10 / 19
10.ルーファス視点
しおりを挟む
※ルーファスが女嫌い設定なので差別的な表現があります。
内偵していた先で知り合った少女が放っておけなかった。底抜けにお人好しな彼女は、周囲の人間に利用されてた……。
☆
初めてフィオナを見た時、彼女は夜会で自分の婚約者と友人がファーストダンスを仲睦まじく踊っているのを、どこか寂しそうに眺めていた。
俺はフィオナがセレニティーに毒を盛ったのだと疑っていた。セレニティーの恋敵であるフィオナには、充分な動機がある。
けれど、ダンスを見ていた彼女の表情が意外だった。
フィオナがセレニティーを憎んでいるのなら、嫉妬や憎しみがその表情に垣間見える。または、完璧な良い友人として微笑んでいただろう。
今その顔に浮かべている寂しげな表情は、あまりにも無防備だ。
『なぁ、本当はあのセレニティーって奴が邪魔だろ?』
俺はフィオナを探るために、夜会で話し掛けた。婚約者と友人に対して従順な彼女は、俺の嫌味には猫のように逆毛を立てて反発した。器用に人を欺けるタイプでは無いらしい。
(彼女はライアット侯爵令息のことは何とも思っていないのだろうか?)
フィオナは結婚を政略的なものだと割り切っているのか?
そう思ったが、それも違っていた。
二人の逢瀬を見た彼女は確かに泣いていた。
なのに、その悲しみは婚約者を寝取った友人を憎むことには繋がらないらしい。
稀有な女ーー
とことん間抜けでお人好し。
人に利用されて尚、人を恨まない。
女なんて狡くて平気な顔で嘘をつく。
諜報活動が生業だった俺はそんな場面を反吐が出るほど見てきた。
女という生き物は嫌いだった。
同じ世界に生きているのに、彼女の見えている世界は優しいのだろう。
そんな世界を俺も見てみたくなった。
☆
婚約者と友人のダンスを寂しそうに見ている彼女を笑顔にしてやりたくて、ダンスに誘った。
それは、とても印象的な時間だった。
彼女は負けん気の強さを発揮し、俺のアレンジについてくる。懸命に身体を動かし、困ったり悔しがったり驚いたり。普通の令嬢なら突然難しいステップを入れられたら怒るだろう。なのに彼女はその刺激を楽しんでいた。くるくる動く表情。その反応はいつだって素直で真っ直ぐだ。
イキイキと踊る彼女は、ポーズを決めると『どうだっ!』と言わんばかりの笑顔を俺に向けた。
『上等だ。』
俺もつられて笑う。それが心地いい。
たった三曲のダンス。
俺はそのダンスで、フィオナに心を奪われてしまったらしい。
フィオナを自分のそばに置きたくなった。
☆
フィオナは一見大切に育てられていた。美しいドレスを着せられ、侯爵令息との婚約も整っている恵まれた環境。婚約者も友人も彼女を可愛がっていた。
彼女の目に映る世界は優しい世界。
けれど、誰もフィオナ自身の幸せを望んでなどいない。
愚かなフィオナは自分が利用されていることを知らない。もし、知っても怒らないかもしれない。
俺がフィオナに『お前の両親はもうすぐ捕まる。』なんて伝えても彼女は俺について来ないだろう。彼女は自分が利用されたことを知っても、妙な連帯感で一緒に罪を背負うかもしれない。
愚かなフィオナ。それがもどかしくて腹が立つ。
任務外の仕事だ。彼女を助ける必要など無い。
けど、あいつは俺が放っておいたら死んでしまうんだ。
だから、奪った。婚約者の前から。
口説くのは後だ。
今、伯爵家からフィオナを逃がさないとーー。
☆
リックネル帝国の植物研究所には多くの貴重な植物が保管されていた。
事の発端は、植物研究所の管理人が金欲しさに買収され、他国の人間を禁止区域に入室させていたことが発覚したこと。
王家の暗部を纏める我が侯爵家に調査が命じられた。俺はサイハル王国に潜入して、メイハン草の出所を探り、ローレラ伯爵家の罪を暴き出した。サイハル王国と我が帝国に真相を報告し、俺の任務は終わりだった。
けれど、フィオナの罪悪感を減らしてやりたくて、俺はサイハル王国の王太子殿下にトマンティノ伯爵を紹介してもらい、医師として解毒剤を渡した。そして、フィオナの死亡という嘘の情報を流してもらった。サイハル王国から彼女の存在を消すために。
両国の話し合いでローレラ伯爵家の罪は秘匿された。
我が帝国サイドとしても、植物研究所の管理が杜撰だったことは公にはしたくない。サイハル王国としても、自国の貴族が留学先の国で起こした犯罪は体裁が悪い案件だ。
伯爵家は禁止薬の売買の罪だけが公表され、お取り潰しとなった。
内偵していた先で知り合った少女が放っておけなかった。底抜けにお人好しな彼女は、周囲の人間に利用されてた……。
☆
初めてフィオナを見た時、彼女は夜会で自分の婚約者と友人がファーストダンスを仲睦まじく踊っているのを、どこか寂しそうに眺めていた。
俺はフィオナがセレニティーに毒を盛ったのだと疑っていた。セレニティーの恋敵であるフィオナには、充分な動機がある。
けれど、ダンスを見ていた彼女の表情が意外だった。
フィオナがセレニティーを憎んでいるのなら、嫉妬や憎しみがその表情に垣間見える。または、完璧な良い友人として微笑んでいただろう。
今その顔に浮かべている寂しげな表情は、あまりにも無防備だ。
『なぁ、本当はあのセレニティーって奴が邪魔だろ?』
俺はフィオナを探るために、夜会で話し掛けた。婚約者と友人に対して従順な彼女は、俺の嫌味には猫のように逆毛を立てて反発した。器用に人を欺けるタイプでは無いらしい。
(彼女はライアット侯爵令息のことは何とも思っていないのだろうか?)
