後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~

二位関りをん

文字の大きさ
60 / 79

第60話 暇という名の追放

しおりを挟む
「李昭容。いい加減に理解しなさい。これは皇帝であるあの子が考えた事。それに背く事は皇帝陛下に背く事でもあるのですよ?」
「それは理解しています。ですがいきなりの申し出でなぜそのような事に至ったのか、考えが及ばず……」
「気にしなくて結構。力分、李昭容を外へ連れ出しなさい」
「御意にございます」
「っ!」

 力分が桃玉を後ろから羽交い締めにした。桃玉は抵抗しようとするも四方八方から力分がその身体からは見合わぬ強い力を与えてくるので身動きが取れない。

「では、参りましょう」
「っ! 龍環様……!」

 なんとか声を出した桃玉だが、抵抗にはならなかった。女官達は力分に怒りのこもった表情を見せながら皇帝が執務を行っている箇所へと走り出した。

「何をしているのです。持ち場に戻りなさい」

 女官を制する皇太后の声が、桃玉の背後から響き渡る。

(……なんで、私……龍環様、どうして……?)

 わけの分からぬまま力分に抱えられた状態で宮廷の出入り口までやってきた桃玉。出入り口の巨大な門の外に出ると力分はそっと重力を感じさせずに桃玉を降ろす。

「では、こちらお受け取りください」
「これはなんですか……?」
「手切れ金です。これくらいあればしばらくは生活に困らないでしょう」

 力分が差し出した木箱を受け取る桃玉。力分から早く立ち去ってくださいと言われるも足は動けないでいた。
 そんな桃玉を無視して踵を返し、宮廷へと戻る力分。彼はふうっ……と大きなため息を吐いたが表情はやや暗い。

「まだ安心は出来ないですね……」

 ぽつりと漏らされた彼のつぶやきが、風にかき消されていった。
 そして桃玉は呆然と宮廷の方を見る。

「なんでですか? 私が何かしたんですか?」

 宮廷からすぐ外の大通りには行き交う人々があちこちにいるのに、彼女の空虚な言葉に反応する者は誰もいない。

「……」

 ぎいい……。と桃玉を拒絶するように宮廷へと続く巨大な門が閉ざされた。閉ざされた門を見上げた桃玉は、もうここに戻る事は叶わない事を悟る。

(もう、龍環様には出会えないんだ……)

 唇をぎゅっと結び両手を硬く握る桃玉。本来ならこのような時には涙があふれ出て来るのだろうが、桃玉の目から涙があふれる様子はなかった。

「どうしよう……家に帰るべきか、それとも……」

 おじとおばに会いたい。という欲と共に、帰ってきたらまたいけにえにされてしまうのではないかという不安がせりあがって来る。結局桃玉はその不安に負けてしまい、おじとおばに会う事は断念した。

「この近くに家が無いか見てみよう……」

 ふらふらと大通りを歩く桃玉。大通りをまっすぐ歩いていくと市場へとたどり着いた。街1つ分はあるんじゃないかと思えるくらいの広大な敷地面積を誇る市場が桃玉を明るく迎えてくれる。

「すごい大きいな……」

 目を見開きながら市場のお店を歩きながら眺めていく桃玉。後宮の絢爛豪華な外見とはまた違った派手さと明るさが市場にはあった。すると彼女に目を付けた30代くらいの茶色っぽい黒髪と瞳にそばかすを持つ女性が後ろから彼女を肩をぽんぽんと叩く。

「ちょっといいかい?」
「はい、なんでしょうか?」
「良かったらこの果物達を売るのを手伝ってほしいんだ」

 声をかけられた桃玉は、彼女と彼女のいる店を見る。店主と思わしき彼女はどうやら妊婦のようで、桃玉が妃である事を知らないのか、或いはその辺礼儀作法を知らないのか気さくな口調だ。
 店は果物屋で数種類のみずみずしい果物が並んでいるのだが、その中には桃も3つくらいある。

「わかりました」
「今からタオ婆さんとこに預けている娘を迎えにいかなきゃならんのでね。値札は書いてあるからそれを見てくれ! ちょっとの間頼むよ!」
「はい! ……え? え?!」

 桃玉に勿論商売経験はない。ひとり店に取り残された桃玉は動揺するも、お客さんはどうやら見逃してはくれないようだ。

「姉ちゃん! その黄色いやつ頼むよ!」
「あっはい! こ、こちらですね?」
(私、こういうのやった事ないんだけど……ええい、やるしかない!)

◇ ◇ ◇

 桃玉が追放された宮廷では、龍環が執務を行っている部屋に桃玉の女官が彼女が作った切り絵を持ってやってきていた。

「どうした?」
「皇帝陛下、大変でございます。皇太后陛下により桃玉様が宮廷から追放されました!」
「なんだと?!」
「皇帝陛下の思し召しだと皇太后陛下は仰っておりましたが、まことでございますか?!」

 泣きながら龍環に直訴する女官。しかし彼女の後ろには皇太后と力分が現れる。

「全く。密告は許されないですよ」
「母上……どういうつもりで桃玉を宮廷から追放したんですか?!」

 目をかっと見開き、信じられないというような表情を浮かべる龍環。対して皇太后は目を大理石でできたなめらかな床に移す。力分はほんの少しおろおろと自信のない様子を見せ始めた皇太后を冷たい目線で見ていた。

「ああ……あの、その……」
「まさか、気分で追放した訳ではないですよね?」
「ち、違います! 李昭容があなたに良くない事を吹き込んでいるって情報を得て……!」
「誰から聞いたんです?」
「あ……それは……」

 困っている様子を見せた皇太后に、力分は私がお伝えしました。とにこやかな笑顔で語った。

「李昭容様は何やら異能が使えるご様子。この私が目にしましたからね。異能が使えるものをこの宮廷に置いておけば必ずや災厄の元になるでしょう」

 力分の穏やかな笑みには悪辣さが顔をのぞかせていた。

◇ ◇ ◇

「はあ……はあ」
「すまないねえ、でも助かったよ」

 市場のお店では桃玉が戻って来た女性からねぎらいの言葉をかけられている。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

『後宮薬師は名を持たない』

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

処理中です...