行き交いを観察する。
 男女がすれ違いそうになり、直感が今だと叫んだ。
 腕いっぱいになるまでかき集めた蝉の抜け殻や死骸などを屋根から放り投げた。
 散り際の桜が風で煽られた時のように、枯れた亡骸が桜吹雪となって通行人の頭上に降ってきた。
 前触れもなく亡骸の雨に男も女も関係なく、大きな悲鳴を上げながら慌てふためき、頭や肩に乗ったかもしれないと体中を叩いて必死に死骸を落とそうとする。
 夜が近くなった黄昏の薄暗さでもその様子がよく見えた。
 紅玉にあった緊張はすっかり溶けて惚けた顔でその様を見ていた。
 悪戯ってこんなに楽しいんだ。
 紅玉が提案した作戦は様々な場所で様々な噂を流して、紅玉と影弥が入るかもしれないと臭わせる。そして赤眼の男から目を逸らすのだ。
 大事なのは噂なのだが、怖がらせる噂を流すとすればやはり子供がしそうな悪戯しか浮かばなかった。
 霊感の強い番頭の背中に乗ることもできた。番頭は急な肩こりを不思議がって、紅玉が降りると解消された。そして、紅玉が乗るとまた肩こりが生じてさすがに番頭も気味悪かった。
 その様子がまた面白かったので笑っていると番頭の耳にも聞こえたようで小さく悲鳴を上げた。
 今から眠ろうとした女性の枕をひっくり返したこともある。無防備な瞬間に夜襲をかけられたような気分になって、起き上がり周囲を見るが夜襲をかけた相手はいない。
 誰もいない宵の静寂に女の子の笑い声と走り去る足音が一際大きくなりそして小さくなった。
 そうして些細な怪異が重なり、町中で寝不足や肩こりで悩む人が目立った。寝不足になった町娘は私用で隣町に訪れた際、同じような噂話を耳にして、人ならざる者が広がっていく正体不明の恐怖に背筋が凍った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

処理中です...