後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第9話 美華のやりたい事

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 浩明のいる大広間に、美華が女官達を引き連れて現れた。いつものように目元は黒い目隠し用の布で覆われているが、女官を従えているその姿には、皇后としての風格が少しだけにじみ出ているようにも見える。

「皇帝陛下。お目にかかれて光栄でございます」
「なんだ美華。どうやら昨日の疲れはすっかり癒えたようだな。申してみよ」

 早くしてくれという浩明の表情は、美華には分からない。ただ、女官からはばっちり見えているので彼女達は美華の背中をさすりながら、急かし始めた。

「では簡潔に申し上げますね。宮廷内に治療院を開設したいのです!」
「治療院だと?」

 美華からの提案に対し、浩明は美華には見えていないのをいい事にあからさまに眉をひそめる。
 
(待て待て。そのような予算も区画も今の宮廷内にはないぞ)

 話くらいは聞いてやるとさっき言った自分を殴ってやりたいと後悔し始める浩明。美華は白い歯を輝かせながら、浩明から言葉が紡がれるのを待っている。

「……そのような区画も予算も今の宮廷には無いのだが」
「だ、だったら後宮を……」
「後宮はお前の為だけにある場所ではない」

 浩明からの正論に、美華はそ、そうですよね……。と小さく返すのがやっとだった。

「話はそれだけか?」
「は、はい。そうです」
(やっぱりだめかな……良い考えだと思ったんだけど)

 しょんもりとした悲しげな様子を見せる美華に浩明の胸の奥が少しだけ痛んだ。彼の良心が反応したせいである。

「……はあ。美華。そんなに治療院を開きたいのか?」
「はい! 国中の人々をこの手で治したいのです!」
「女官達はどう思う?」

 浩明からそのように尋ねられるとは思ってもみなかった女官達は互いに顔を見合わせる。

「どうなんだと聞いているのだが?」
「は、はい! 私は……良い考えかと」
「私もそのように考えました」
「私もです……でも区画とか予算までは考えておりませんでした……」

 女官達も賛成の意志を示しているのを確認した浩明は頭の中でどこか良い区画は無いかとか、予算は大丈夫かなどと考え始めた。

(仕方ない。ちょうどいい場所は……ああ、そうだ。使わなくなった馬小屋でも改修するか。それなら予算は抑えられる)
「わかった。勝手にするが良い。場所は使わなくなった馬小屋があるからそこを改修するんだな」

 やや冷ためな浩明からの言葉に、美華は口をまん丸に開ける。

「そこまで驚く事か?」
「あっ……う、嬉しくて……! 陛下、ありがとうございます!」

 両手を天に掲げてやったあ! と叫ぶ美華に浩明は子供みたいに喜びおって……。と独り言を漏らす。
 しかし、浩明の胸の内はむしろ楽しみな気分で満ち溢れていたのだった。
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