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7章 赤い珠が映す空想未来
一寸先は深淵 8
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紅玉と影弥は待ち続けた。
影弥は別の器を用意し、ある屋敷を手に入れると二人の住処はそこに移った。紅玉は深まる冬と溶ける冬を見送った。
未来視は続けていたが、どの未来にも紅玉が望んだ答えはなかった。
未来の糸は現在に続いていて、そこから妹の現状がわかった。
腹が大きくなっていく様子もわかったし、その世話を誰がしたのかも見えてしまう。紅柘榴がどんな顔をしていたのかも紅玉にはよく見えた。
それを見ていた紅玉は、何もできない紅玉は、ただ見ていた。
今までのことを振り返ると紅玉がしてきたのは無意味で、何を成したのか何をしたのかと自問すると何もしていない。
泣く資格もないと涙を堪えて嘆く資格もないと唇を噛んだ。神も仏もいないと知っていたから祈りもしなかった。
無力を噛み締めて冬を越した。ある日、ある未来を見た。
「かげ、その時が来たよ。早く行こう」
そう告げると影弥はいつでも準備ができていたように刀を取り、立ち上がった。
春の日差しが優しかった。
三日ほどの時間をかけて、人食い塀に辿り着き、入りたくても入れなかった中に入った。
入った途端、紅玉は堪らなくなった思いが爆発したように走り出した。
その背中を眺め、影弥は本邸とは別の離れと足を運ぶ。
離れにあったのは座敷牢と小さな檻。血の汚れは落とされず、人間らしい悪臭も残っていた。床に転がった果実を拾う。
それは吉祥果と呼ばれているものだ。
他には医療器具があり、手入れされているようで綺麗なままだった。
その器具を手に持つと遠くから紅玉が呼んでいる。
枯れた花々が倒れた庭の目前には縁側があり、その奥には腹を裂かれ、放置された紅柘榴がいた。
「早くしてっ!」
影弥が悠長にしていると見えたらだろう。悲惨に怒鳴っては急かした。
影弥はこれでも急いでる。落ち着いているだけだ。
紅柘榴のもとへより膝をつくと手に入れた医療器具を広げた。
腹が裂かれてからそれほど時間は経っていなかった。数分前まで赤眼の男と蝶男がいたのだろう。紅柘榴も虫の息ではあるが生きている。
離れにあった吉祥果を千切り、赤い果肉を紅柘榴の口に入れてから治療を始めた。
心音に似たものが聞こえてくる。それ以外は無音であった。それは体内からではなく体外から聞こえてくることだ。
怖いものではないと紅柘榴はなぜか知っていた。
ずっと一緒だと手を握ってくる隣の子も、それが当たり前のように感じて、それでこれは夢なのだとと悟って、目を覚ました。
私は太陽の匂いがする布団の中で眠っていて、木目の天井を見つめていた。杉で作られた天井は私が育った屋敷と同じように見えたが、木目のしみが違う。同じ杉ではあるが、別の天井だ。
上体を起こすと小さくなった軽くなった腹に気がついた。裂かれた腹が元通りになって中にいた子供はどこにもいない。
見渡すと寝床から中庭が見え、立派な松の木があった。人の手入れをされておらず、松の周囲は雑草が好き放題に伸びていた。
私はその松をひたすらに見つめ、そのうちに廊下を足音もなく走ってきた女の子と目覚めたばかりの私と目があった。
今にも泣きそうな彼女の顔つきは私の顔に似ている。
少女は流れる前の涙を拭い、拭いきれなかった雫が床に落ちる。その床に涙の後は残らなかった。
再び顔を上げて、堪えられなそうな笑顔一瞬だけ見せるが、それを我慢するかのような辛そうな顔で私に言った。
「はじめまして久しぶり。私たちはこの屋敷で生まれるはずだったのよ」
少女と目が合っているが、私の目はどこか遠くを見つめていた。
構わず私に抱きつく。少女は感触も体温もない幻のような存在だった。
再会であるはずの抱擁を一人の男が痛ましそうに見ていた。蝶男だ。