フィオナは結婚を政略的なものだと割り切っているのか?
そう思ったが、それも違っていた。
二人の逢瀬を見た彼女は確かに泣いていた。
なのに、その悲しみは婚約者を寝取った友人を憎むことには繋がらないらしい。
稀有な女ーー
とことん間抜けでお人好し。
人に利用されて尚、人を恨まない。
女なんて狡くて平気な顔で嘘をつく。
諜報活動が生業だった俺はそんな場面を反吐が出るほど見てきた。
女という生き物は嫌いだった。
同じ世界に生きているのに、彼女の見えている世界は優しいのだろう。
そんな世界を俺も見てみたくなった。
☆
婚約者と友人のダンスを寂しそうに見ている彼女を笑顔にしてやりたくて、ダンスに誘った。
それは、とても印象的な時間だった。
彼女は負けん気の強さを発揮し、俺のアレンジについてくる。懸命に身体を動かし、困ったり悔しがったり驚いたり。普通の令嬢なら突然難しいステップを入れられたら怒るだろう。なのに彼女はその刺激を楽しんでいた。くるくる動く表情。その反応はいつだって素直で真っ直ぐだ。
イキイキと踊る彼女は、ポーズを決めると『どうだっ!』と言わんばかりの笑顔を俺に向けた。
『上等だ。』
俺もつられて笑う。それが心地いい。
たった三曲のダンス。
俺はそのダンスで、フィオナに心を奪われてしまったらしい。
フィオナを自分のそばに置きたくなった。
☆
フィオナは一見大切に育てられていた。美しいドレスを着せられ、侯爵令息との婚約も整っている恵まれた環境。婚約者も友人も彼女を可愛がっていた。
彼女の目に映る世界は優しい世界。
けれど、誰もフィオナ自身の幸せを望んでなどいない。
愚かなフィオナは自分が利用されていることを知らない。もし、知っても怒らないかもしれない。
俺がフィオナに『お前の両親はもうすぐ捕まる。』なんて伝えても彼女は俺について来ないだろう。彼女は自分が利用されたことを知っても、妙な連帯感で一緒に罪を背負うかもしれない。
愚かなフィオナ。それがもどかしくて腹が立つ。
任務外の仕事だ。彼女を助ける必要など無い。
けど、あいつは俺が放っておいたら死んでしまうんだ。
だから、奪った。婚約者の前から。
口説くのは後だ。
今、伯爵家からフィオナを逃がさないとーー。
☆
リックネル帝国の植物研究所には多くの貴重な植物が保管されていた。
事の発端は、植物研究所の管理人が金欲しさに買収され、他国の人間を禁止区域に入室させていたことが発覚したこと。
王家の暗部を纏める我が侯爵家に調査が命じられた。俺はサイハル王国に潜入して、メイハン草の出所を探り、ローレラ伯爵家の罪を暴き出した。サイハル王国と我が帝国に真相を報告し、俺の任務は終わりだった。
けれど、フィオナの罪悪感を減らしてやりたくて、俺はサイハル王国の王太子殿下にトマンティノ伯爵を紹介してもらい、医師として解毒剤を渡した。そして、フィオナの死亡という嘘の情報を流してもらった。サイハル王国から彼女の存在を消すために。
両国の話し合いでローレラ伯爵家の罪は秘匿された。
我が帝国サイドとしても、植物研究所の管理が杜撰だったことは公にはしたくない。サイハル王国としても、自国の貴族が留学先の国で起こした犯罪は体裁が悪い案件だ。
伯爵家は禁止薬の売買の罪だけが公表され、お取り潰しとなった。
1,490
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。
梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。
ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。
え?イザックの婚約者って私でした。よね…?
二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。
ええ、バッキバキに。
もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。
見捨てられたのは私
梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。
ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。
ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。
何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。
梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。
王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。
第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。
常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。
ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。
みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。
そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。
しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる