19 / 25
本物の恋人に?
しおりを挟む王太子殿下主催の狩猟会が終わり2週間が過ぎた。
まだ発表されていないけれど、結界に穴を開けた犯人は捕まっているという噂だ。
シリル様は事件の調査で忙しいみたいで暫く会っていなかった。
一方、私はというと、平穏な日々。
今日も特に予定は無くて、部屋でゆっくりお茶を飲みながら本を読んでいた。けれど、その穏やかな時間を壊すみたいな勢いで、ベテラン執事が慌てて部屋に入ってきた。
「お嬢様、大変です。王家から先触れがあり、今から王太子殿下がお忍びで来られ、お嬢様に会いたいそうです」
「え?……で、殿下?」
王太子殿下が我が家に来る用事なんて無いはず。考えられるとすれば、シリル様との事。
そういえば、狩猟会で会う予定だった。
「分かりました。断るわけには、もちろんいかないわよね?」
「ええ……そうですね」
シリル様が居なくて不安だけど、お忍びって言ってたし、大丈夫かしら?
~・~・~・~・~
「突然すまない。どうしてもフラヴィア嬢と直接話をしてみたくてね」
「はい」
お忍びっていってたけど、王太子殿下は本当にラフな服装でやってきた。シリル様みたいな美しいお顔では無いけれど、クールな雰囲気と洗練された身のこなしは充分に格好いい。
「カリテス伯爵邸に来るのは初めてだな。庭園を案内してくれないか?」
「はい。畏まりました」
「出来ればラナン語で」
「?……は、はい」
不思議な要求だった。
王太子殿下は私がシリル様に相応しいかどうか試そうとしているのかしら?
とはいえ、私は殿下に言われた通り庭園に咲く花々の特徴をラナン語で説明しながら歩いた。殿下も完璧な発音のラナン語で質問してくる。
やがて花から、花の原産国へと話が移り、他国の文化についての話題で盛り上がった。
王太子殿下って堅物でちょっと怖そうな印象だったけど、笑うと少年っぽい感じがして少し親しみが持てる。
初めは緊張しながら話していたのに、いつの間にか緊張も解れ、笑顔で会話を楽しんでいた。
だから油断していたんだと思う。
「君はシリルと恋仲だと聞いたが、本当かい?」
「え?」
ふと顔を上げると殿下は私のすぐ目の前にいた。今まで笑っていたと思うのに、すごく真剣な顔。そして、近いっ。
「俺には二人は恋人のフリをしているように見えるな」
殿下は私を真っ直ぐに見据えて、ずばりと聞いてきた。
不意をつかれ、固まってしまった私を殿下はじっと見つめる。私の胸の奥の感情を探るようなそんな視線。
噂通り、とても優秀な人物なのだろう。
私は引き攣りそうになる頬をかろうじて緩めた。
「私達は本物の恋人です」
「本当に?」
その鋭い瞳に私は無力だ。思わず視線を彷徨わせると、背後から力強い腕に絡めとられた。
え?誰?
見上げるとーー
「シリル様?」
思わず『様』をつけて読んでしまうと、彼はそっと私の唇に人差し指を当てた。
「シリル、でしょ」
優しく窘められて、今度は額に唇を押し当てられた。シリル様が耳元で「会いたかった」なんて囁くから胸が擽ったい。
「殿下、彼女は間違い無く、僕の恋人です。ちょっかいを出すのは止めてください」
シリルは顔を上げると、真剣な顔で殿下に抗議した。
「はは、間に合ってしまったか……」
「ええ、あまりにも急に僕に仕事を押し付けるので怪しいと思いましたよ」
「ああ、悪かったな」
「僕の居ない所でヴィアに会わないでください」
シリル様、怒っているのかしら。
声がいつになく苛立っているような?
「そうするよ。シリルに嫌われるのは俺も困るからな。それに……」
「それに?」
「こんなに嘘が下手だと、俺の妃としては苦労しそうだ。俺はもう少し嘘の上手い女性を探すよ」
バレてたーー
私が即答しなかったのがいけなかったのね。
「とはいえ、素晴らしい女性だと思う。シリル、彼女を大切にしてくれ。フラヴィア嬢、今日は楽しかったよ。ありがとう」
シリル様の腕に抱かれたまま、殿下を見送った。こんな体勢で失礼だと思うのだけど……。
シリル様は殿下を警戒するように私を離してくれない。そんなに警戒しなくても良いと思うのに……。
「シリル、久しぶりね」
「ヴィア……」
シリル様は私の肩に顔を埋めたまま……。なかなか顔を上げようとはしない。何だか拗ねているみたいで可愛い。
「シリル?」
「ヴィア、殿下のことどう思う?」
「どうって、すごく鋭くて頭の良い人ね。国を率いてくれる人だと思うと頼もしいわ」
「……男としては……?」
「素敵だと思う。でも、ちょっと何考えているか分からなくて怖いかな?」
「……」
「ねぇ?どうしたの?」
シリルは漸く顔を上げ、そして私の両肩に手を置いた。真っ直ぐ視線を合わせられると、彼の真剣な瞳が私を射抜く。
「突然ごめん。今日は正式に結婚を申し込みに来たんだ」
「え?」
「本当は、もっとヴィアに男として意識してもらってから結婚を申し込みたかったんだけど……。殿下から正式な婚約の打診があったら断れないだろう?……だから……」
「え?殿下?婚約?……シリル、何か勘違いしてるんじゃないかしら?」
「勘違いなんかじゃ無いよ。殿下がこんなに興味を持った女性なんて、ヴィアが初めてだ」
殿下とは世間話をしてただけで、婚約とかそんな話はしていない。それに、殿下ほどの人が私を選ぶはずなんてないと思う。
シリル様ってば、何か誤解しているのかもしれない。
「シリル、本当に誤解だわ」
「だとしても、僕……正式にヴィアの婚約者になりたいよ」
「え?からかわないでよ。冗談……なんでしょ?」
「からかってってなんかないよ。僕そんな余裕なんてないよ。今まで、さんざん態度で示してきたつもりだけど……。ねぇ、ヴィア、僕をもっと見て。僕にはヴィアしか見えていないんだよ」
だって……それは演技で……。他の女性のアプローチを躱すためじゃ……?
