悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい

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冒険者になります

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私は国境を越えると宿を探し、偽名で一晩宿泊した。
そして海沿いの街まで移動すると、ギルドに向かった。
この街のギルドはそこそこ大きいようだ。中に入り受付嬢に話しかける。
「冒険者登録をしたいんだけど。どうすればいいの?」
この紙に必要事項を記入してください。その後ここに手を翳すと登録になります。各地のギルドで使えるギルドカードが発行されます。身分証明にもなりますので、国によっては入国するときに必要となりますよ。
無くしたり、盗まれたり、他人が使えないよう保護と紛失防止、偽造予防の魔法が付与されています。
私は冒険者名をルマと登録した。
「ルマさんはまずE級冒険者となりますので、エントリー出来るのはEランクとDランクの依頼です。これが依頼の一覧ですよ。ここの掲示板に貼ってあります。定期的に来て依頼を確認すると良いですよ。」
説明が丁寧で分かりやすい。
私は受付嬢に言われた通り依頼の一覧を確認する。
何だか簡単そうな依頼ばかりだ。ランクを上げる必要があるのだろう。
「この依頼にエントリーしたいです。」
海沿いの貝を集める依頼を指差し受付嬢に告げる。
「はい。テイ貝の貝殻集めですね。30個で依頼達成です。これがテイ貝です。素材集めの依頼は素材が集まった時点でギルドに来ていただいて、その場で素材を確認することも出来ますよ。」
なるほど。テイ貝の形状を確認する。サザエみたいだ。
「分かりました。これを30個ですね?」
「そうです。似たものには気を付けてくださいね。ご検討をお祈りします。」
「ありがとうございます。」
私はギルドを出て海に向かう。
海岸沿いでなるべく砂地になっている場所を探す。
いい砂浜を見つけた。
「30個なんて楽勝!」
私は風の魔法で周囲の砂を吹き上げる。
「けほっ、けほっ、けほっ。」
砂が喉に入って噎せた。おまけに貝はアサリみたいな形状のものばかりだ。
「あーあ。」
がっかりしているとすぐ近くでクスクス笑う声が聞こえた。
誰よ!失礼な。そう思って振り返ると、綺麗な金髪の美少年がこっちを見て気まずそうにしている。
「失礼しました。ちょっと面白かったので。魔法が豪快なので目についてしまって。冒険者の方ですか?お詫びにお手伝いしますよ。」
馬鹿にして!私は不愉快な表情を隠しもせず、「結構です。」といい放つ。
ふんだっ!私は凄い魔法が使えるんだから。
私は自分の周りにバリアを張り済ました顔で海を歩いて潜ろうと歩き出した。けど、空気が入っているバリアを張ったので潜れない。おまけに波で足元が不安定になって転んだ。
ふと後ろを振り返ると、いよいよ我慢しきれず、少年が大爆笑していた。
ミチミチと音を立てて頭に血が昇ってきた。
自分で起き上がり砂地に戻ると海に大きな渦を起こして海水を巻き上げる。これで軽い貝は遠心力で飛んで来るだろう。
そう思って空を見上げたら大きな大王イカが私に向かって飛んで来た。
「っつ。」
咄嗟に防御の魔法を展開する。
あーあ。びっくりした。周囲を見回すと小さな貝や魚が砂地一面に落ちていた。私はテイ貝を探す。たった10個。後3回この魔法を使う必要がある。私が再び構えをとると、
「海の生き物を目的も無いのに殺傷するのは感心しないですよ。」
と、さっきの少年に話掛けられた。
腹が立って無視していると
「その大王イカは死体に毒があるんだ。俺は処理が出来るから良かったら引き取るよ。」
後ろからおじさんに声を掛けられる。この世界でも大王イカはそのままの名前なのか。
「ありがとうございます。」
そう言って大王イカを渡そうとすると
「嘘ですよ。この方の言ってること。調べたら直ぐに分かりますから。」
さっきの少年がそう言って割って入って来た。
おじさんは急に態度を変えて、「うるせぇ。渡せよ。」とイカを奪い取ろうとした。
すると、少年が流れるような動作でおじさんを取り押さえる。
「ありがとうございます?騙されそう?だったんですか?」
私は状況がよく飲み込めず、取り敢えずお礼を言った。
少年は、はぁーと大きな溜め息をつくと、
「そうですよ。貴方は見たところ下位ランクの冒険者でしょう?よく知らないと思って騙されたんですよ。そのイカを持っていけばきっとランクが上がります。大王イカの墨は貴重な薬なので常に依頼があるんです。」
そう教えてくれた。
おー、良い子じゃん。誤解してたわ。
「ありがとう。早速ギルドに持っていくわ。」
「そのままじゃ駄目ですよ。ちゃんと処理しないと。」
そう言うと少年は大王イカの墨袋を取りだし保存の魔法を掛ける。
少年の手際の良さに感心しながら眺めていると、私一人では冒険者としての知識が足りないのではという気がしてきた。
「ねぇ。私を弟子にしてくれない?そこそこ魔法は使えるわよ。」
油ギッシュなおじさんとかよりは、この少年の方が危険が少ないだろう。主に貞操の。そう思ってお願いしてみた。
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