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第17話 彼女達との再会
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その人物は勿論朝日だった。いつも通り水色の衣服を身にまとっている。顔色は少しだけ厳しさが募っており、秋大宴祭の雰囲気とは似合わない。
「美雪。今から屋台か?」
「? はい、そうですが……」
「皇后様がお呼びだ」
「はっ参ります……!」
姜皇后の私室に入ると、薄い純白の衣を身にまとった姜皇后が、紅い漆塗りに螺鈿の装飾が施された椅子に腰かけていた。
(いつ見てもこの部屋は豪華ですね。柱も壁も家具も赤で統一されていて、豪華……)
姜皇后は髪結いの途中なようで、金色に光り輝く複数のかんざしがまばゆい程輝きを放っている。
化粧自体はいつもよりも薄め。それでも肌は透き通るようで滑らかさが目立つ。さすがは皇后と言うだけあって化粧が薄めでも美貌は変わらない。
まるで天女が下界に降りてきたよう。美雪は思わず彼女の神々しい姿に見とれてしまった。
「美雪、忙しい所に呼び出しちゃってごめんなさいね」
「いえ、大丈夫でございます。お気遣いいただきありがとうございます」
「結論から言うと、秋大宴祭の間、あなたは朝日と共に行動してほしいの。彼からひと時も離れてはなりませんよ?」
「朝日さんとご一緒に、でございますか?」
なぜ急に朝日と行動を共にしなければならないのか? 疑問が湧く。しかし皇后が相手、迂闊に口を出そうにも出せそうにない。
「えぇ。だって色んな人が来るでしょ? あなたの身に何かあってはいけないわ。それにあなたがどこかへ行ってしまったら心配だし……」
(あ、それは朱美さんも同じ事をおっしゃっていたような……)
自分がどこかへ行こうと疑われているのか、それとも本当に身を案じているのか。はたまた記憶を失う前の己の身に何かあったのか……美雪には判断できない。
しかし姜皇后が眉を八の字にして如何にも心配しているのは伝わって来た。
「かしこまりました。皇后様の仰せのままに」
「ええ。朝日、よろしくね? 美雪の屋台の手伝いも一緒にね」
「はっ。御意にございます」
「ではもう大丈夫よ。私は髪結いが終われば祭祀に向かわなくちゃいけないから。良かったら夜にある皇后演舞も見てくれたら嬉しいわね」
皇后演舞は今日執り行われる祭祀の中で最も重要な行事だ。その名の通り演舞を神々へ奉納する儀式で姜皇后は歴代皇后の中でも特に演舞が上手だと評判である。
朝日をちらりと見ると、彼はぜひ拝見させていただきます。とかしこまった様子で答えていた。
(じゃあ、朝日さんと皇后演舞、見に行く事になるのでしょうか?)
「美雪、では早速外へ行こうか」
「! はい……! 皇后様、これにて失礼いたします」
「えぇ。何事もありませんように」
彼女の言葉が胸の奥に突き刺さった。平穏を願うのは美雪も同じ。
しかし、突き刺さった場所ではちりちりと何か不穏さが芽を出し始めているような気もする。姜皇后の私室から退出すると、朝日がそっと美雪の左腕を優しく掴んだ。
「俺から離れてはいけない。はぐれたら一巻の終わりだからな」
後宮内の道はおおむね把握できているが、今日は大勢の人々が詰めかけている秋大宴祭の初日。大人であっても気を付けなければならないと美雪は気を引き締めた。
「そうでございますね。あの、朝日さんも離れないでくださいね」
「それは……心配しているのか? それとも」
「心配なのはありますね。だって今日は人が多いですし……それに」
朱美達が言っていた事が気になる。とは口に出そうとしても喉元で止まってしまう。
「それに?」
「あっ、いや……とにかく、今日は人が多いので、その……」
「人さらいとかか? そのような輩は俺が殺してやるから安心するんだ」
「なっ?!」
さすがに殺すのはだめですよ! と慌てて制止する。まさか朝日からそのような言葉がもたらされるとは思ってもみなかっただけに衝撃は大きい。いずれにせよ殺生はよろしくないと彼女は必死に訴えた。
「はあ。君は本当に優しいな」
「だ、だって……! 捕らえてしかるべき場所へ引き渡すのは、わかりますけども……!」
「わかった。優しい君に免じてそうしよう。俺としてはそのような事をする不届き者は八つ裂きにするか人体実験の被験者になってもらわなければ気が済まないのだがな」
朝日が見せる物騒さにひ……。と我ながら情けない悲鳴が漏れ出てしまう。それを見たのか朝日はすぐさま厳しい表情を捨て去った。
「今日から楽しい祭りの日だ。さ、楽しもう」
彼の手が美雪を祭へと誘う。朝日と言う命綱に信頼を預けた美雪は子供のような笑顔で飛び出していった。
◇ ◇ ◇
朱色を基調とした屋台は幾重にも立ち並び、とてもにぎやかで既にたくさんの人々が詰めかけていた。後宮内の者達が大半を占めているが、その中には異国の者と思わしき容姿をした者達も確認できる。
「あっ! 美雪さん! 朝日様!」
左右に設けられた屋台に集う人々を縫うようにして移動していた所、聞こえてきたこの声。ちゃんと美雪は声の主を記憶している。
