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第12話 四夫人
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治療院が開院して3か月が過ぎた。美華はいつものように早く起きて朝食のおかゆをすすった後は、夜明けから日没までほぼ休む事無く治療院で人々へ波動の力を使い続けている。
治療院には薬師と医師も常駐するようになり、仮に美華の持つ波動の力で病が治っても、病が再発する可能性があったり頓服薬が必要そうだと判断した者には薬を無償で分け与えるようになった。
治療院に来るのは宮廷内外の者達に加え、龍の国以外の者も少しずつではあるが増えては来ている。例えばこのようなやり取りがあった。
「Headache and dizziness.」
(えっ? なんて言ってるんだろう……)
今、美華の目の前で症状を訴えている患者は龍の国から遠い西洋の国からやって来た商人である。白い肌に金髪碧眼と龍の国の民とはおおよそかけ離れた容姿を持つ彼の言語は、当然ながら美華や女官達には理解できない。
するとしばらくして何か国語かを話せる宦官が到着し、通訳を買って出てくれた。
「えっと、彼は頭が痛くてめまいもするという事です」
「ああ、なるほど。わかりました……どうですか? 少しは楽になってきましたか?」
「Yes! No more headaches and dizziness!」
「頭痛もめまいも無くなったと言ってます」
その商人は去り際薬師が水分をしっかりと取るように。と説明を受け、治療院を後にしていったのだった。
(外国語も勉強した方がいいのかしら……)
そんな治療院の事か誰かを治す事ばかり考え、後宮での動きには一切目もくれない美華だったが、とうとう美華に興味を抱こうとしない浩明と、夜伽に興味が無い美華両者に対ししびれを切らした家臣達の推薦を受け、多くの妃達が一斉に後宮入りしたのである。浩明からすればとんだ迷惑だが、浩明が今の美華に好意を抱く事が出来ずお飾りの皇后である以上、賛成に回るしかなかった。
(俺は正直嫌だが、仕方ない……)
龍の国の妃の位は美華である皇后を頂点とし、その次に貴妃・淑妃・徳妃・賢妃の四夫人と呼ばれる位がある。更に四夫人の下には昭儀、昭容、昭媛、修儀、修容、修媛、充儀、充容、充媛からなる九嬪と呼ばれる位があり、その下には捷妤、美人、才人からなる二十七世婦と呼ばれる位が続く。最下層が宝林、御女、采女の八十一御妻と呼ばれる位となるのだ。
そんな妃達の中かは、貴妃、淑妃、徳妃、賢妃の四夫人を紹介していこう。
「宮廷って思ったよりも広いですわね。落ち着いて本が読めますわ」
自室にて分厚い古書を呼んでいるのは、劉貴妃。美華よりも年上でちょっとしもぶくれた顔をした彼女は、こうして本を読むのが趣味だ。実の所浩明へ使える家臣への婚儀が決まっていたが急遽後宮入りが決まったという背景がある。
「劉貴妃様。古書を取り寄せいたしましょうか?」
「お願いいたしますわ」
「ではご用意いたしましょう」
本を読み耽る劉貴妃を、彼女付きの女官達はこう語る。
「噂に聞いていた通りの、落ち着きのある方」
「少し何を考えているかどうかがわからない。掴みどころの無い皇后様よりかは遥かにましだけど」
次は玉成淑妃。今回後宮入りした妃の中で最も若い妃だ。月のものは来たばかりでまだ幼さのぬぐえない彼女は、後宮入りしてからというものあちこち歩きまわって女官達を困らせている存在である。
「ねえ! これ何?! すんごい綺麗じゃない?!」
「そちらは先々代の皇后陛下がお書きになった書でございます」
「……なんて書いてあるの?」
彼女は字の読み書きができない。庶民農民下級兵士だけでなく、裕福な娘達の中でも決して珍しくない事ではあるが、劉貴妃など他の妃達には漢字が読める者が多い為、後宮ではやや浮いている状態だ。
後宮の女官は字が読める者と読めない者で大体半々。この後玉成淑妃は字が読める女官からの説明を聞いたが途中で飽きてまた別の建物へと移動してしまった。
「玉成淑妃様! お待ち下さい!」
その次は周徳妃を紹介しよう。今、彼女は自室から、興味心のままにあちこち歩く玉成淑妃を見つめていた。
「あのような子供に後宮は早いんじゃないですか?」
正論である。彼女付きの女官も頷くばかりだ。
「劉貴妃様も皇后様も彼女への教育・指導にはご興味が無い様子。ここは私が教育するしかないようですね」
周徳妃はとにかく真面目な人物だ。早速玉成淑妃の元へ足音を無らしながら向かう。
「玉成淑妃様。あまりお外をほっつき歩くのは、はしたないですよ」
「え~? 香翠ちゃんは真面目すぎるよ!」
「はい!?」
香翠は周徳妃の下の名前。玉成淑妃は相手に対しては基本このような感じで接している。
「玉成淑妃様! ちゃんと言葉遣いをですね……!」
「やだやだやだ! あたし怒られるのキライ!」
最後に紹介するのは、李賢妃。彼女は今、玉成淑妃と周徳妃の言い争いを遠くから聞いている。
(あぁ、もう! うるさいったら!)
