後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~

二位関りをん

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第32話 病?

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「医者は呼んだのか? すぐにこちらへ来させろ!」
「今女官が呼びに行った所でございます、佳淑妃様……!」
「わかった。しかし、このような事ははじめてだ……」

 佳淑妃の顔には焦りの色が濃く出ていた。桃玉も心配の顔を見せる。

「佳淑妃様……あの」
「なんだ、桃玉」
「佳賢妃様は熱を出した事はあまりないのですか?」
「ああ、仮病なら数えるのも飽きるくらいにはあるのだが」
(確かに仮病使いそうよね)
「佳淑妃様、お待たせしました……!」

 老いた男の医者が鼻から下を白い布で覆った状態で現れた。彼が引き連れている中年女性の薬師達も同じように鼻から下を白い布で覆っている。

「忙しい所すまないな。妹を診てやってほしい」
「かしこまりました。女官の皆様、帯を解いて楽な姿勢にお願いします」

 女官達は佳賢妃の服の帯を解き、楽な姿勢にさせた。医者は佳賢妃の首元に手を当て脈を測ったり、額に手を当てたりする。

「高熱ですな……流行り病になるやもしれませぬ」
「なんだと?!」
「しばらくは隔離すべきかと存じます。この事は皇帝陛下と皇太后陛下にすぐさま報告せねば……」
「了解した」

 佳淑妃は自身に仕える女官へすぐに龍環及び皇太后の元へ佳賢妃の容態を報告するように命じた。
 
「佳淑妃様。そして李昭容様も念の為隔離すべきかと」
「そうだな……わかった。桃玉も異論はないな?」

 隔離はすなわち、夜伽は出来ないという事でもある。佳淑妃は妃としての重要な役割を果たせない事から悔しい気持ちを抱えたが、すぐにその気持ちを押し殺す。

(流行り病だったら移しちゃだめだもんね……仕方ない)
「勿論です。佳淑妃様」
「もし、体調に変化があればすぐに医者を呼ぶんだぞ」

 こうして桃玉は戻ってきた自室にて隔離状態となった。桃玉付きの女官達は医者達がしていたように、白い布で鼻から下を覆う。

「桃玉様。ご体調はいかがですか?」

 中年くらいの女官からの問いに、桃玉は元気ですよ。と返した。

「何か変化がありましたらすぐにおっしゃってくださいね」
「はい、もちろん」
(怖いなあ……何も無ければいいんだけど)

 時間は流れ、夕方の皇太后への挨拶の時間が訪れた。桃玉は隔離となった為に参加は出来ないのだが、そのおかげか胸中はいつもより穏やかだった。

(皇太后陛下への挨拶に行かなくて良いのは助かるなぁ)

 お茶を飲みながらふぅ……。と息を吐く桃玉。そんな彼女へ女官が小さく折り畳まれた紙を差し出した。

「桃玉様。皇帝陛下より文でございます」
「ありがとうございます。……なんだろ」

 桃玉はぺらぺらと小さく折り畳まれた紙を広げる。

『佳賢妃の件は確かに聞いた。医者の言う通りしばらくは自室から出ないようにしてもらいたい。俺も後宮に様子を見に行きたいのだが……。また何かあれば文を寄越してほしい』

 文を読み終えた桃玉は、近くの棚から紙と文房具一式を取り出し、さらさらと返信を書き始めた。筆を持つ手には震える程の力が籠もっている。

「よし、これでいっか……」

 桃玉は書き終えた文が乾くのを待ち、女官へ龍環にこの文を届けるように指示を出した。

「かしこまりました。お届けいたします」

 女官が桃玉の部屋の外へ出た瞬間、廊下からざわざわと何か話し声が聞こえ出す。

「何だろう……」
「桃玉様。どうやら呪具が見つかったという話のようで」
「呪具?」

 呪具というのは、呪詛を行う時に使われる道具である。例えば呪詛対象の名前を書いた木彫りの人形だったり、札や呪詛対象となる人物の髪の毛や愛用の品など多岐に渡る。

「はい。しかも呪具には佳賢妃様のお名前が記されていたとの事で……」
「という事は、佳賢妃様はもしかして流行り病に罹ったのではなくて、誰かに呪詛されたって事……?」
「その可能性が高くなった、と……。ここは後宮です。最近はそのような噂はありませんでしたけど、昔から誰かが誰かを嫉妬し、呪詛するという話は珍しくありませんから……」

 女官からの言葉に桃玉は、ごくりと恐怖が入り混じったつばを飲み込んだ。


 
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