「! 花音さんと新葉さん!」
振り返ると洗濯場の宮女用の衣服を身に着け、桃色の花かんざしをつけた彼女達の姿があった。
「美雪。今から屋台か?」
「? はい、そうですが……」
「皇后様がお呼びだ」
「はっ参ります……!」
姜皇后の私室に入ると、薄い純白の衣を身にまとった姜皇后が、紅い漆塗りに螺鈿の装飾が施された椅子に腰かけていた。
(いつ見てもこの部屋は豪華ですね。柱も壁も家具も赤で統一されていて、豪華……)
姜皇后は髪結いの途中なようで、金色に光り輝く複数のかんざしがまばゆい程輝きを放っている。
化粧自体はいつもよりも薄め。それでも肌は透き通るようで滑らかさが目立つ。さすがは皇后と言うだけあって化粧が薄めでも美貌は変わらない。
まるで天女が下界に降りてきたよう。美雪は思わず彼女の神々しい姿に見とれてしまった。
「美雪、忙しい所に呼び出しちゃってごめんなさいね」
「いえ、大丈夫でございます。お気遣いいただきありがとうございます」
「結論から言うと、秋大宴祭の間、あなたは朝日と共に行動してほしいの。彼からひと時も離れてはなりませんよ?」
「朝日さんとご一緒に、でございますか?」
なぜ急に朝日と行動を共にしなければならないのか? 疑問が湧く。しかし皇后が相手、迂闊に口を出そうにも出せそうにない。
「えぇ。だって色んな人が来るでしょ? あなたの身に何かあってはいけないわ。それにあなたがどこかへ行ってしまったら心配だし……」
(あ、それは朱美さんも同じ事をおっしゃっていたような……)
自分がどこかへ行こうと疑われているのか、それとも本当に身を案じているのか。はたまた記憶を失う前の己の身に何かあったのか……美雪には判断できない。
しかし姜皇后が眉を八の字にして如何にも心配しているのは伝わって来た。
「かしこまりました。皇后様の仰せのままに」
「ええ。朝日、よろしくね? 美雪の屋台の手伝いも一緒にね」
「はっ。御意にございます」
「ではもう大丈夫よ。私は髪結いが終われば祭祀に向かわなくちゃいけないから。良かったら夜にある皇后演舞も見てくれたら嬉しいわね」
皇后演舞は今日執り行われる祭祀の中で最も重要な行事だ。その名の通り演舞を神々へ奉納する儀式で姜皇后は歴代皇后の中でも特に演舞が上手だと評判である。
朝日をちらりと見ると、彼はぜひ拝見させていただきます。とかしこまった様子で答えていた。
(じゃあ、朝日さんと皇后演舞、見に行く事になるのでしょうか?)
「美雪、では早速外へ行こうか」
「! はい……! 皇后様、これにて失礼いたします」
「えぇ。何事もありませんように」
彼女の言葉が胸の奥に突き刺さった。平穏を願うのは美雪も同じ。
しかし、突き刺さった場所ではちりちりと何か不穏さが芽を出し始めているような気もする。姜皇后の私室から退出すると、朝日がそっと美雪の左腕を優しく掴んだ。
「俺から離れてはいけない。はぐれたら一巻の終わりだからな」
後宮内の道はおおむね把握できているが、今日は大勢の人々が詰めかけている秋大宴祭の初日。大人であっても気を付けなければならないと美雪は気を引き締めた。
「そうでございますね。あの、朝日さんも離れないでくださいね」
「それは……心配しているのか? それとも」
「心配なのはありますね。だって今日は人が多いですし……それに」
朱美達が言っていた事が気になる。とは口に出そうとしても喉元で止まってしまう。
「それに?」
「あっ、いや……とにかく、今日は人が多いので、その……」
「人さらいとかか? そのような輩は俺が殺してやるから安心するんだ」
「なっ?!」
さすがに殺すのはだめですよ! と慌てて制止する。まさか朝日からそのような言葉がもたらされるとは思ってもみなかっただけに衝撃は大きい。いずれにせよ殺生はよろしくないと彼女は必死に訴えた。
「はあ。君は本当に優しいな」
「だ、だって……! 捕らえてしかるべき場所へ引き渡すのは、わかりますけども……!」
「わかった。優しい君に免じてそうしよう。俺としてはそのような事をする不届き者は八つ裂きにするか人体実験の被験者になってもらわなければ気が済まないのだがな」
朝日が見せる物騒さにひ……。と我ながら情けない悲鳴が漏れ出てしまう。それを見たのか朝日はすぐさま厳しい表情を捨て去った。
「今日から楽しい祭りの日だ。さ、楽しもう」
彼の手が美雪を祭へと誘う。朝日と言う命綱に信頼を預けた美雪は子供のような笑顔で飛び出していった。
◇ ◇ ◇
朱色を基調とした屋台は幾重にも立ち並び、とてもにぎやかで既にたくさんの人々が詰めかけていた。後宮内の者達が大半を占めているが、その中には異国の者と思わしき容姿をした者達も確認できる。
「あっ! 美雪さん! 朝日様!」
左右に設けられた屋台に集う人々を縫うようにして移動していた所、聞こえてきたこの声。ちゃんと美雪は声の主を記憶している。
「! 花音さんと新葉さん!」
振り返ると洗濯場の宮女用の衣服を身に着け、桃色の花かんざしをつけた彼女達の姿があった。
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