後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~

二位関りをん

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第6話 皇帝参上!

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「生贄の儀式は明日、行います。それまではこの屋敷に待機してください」 
「あ……あの……!」

 桃玉が振り絞るように声を出す。

「ほ、本当に私なのですか……? その、何かの間違いじゃあ……!」
「お坊様が何か間違ったと言うのか!」

 村の老人の1人が桃玉に向けて荒々しく叫んだ。桃玉はビクッと肩を震わせる。

「桃玉。そなたは誇り高き生贄に選ばれたのだ。光栄に思うがよい!」
「そ、村長……」
「これまで生贄に選ばれた娘は皆、喜んで役目を引き受けていたぞ?」
(そう言われても……!)

 桃玉の後ろに座っていたおじとおばは、共に涙を流していた。村長は彼らに話がある。と威厳のある声を放つ。

「金をやろう。桃玉の代わりにな」
「……」
「ふん、無言か。相当情があると見える。しかし諦めよ」

 村長の低く冷たい声が広間中にびりびりとこだました。
 話が終わった後、桃玉は村長の屋敷の離れに連れて行かれた。粗末で古びた架子床に、年季の入った机などの家具には少し埃がついている。窓には格子があり、脱走出来なくしていた。

「なんだか、牢屋みたいね……」

 離れに閉じ込められた桃玉の元に、村長に仕える下女がとことこと食事を持ってくる。

「桃玉様。お食べください」
(餃子がたくさん入ったスープに、キノコ入りの炊き込みご飯……どれも美味しそうなのに、食欲がわかない)
「桃玉様?」

 下女は桃玉と同じくらいの年頃の娘だ。白い肌には少しだけそばかすがある。1つに束ねている髪からはややほつれ毛が見えた。黒い瞳を持った彼女は心配そうに桃玉を見つめている。

「食べられそうですか?」
「ああ……はい」

 無意識に嘘をついた桃玉に、下女はにこりと笑って食事を御膳ごと手渡したのだった。
 下女が離れから去ると、離れには桃玉1人だけとなる。

「いただきます」

 桃玉は餃子入りスープをごくりごくりと数口飲むと、はああ……っと大きく息を吐いた。

「美味しい、身体に染みる……」

 炊き込みご飯にも箸をつけた桃玉は、そのままもごもごと食べ進めていく。

(死にたくないのに、食欲がで始めた。なんでだろう?)

 夕食を完食した桃玉は、ごちそうさまでした。と呟きながら手を合わせるのだった。
 食後。先程夕食を持ってきてくれた下女がお膳を回収しに離れへとやって来た。

「こちら、回収いたしますね」
「美味しかったです。ありがとうございました」
「いえ。ではこれにて失礼いたします」
(あまり関わろうとはしないのね)

 離れには再び、桃玉1人だけとなる。桃玉は架子床の上に三角座りすると目をつむる。

(私、死ぬんだ……まだ結婚もしてないのに死ぬんだ)

 自らに死期が迫っている事を悲しく思う度に胸に痛みが生じた桃玉は、三角座りから大の字に寝転がる。

(逃げ出しちゃだめかなあ? 私が生贄になって、皆がいなくなった後にひっそり逃げ出したらバレないよね?)

 という考えに至った桃玉。途端に彼女の覇気のない表情が消え、いたずらを考えている子どものような表情へと変わっていった。

(そうじゃない! 生贄に捧げられたらとっとと逃げたらいいんだわ! あ、でも……おじさん達の家には帰れないのかぁ……帰ったらバレてしまうものね)

 桃玉の表情は再び、覇気のない憂いを帯びた表情へと戻っていく。

(どうしよ……死にたくないし……)

 桃玉の苦悩をよそに、時間は残酷なまでの早さで流れていった。
 明け方。全く睡眠出来なかった桃玉の元に、昨日現れた下女とは違う下女が現れる。
 ややふくよかな身体つきに白髪混じりのボサついた髪に穏やかな顔つきをした下女が、暗い茶色の瞳を桃玉へと優しく向けた。

「おはようございます。桃玉様。お清めの沐浴の準備が整いましてございます」
「沐浴……お風呂に入るのですね?」
「はい。生贄として捧げられる方々は皆、沐浴で身を清めていただいております」

 この下女は年季の入った下女だけあって、生贄への扱い方やしきたりに通じている。桃玉は彼女に案内される形で屋敷内にある沐浴場にある浴槽につかり身を清めた。
 沐浴が終われば、この下女の手により、白に淡い水色をした美しい衣服に着替えて髪結いとお化粧が済む。

「髪結いもお化粧も終わりましたよ。美しゅうございます」

 下女から手鏡を渡された桃玉は、鏡に映る自分の姿にじっと目を通す。

(なんだか、私じゃないみたい)

◇ ◇ ◇

「足元に気をつけよ」

 全ての準備を終えた桃玉は、御輿の上に乗った状態で目的地となる山の奥深くへと移動していく。
 目的地へと通じる土埃の舞う道の近くの木々からは蝉の鳴き声がじっと絶えず鳴り響いていた。

「しっかり支えよ!」

 村長から御輿を担いでいる男性達に檄が飛ぶ。御輿を担いでいる男性達は、村長に仕える使用人が主。そして中には桃玉のおじもいた。
 
(ん?)

 桃玉の耳に飛び込んできたのは、馬が疾駆する時に発生する足音。

「誰か、来てる?」

 桃玉は音が鳴る方角へと顔を向けた。すると馬に跨った若い男が何人かを連れて、こちらへと近づいてくる。

「その女、こちらへとよこしな!」
 
 若い男は馬に鞭を与えながら、そう叫んだ。

「な、なんだ?!」

 若い男とは真逆に、御輿の動きが止まる。

「そこの女! 名は李桃玉だな?」

 若い男に声をかけられた桃玉は、口をパクパクさせながらもはい! と返事をする。

「よい返事だ。村長! 今からその女を我が後宮へと連れて行く!」
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