だが、もうどうでもよかった。
私は理解することも怒ることも諦め、中庭の松を見つめていた。
影弥は別の器を用意し、ある屋敷を手に入れると二人の住処はそこに移った。紅玉は深まる冬と溶ける冬を見送った。
未来視は続けていたが、どの未来にも紅玉が望んだ答えはなかった。
未来の糸は現在に続いていて、そこから妹の現状がわかった。
腹が大きくなっていく様子もわかったし、その世話を誰がしたのかも見えてしまう。紅柘榴がどんな顔をしていたのかも紅玉にはよく見えた。
それを見ていた紅玉は、何もできない紅玉は、ただ見ていた。
今までのことを振り返ると紅玉がしてきたのは無意味で、何を成したのか何をしたのかと自問すると何もしていない。
泣く資格もないと涙を堪えて嘆く資格もないと唇を噛んだ。神も仏もいないと知っていたから祈りもしなかった。
無力を噛み締めて冬を越した。ある日、ある未来を見た。
「かげ、その時が来たよ。早く行こう」
そう告げると影弥はいつでも準備ができていたように刀を取り、立ち上がった。
春の日差しが優しかった。
三日ほどの時間をかけて、人食い塀に辿り着き、入りたくても入れなかった中に入った。
入った途端、紅玉は堪らなくなった思いが爆発したように走り出した。
その背中を眺め、影弥は本邸とは別の離れと足を運ぶ。
離れにあったのは座敷牢と小さな檻。血の汚れは落とされず、人間らしい悪臭も残っていた。床に転がった果実を拾う。
それは吉祥果と呼ばれているものだ。
他には医療器具があり、手入れされているようで綺麗なままだった。
その器具を手に持つと遠くから紅玉が呼んでいる。
枯れた花々が倒れた庭の目前には縁側があり、その奥には腹を裂かれ、放置された紅柘榴がいた。
「早くしてっ!」
影弥が悠長にしていると見えたらだろう。悲惨に怒鳴っては急かした。
影弥はこれでも急いでる。落ち着いているだけだ。
紅柘榴のもとへより膝をつくと手に入れた医療器具を広げた。
腹が裂かれてからそれほど時間は経っていなかった。数分前まで赤眼の男と蝶男がいたのだろう。紅柘榴も虫の息ではあるが生きている。
離れにあった吉祥果を千切り、赤い果肉を紅柘榴の口に入れてから治療を始めた。
心音に似たものが聞こえてくる。それ以外は無音であった。それは体内からではなく体外から聞こえてくることだ。
怖いものではないと紅柘榴はなぜか知っていた。
ずっと一緒だと手を握ってくる隣の子も、それが当たり前のように感じて、それでこれは夢なのだとと悟って、目を覚ました。
私は太陽の匂いがする布団の中で眠っていて、木目の天井を見つめていた。杉で作られた天井は私が育った屋敷と同じように見えたが、木目のしみが違う。同じ杉ではあるが、別の天井だ。
上体を起こすと小さくなった軽くなった腹に気がついた。裂かれた腹が元通りになって中にいた子供はどこにもいない。
見渡すと寝床から中庭が見え、立派な松の木があった。人の手入れをされておらず、松の周囲は雑草が好き放題に伸びていた。
私はその松をひたすらに見つめ、そのうちに廊下を足音もなく走ってきた女の子と目覚めたばかりの私と目があった。
今にも泣きそうな彼女の顔つきは私の顔に似ている。
少女は流れる前の涙を拭い、拭いきれなかった雫が床に落ちる。その床に涙の後は残らなかった。
再び顔を上げて、堪えられなそうな笑顔一瞬だけ見せるが、それを我慢するかのような辛そうな顔で私に言った。
「はじめまして久しぶり。私たちはこの屋敷で生まれるはずだったのよ」
少女と目が合っているが、私の目はどこか遠くを見つめていた。
構わず私に抱きつく。少女は感触も体温もない幻のような存在だった。
再会であるはずの抱擁を一人の男が痛ましそうに見ていた。蝶男だ。
だが、もうどうでもよかった。
私は理解することも怒ることも諦め、中庭の松を見つめていた。
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