糸と蜘蛛

犬若丸

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7章 赤い珠が映す空想未来

邂逅してから 4

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 「君が見た未来では縁側で二人並んで座っていたかい?」
 そう言いながら蝶男は隣に座るが、逆に紅玉は立つ。
 影弥と同じ顔で微笑み、同じ声と目を向けてくる。だが、紅玉が向かう感情は影弥に向けられるものは逆のものだ。こいつは嫌いだ。
 「ないよ」
 未来では、石を投げてから蝶男は警戒してしばらく数日は待つと影弥たちに話した。
 けど、やはりと言うべきか。蝶男は未来視で見た結果とは逆のことをした。
 口には出さなかったが、そうなるだろうと紅玉は持っていた。
 「彼は気づいていたかな。君の未来視が未完成のこと」
 「気づいてないよ」
 「君は気づいていたのか」
 未来視を繰り返していくうちに紅玉の未来視が未覚醒であると悟った。
 遠くの未来であったり、人物を明確に知っておかないと見る未来は曖昧になってしまう。
 「けど、紅柘榴がいないのは計算外だったな。あの子は影弥の所かな」
 紅玉は何も言わず、縁側向こうの部屋の影に浮かぶ人物を見つめた。赤い目と合ったが、見つめ合ってはいない。
 蝶男は背後にいる白蓮をいないように扱って話を続ける。
 「まぁ、それはいい。僕が欲しいのは君だから。そういえば二人は元気にしてる?」
 どの口が影弥と紅柘榴の安否を気にしてるのか。
 「滅茶苦茶にしたあんたが言うな!」
 一気に血が上った。
 「私の人生もべにの人生も奪われたんだ!私はあんたを消滅するまで許さない!」
 「なぜ」
 と、蝶男が問う。紅玉にはない、冷めた声色なのに何故か言葉が詰まった。単に蝶男の問いが理解できなかっただけかもしれない。
 「人は誰もが不幸になる。人から物を盗み殺生もする。紅玉が誰かの不幸の為に動くなら僕だけ責めるのはおかしいだろう?」
 怒りで反論したくなった。開きかけた口を閉ざす。
 紅玉は大義ではなく、感情に動かされてきたのだ。奴に感情論は通じない。
 口論している場合ではない。
 目的を思い出し、背後に立つ白蓮を見る。
 どうやって近づくか考える。答えが出るまでの時間が必要だ。
 「私はべにの為に来たの。たった一人の為にここに来た」
 会話を続けることにした。
 「なら、君の為に動いてくれる人はいるのかい。影弥もういない。紅玉は独りだ」
 独りというのが深く突き刺さる事実で唇が震えた。時間稼ぎをしながら考えないと何も浮かばない。
 縁下から男の子の手が伸びて、呆然と立つ紅玉の足首を掴んだ。
 狭くて低い縁下に引きずられそうになり、紅玉は何も考えられずに暗闇の中にいる男の子を反対の足で蹴った。
 放してほしくて必死になり、男の子と地面がくっついて身動きが取れなくなってしまえばいいと願った。
 すると、紅玉の糸がその通りに働いて、男の子の腕から肩までが地面に縫い付けられてしまった。
 解放された紅玉は立ち上がって蝶男に背を向け走った。蝶男は日差しを楽しむように静かに座ってままだった。
 塀の外には逃げられなかった。隠れるのも無謀で、束縛ができる糸は長く待たず、自然消滅してしまう。
 塀と屋敷の狭い間に入り、落ち着かない心を落ち着かせようと座る。
 黒蝶を切り離さないといけない。白蓮も男の子も。
 「大丈夫。私ならできる大丈夫」
 白い握る鋏を両手で包みながら呟く。そこに屋敷の壁から手が伸びた。
 黒蝶の羽が浮かぶの腕は白蓮のもので壁をすり抜けて、紅玉の襟首を掴んできた。
 屋敷の中へと入れられそうになるが、壁を障害物だと認識すると紅玉は壁に張り付いて止まった。
 幽霊歴は紅玉のほうが長い。まさかこんなことができるとは思ってもみなかっただろう。
 力業で紅玉を引き入れようとするが、これは認識で起こる現象で相手が力業で成そうとしてもできないものだ。ただ壁にのめり込みそうでならなくて胸が苦しい。
 紅柘榴から託された鋏を持ち、引っ張られる力に抵抗しながら空気を切るつもりで白蓮の手首を切った。
 手首が襟首にくっついたまま切断され、紅玉は壁から剥がさる。地面に着地する前に空気を切り、空間が裂かれた。紅玉はその中に落ちた。
 裂け目に飛び込み、その先は白蓮の真上だった。
 しまった。初めて使う瞬間移動だ。まだ使いこられていない。
 襟首に着いたままの白蓮の手を白蓮が掴み、手首のない腕を紅玉の首に回した。
 向かい合って抱きしめられる形となった。強くて苦しくあまりにも不快なので床につかない両足をばたつかせた。
 抵抗すると白蓮の力は強くなり、胸が圧迫される。肩越しから縁側に立つ蝶男が気に入らない笑みで紅玉たちを見据えている。
 この男から抜け出せる方法は無いかと周囲を目線だけで探り、彼の足元に白骨化した遺体を見つけた。身に付けてる衣服は白蓮のものと同じものだった。
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