「演技か本当かだなんて分からないわ。私、恋愛経験もほとんど無いの……だから」
シリル様は『自由な恋愛の国』ラナンクルスに留学して、たくさん恋愛をしてきて、経験も豊富かもしれない。だけど、私はこんな風に熱く口説かれたら、元に戻れないほど本気になっちゃう。
「僕だって経験は無いよ。とうしていいか分からないんだ。必死に余裕ぶって恋人のふりをしてたけど、とうしたら僕の気持ち信じてくれる?」
頬を少し赤くして、
泣きそうなぐらい真剣な瞳で、
シリル様は私を見つめていた。
すごく愛されているって、錯覚しそう。
「私……怖いわ。本当に……本気にしてもいいの?」
「ごめんね。僕がはっきりと言わなかったから。今までどうしても勇気が持てなかった。ヴィアに男として見れないって言われるのが怖かったんだ」
「う……そ……」
「嘘なんか付かないよ」
「私で……本当に良いの?後悔……しない?」
「僕はヴィアがいい。ヴィアしか考えられない」
この人は、どうしてこんなひたむきに私を求めてくれるのだろう?
シリル様ほどの人ならその気になれば、王国一の美女だって、王女様との結婚だって望めるだろう。なのに、どうして?
シリル様は私の手を取り跪いた。
「ありきたりな言葉だけど……フラヴィア、君を愛しています。僕と結婚してください」
留学から帰ってきてからは、どちらかと言うと冷静で大人びた姿ばかり見てきた。照れ屋さんだった彼を懐かしく思うこともあった。
でもこうして跪く彼は、年相応の少年で昔の面影を残していた。少し頬を紅潮させ私の返事を緊張しながら待っている。そのひたむきな感情が真っ直ぐに向けられているのを感じて、胸が熱くなる。
声が震えて涙がでそう。
「お、お願い……します。で、いいの?」
「……夢……みたいだ。本当にヴィア、僕と結婚してくれるの?」
お互いに夢みたいだって、信じられないって、言い合って、何だかおかしくなって笑った。
76
あなたにおすすめの小説
地味令嬢、婚約者(偽)をレンタルする
志熊みゅう
恋愛
伯爵令嬢ルチアには、最悪な婚約者がいる。親同士の都合で決められたその相手は、幼なじみのファウスト。子どもの頃は仲良しだったのに、今では顔を合わせれば喧嘩ばかり。しかも初顔合わせで「学園では話しかけるな」と言い放たれる始末。
貴族令嬢として意地とプライドを守るため、ルチアは“婚約者”をレンタルすることに。白羽の矢を立てたのは、真面目で優秀なはとこのバルド。すると喧嘩ばっかりだったファウストの様子がおかしい!?
すれ違いから始まる逆転ラブコメ。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~
浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。
御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。
「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」
自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
僕の婚約者は今日も麗しい
蒼あかり
恋愛
公爵家嫡男のクラウスは王命により、隣国の王女と婚約を結ぶことになった。王家の血を引く者として、政略結婚も厭わないと覚悟を決めていたのに、それなのに。まさか相手が子供だとは......。
婚約相手の王女ローザもまた、国の安定のためにその身を使う事を使命としていたが、早い婚約に戸惑っていた。
そんなふたりが色々あって、少しづつ関係を深めていく。そんなお話。
変わり者の作者が、頑張ってハッピーエンドを目指します。
たぶん。きっと。幸せにしたい、です。
※予想外に多くの皆様に読んでいただき、驚いております。
心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
ご覧いただいた皆様に幸せの光が降り注ぎますように。
ありがとうございました。
王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】
mako
恋愛
以前の投稿をブラッシュアップしました。
ランズ王国フリードリヒ王太子に嫁ぐはリントン王国王女クラリス。
クラリスはかつてランズ王国に留学中に品行不良の王太子を毛嫌いしていた節は
否めないが己の定めを受け、王女として変貌を遂げたクラリスにグリードリヒは
困惑しながらも再会を果たしその後王国として栄光を辿る物語です。
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる