後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~

二位関りをん

文字の大きさ
47 / 79

第47話 行方不明の女官

しおりを挟む
「何!?」
「桃玉様、見てまいります……!」

 3人の女官が声がした方へと走っていった。糸が張り詰めるような緊迫した空気が流れる。

「桃玉様。照天宮で女官が行方不明になったようで。その女官がいた部屋に血痕が残されていた事から騒ぎになっていたようでございます」
「そうだったの……誰か呼びました?」
「宦官を」
「念の為私も見に行きます……!」
(何があったか、この目で確かめておきたい)

 女官の案内を受け、現場である行方不明の女官の部屋に入る。部屋の床には血痕が満開の赤い牡丹の花のように広がっていた。

「……!」
(うわ、思ったよりも量が多い……まさか殺人事件?)
「あの、どうしてこのような経緯になったか教えてくださいませんか?」

 桃玉は近くでかたかたと肩を震わせていた女官へ問う。

「あの子、昨日の夜からの夜勤で……今日は休みの日だと聞いていたのですが、姿を見せないなってなって……」
(それで様子を見に来たらこうなってたって事ね)

 すると部屋に宦官達がぞろぞろとやってくる。血痕を見ながら驚きの表情を見せる宦官達に、桃玉は声を掛ける。

「あの、この部屋を調べてください。もしかしたら事件かもしれない……!」
「わかりました。今からお調べします……!」
(まずは宦官に任せよう……)

 宦官にあとはお願いします。と告げ、自室に戻る桃玉。
 その最中、一連の騒ぎを物陰に隠れながら見ていた人物がいた。白い長髪をしたあの宦官である。

「……調べても無駄ですよ。まあ、好きなだけ調べると良いでしょう。その方が助かると言うもの」

◇ ◇ ◇

 女官行方不明の話は一気に宮廷中へと広まった。基本華龍国の女官は一度職に就けば宮廷から出る事は二度とないという背景が、大騒ぎになっている理由であろう。
 行方不明になった女官の名は梓晴ズーチン。29歳の女官で、後宮で働き始めてから15年は経過している人物だった。桃玉とは別の妃付きの女官で地味な存在だったが、穏やかで思いやりのある性格から先輩後輩から慕われていたという。
 勿論梓晴が行方をくらました話は龍環や皇太后らの耳にも入っていた。

「今、調査を行っているのだな?」

 龍環からの問いに、重臣ははい。とうやうやしく返事をする。

「早急に調査を進めよ。疑わしい人物がいればすぐに俺の前へと差し出せ」
「かしこまりました、陛下」

 龍環からの命を受けた重臣・宦官達はすぐさま梓晴の捜索に乗り出し、後宮にいる女官や下女にも捜索に加わるようにと命令が下された。あわただしくなった後宮で、桃玉は一抹の不安感を抱きながら、いつものように佳淑妃の元で稽古に励む。

「……」

 梓晴の事が気になるのを胸に秘め、無言で稽古に励む桃玉ら参加者達を、佳淑妃は複雑そうな目で見ていた。

「よし、今日は早めに稽古を終えよう」
「佳淑妃様?」
「……梓晴の件だ。私達も出来るだけ捜索に協力してほしいと皇帝陛下からの命があるのだから、それを果たさなければならない。それに貴女達の精神は稽古所ではないだろうと思ってな」
(見抜いていたって事ね……)
「佳淑妃様、申し訳ありません」

 桃玉の謝罪に、佳淑妃はなぜ謝る? と声に出した。

「皇帝陛下直々に出来るだけ捜索に参加するよう命令が出ているのだ。貴女は悪くない」
「……っ、すみません……」
「気を使わせてしまい、こちらこそすまないな。皆、今日はこれで解散だ。そして時間がある者は梓晴の捜索に参加するように」
「はい!」

 稽古が終わり、一旦自室に戻って着替えた桃玉。女官にあれから梓晴の捜索はどうなっているのかを尋ねると進展はありませんね……。という答えが返って来る。

「とりあえず、最後に梓晴の姿が見られたのはいつなんでしょう?」
「ああ、それは……彼女と共に夜勤を勤めていた女官に聞いてまいります。もしかしたら今、取り調べが行われている最中かもしれませんが」
「お願いします。取り調べが行われているなら、私も同席させてください。と伝えてください」
「かしこまりました。桃玉様」

 その後。取り調べがはじまり、龍環も後宮に来たという情報が女官からもたらされたため、桃玉は女官達を引き連れて取り調べが行われている現場へと向かった。

「皇帝陛下。桃玉でございます」
「ああ、君も来てくれたか。今分かっている事を話そう」
「お願いします」

 取り調べで判明した事をまとめると、梓晴は照天宮にいる九嬪の1つ、修媛の妃付きの女官で事件が起こる前は夜勤を勤めていた。修媛の妃が架子床の上で眠りについた後、梓晴は妃が起床時に水分補給を取る用にお茶を用意すべく茶葉を取りに厨房へと向かった……。というのが最後の目撃情報だった。
 なお、梓晴は聴力低下とめまいを起こす持病があり、めまいの発作が起きると勤務中でも自室に戻って休む事がたびたびあったという。妃も彼女の持病には理解を示している事から、途中で職務放棄して自室へと戻る行為を糾弾される事は無かったのである。
 ちなみに梓晴が姿を消した後、妃はお茶ではなく白湯を所望したので、茶葉を必要とはしなかったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

『後宮薬師は名を持たない』

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

処理中です...