男装の騎士に心を奪われる予定の婚約者がいる私の憂鬱

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告白

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そろそろ婚約解消の話がある頃だ。 

殿下から話をしたいと連絡があった。
とうとう婚約解消の申し出があるのかもしれない。

窓から眺めていると、王家の紋が入った馬車が屋敷に到着した。

今日はライルを連れていない。護衛一人だ。
予感が確信に変わる。婚約解消を言い渡されるに違いない。
やはりライラには修羅場は見せたくないとの配慮だろう。
「ヨシュン、私…体調が悪くて。面会はお断りして。」

分かっていた未来だったにも関わらず、私はまだ心の準備は出来ていなかった……。

ドカドカ、廊下から騒がしい足音が聞こえる。
「殿下困ります。殿下!」 
使用人達の声が聞こえる。

私が幼い頃より知る殿下はこんな強引な手段に出る人では無かったが……。

良く考えてみれば、小説の中の殿下はライラの為なら強引な手段に出る人だった。

私は諦めて部屋の入り口の方に向き直り、殿下を迎えた。

「堅苦しい挨拶はいいよ。」入るなり 殿下は早口で言うと、一人だけ付いてきた護衛騎士にも少しだけドアを開けて退出するよう命じた。

「ティシアリュル、会いたかった。」
聞き違いかしら?
殿下のキャラが変わったわ。
殿下は驚く私に近づくと両手を肩に置いて見つめてくる。その表情が蕩けるように甘くて…目が離せない。

「視察…大変だったんだ。ティシアリュルからご褒美を貰って良いだろうか?」
「えっ?ええ。」
驚きながらも了承するとふわりと何かが身体を包む。
気が付くと私は殿下に抱き締められていた。
「あー、ずっとこうしたかった。」
殿下は私の耳元で呟く。
低い声が耳腔を擽り、胸の奥がざわつく。
「ど、どうしたんですか?」
「あー、ごめん。我慢出来なくて。」
殿下は私から身体を離すとソファーに座るように促した。
私が座ると殿下も横に座ってくる。
突然縮められた距離に鼓動が跳ねる。

「殿下、どういったご用件でしょう?」
「最近、ティシアリュルは私を避けていただろう?我慢してたんだけど、もう遠慮するのは止めたんだ。」
「そう…ですか。」
何を言われるのだろう。胸がざわりと毛羽立つ。
「ティシアリュルはライルが女性だって気付いてた?」
急に件の人物の名前が出て心臓がドクリと跳ねた。
「は、はい。」 
「僕の側にライルが居ることに嫉妬してたの?」
ズバリと言い当てられて思わず俯く。
「そっか。あー可愛い、ティシアリュル。ごめんね。ライルが男装してた目的を探るために側に置いていたんだ。」
殿下は向き直り真っ直ぐ目を合わせてくる。 
え?婚約解消の話ではなかったの?
理解が追い付かない。……本当だろうか?
でも・・・嘘を吐く必要なんてない。
「本当に?ライルとは?」
「私が好きなのはティシアリュルだけだよ。ティシアリュル、好きだよ。大好きだ。今までちゃんと言葉に出来なくてごめん。」
殿下が私を好き?
夢、だろうか?嬉しい。
前世での失恋が頭を過る。
「私は嫉妬深くて重い女です。殿下のご負担にはなりませんか?」
「重い女?」
殿下はコテンと首を傾げる。
「私は好きな人の全てを独占したいし尽くしたい。嫉妬深くて殿下を束縛するかもしれません。」
「うん。全部受け止めるよ。だから、ティシアリュルの愛情は全部私に注いで?」
「本当に?後から嫌いになっても受け付けませんよ?」
「そんな事は絶対ないよ。その代わり、僕の愛情もティシアリュルに全部注ぐからね。受け取って?」
「はい。全部ください。絶対ですよ。他の人にはあげないでください。一滴も溢さず受け止めます。」
「ははは、夢みたいだ。」
殿下は私を抱き寄せると、額に頬に耳に優しくキスを落とす。
擽ったくてクスクス笑うと殿下が耳元で
「ねぇ、唇にキスしたい。」と囁いた。
私は恥ずかしくて益々俯く。顔を上げれないでいると、殿下に顎を掬われた。
「ねぇ、リュル。バルって呼んでよ。」
「ば、バル?」
「リュル、可愛い。好きだよ。」
殿下はそっと触れるだけのキスをした。

その後の事はふわふわしていてよく覚えていない。
ずっと長い時間、殿下の胸の中にいたような気もするし、直ぐに解放されたのかもしれない。
    
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