彼女は外面こそ見目麗しい妃だが、内側では妃達へ対抗心を孕んでいた。嫉妬深い彼女は必ずや浩明からの寵愛を手に入れ世継ぎを産まなければならないと必死になっているのだが、まだ夜伽を任された事が無い。
「李賢妃様。温かいお茶でも召し上がられますか?」
(気が利くじゃない。ここはありがたく頂くとするわ)
「ありがとう。淹れて頂戴」
李賢妃は女官が用意した温かいお茶を飲みながら心を落ち着かせてから、喧騒から逃れるべく女官を連れて庭園へと移動していった。
(あら、綺麗な花があるわ。陛下に献上してみようかしら)
「この花摘んでくれる? 詩を添えて陛下に献上するわ」
「かしこまりました。李賢妃様」
(ふん、陛下の頂戴を賜るのはこの私なんだから!)
ちなみに李賢妃は、治療院で汗水流しながら民を治す美華の事を、ただのお飾り皇后として見下している。
民の事ばかり考えすぎな美華は、波動の力を持つ持たないに関係なく皇后としての務めを放棄しているただのお飾りの皇后。私の方が皇后にふさわしいのに。と嫉妬感すらあるくらいだ。
(五大名家に生まれたかった。そうだったら私が皇后になれていたのに)
持ち運び可能な筆記具を使い、高級な紙にさらさらと詩を書く。読み書きに詩も必死の努力の末に得た能力だ。他にも体型維持の為に厳しい食事制限を課したりしている。
浩明の元へ詩と摘んだ花々を持っていく女官の背を見送りながら、必ずや自分が世継ぎを産んでやると誓ったのだった。
治療院には薬師と医師も常駐するようになり、仮に美華の持つ波動の力で病が治っても、病が再発する可能性があったり頓服薬が必要そうだと判断した者には薬を無償で分け与えるようになった。
治療院に来るのは宮廷内外の者達に加え、龍の国以外の者も少しずつではあるが増えては来ている。例えばこのようなやり取りがあった。
「Headache and dizziness.」
(えっ? なんて言ってるんだろう……)
今、美華の目の前で症状を訴えている患者は龍の国から遠い西洋の国からやって来た商人である。白い肌に金髪碧眼と龍の国の民とはおおよそかけ離れた容姿を持つ彼の言語は、当然ながら美華や女官達には理解できない。
するとしばらくして何か国語かを話せる宦官が到着し、通訳を買って出てくれた。
「えっと、彼は頭が痛くてめまいもするという事です」
「ああ、なるほど。わかりました……どうですか? 少しは楽になってきましたか?」
「Yes! No more headaches and dizziness!」
「頭痛もめまいも無くなったと言ってます」
その商人は去り際薬師が水分をしっかりと取るように。と説明を受け、治療院を後にしていったのだった。
(外国語も勉強した方がいいのかしら……)
そんな治療院の事か誰かを治す事ばかり考え、後宮での動きには一切目もくれない美華だったが、とうとう美華に興味を抱こうとしない浩明と、夜伽に興味が無い美華両者に対ししびれを切らした家臣達の推薦を受け、多くの妃達が一斉に後宮入りしたのである。浩明からすればとんだ迷惑だが、浩明が今の美華に好意を抱く事が出来ずお飾りの皇后である以上、賛成に回るしかなかった。
(俺は正直嫌だが、仕方ない……)
龍の国の妃の位は美華である皇后を頂点とし、その次に貴妃・淑妃・徳妃・賢妃の四夫人と呼ばれる位がある。更に四夫人の下には昭儀、昭容、昭媛、修儀、修容、修媛、充儀、充容、充媛からなる九嬪と呼ばれる位があり、その下には捷妤、美人、才人からなる二十七世婦と呼ばれる位が続く。最下層が宝林、御女、采女の八十一御妻と呼ばれる位となるのだ。
そんな妃達の中かは、貴妃、淑妃、徳妃、賢妃の四夫人を紹介していこう。
「宮廷って思ったよりも広いですわね。落ち着いて本が読めますわ」
自室にて分厚い古書を呼んでいるのは、劉貴妃。美華よりも年上でちょっとしもぶくれた顔をした彼女は、こうして本を読むのが趣味だ。実の所浩明へ使える家臣への婚儀が決まっていたが急遽後宮入りが決まったという背景がある。
「劉貴妃様。古書を取り寄せいたしましょうか?」
「お願いいたしますわ」
「ではご用意いたしましょう」
本を読み耽る劉貴妃を、彼女付きの女官達はこう語る。
「噂に聞いていた通りの、落ち着きのある方」
「少し何を考えているかどうかがわからない。掴みどころの無い皇后様よりかは遥かにましだけど」
次は玉成淑妃。今回後宮入りした妃の中で最も若い妃だ。月のものは来たばかりでまだ幼さのぬぐえない彼女は、後宮入りしてからというものあちこち歩きまわって女官達を困らせている存在である。
「ねえ! これ何?! すんごい綺麗じゃない?!」
「そちらは先々代の皇后陛下がお書きになった書でございます」
「……なんて書いてあるの?」
彼女は字の読み書きができない。庶民農民下級兵士だけでなく、裕福な娘達の中でも決して珍しくない事ではあるが、劉貴妃など他の妃達には漢字が読める者が多い為、後宮ではやや浮いている状態だ。
後宮の女官は字が読める者と読めない者で大体半々。この後玉成淑妃は字が読める女官からの説明を聞いたが途中で飽きてまた別の建物へと移動してしまった。
「玉成淑妃様! お待ち下さい!」
その次は周徳妃を紹介しよう。今、彼女は自室から、興味心のままにあちこち歩く玉成淑妃を見つめていた。
「あのような子供に後宮は早いんじゃないですか?」
正論である。彼女付きの女官も頷くばかりだ。
「劉貴妃様も皇后様も彼女への教育・指導にはご興味が無い様子。ここは私が教育するしかないようですね」
周徳妃はとにかく真面目な人物だ。早速玉成淑妃の元へ足音を無らしながら向かう。
「玉成淑妃様。あまりお外をほっつき歩くのは、はしたないですよ」
「え~? 香翠ちゃんは真面目すぎるよ!」
「はい!?」
香翠は周徳妃の下の名前。玉成淑妃は相手に対しては基本このような感じで接している。
「玉成淑妃様! ちゃんと言葉遣いをですね……!」
「やだやだやだ! あたし怒られるのキライ!」
最後に紹介するのは、李賢妃。彼女は今、玉成淑妃と周徳妃の言い争いを遠くから聞いている。
(あぁ、もう! うるさいったら!)
彼女は外面こそ見目麗しい妃だが、内側では妃達へ対抗心を孕んでいた。嫉妬深い彼女は必ずや浩明からの寵愛を手に入れ世継ぎを産まなければならないと必死になっているのだが、まだ夜伽を任された事が無い。
「李賢妃様。温かいお茶でも召し上がられますか?」
(気が利くじゃない。ここはありがたく頂くとするわ)
「ありがとう。淹れて頂戴」
李賢妃は女官が用意した温かいお茶を飲みながら心を落ち着かせてから、喧騒から逃れるべく女官を連れて庭園へと移動していった。
(あら、綺麗な花があるわ。陛下に献上してみようかしら)
「この花摘んでくれる? 詩を添えて陛下に献上するわ」
「かしこまりました。李賢妃様」
(ふん、陛下の頂戴を賜るのはこの私なんだから!)
ちなみに李賢妃は、治療院で汗水流しながら民を治す美華の事を、ただのお飾り皇后として見下している。
民の事ばかり考えすぎな美華は、波動の力を持つ持たないに関係なく皇后としての務めを放棄しているただのお飾りの皇后。私の方が皇后にふさわしいのに。と嫉妬感すらあるくらいだ。
(五大名家に生まれたかった。そうだったら私が皇后になれていたのに)
持ち運び可能な筆記具を使い、高級な紙にさらさらと詩を書く。読み書きに詩も必死の努力の末に得た能力だ。他にも体型維持の為に厳しい食事制限を課したりしている。
浩明の元へ詩と摘んだ花々を持っていく女官の背を見送りながら、必ずや自分が世継ぎを産んでやると誓ったのだった。
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