後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第18話 あなたが犯人だったのですね

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 女官達の必死の呼びかけに李賢妃が応じる事はない。完全に気を失って倒れた李賢妃の周りを女官達が慌てて取り囲んでいる。

「ど、どうしましょう……!」
「とりあえず医師と薬師を呼んでまいりましょう……!」
「いや、ここは……皇后様をお呼びした方が良いのではないかしら……?」

 女官のひとりが放った言葉に、他の女官達はえっ? と一斉に鋭い視線を向けた。

「皇后様のお力をお借りするって言うの?!」
「そんなの、李賢妃様に知られたらどうするのよ! 私達、罰で死んじゃうかもしれないわよ!」
「で、でも……皇后様だったら李賢妃様も目を覚ますはずです! 医者や薬師でも治せない病をあの方なら治せるんですから!」

 彼女の一言に、他の女官達は互いに顔を見合わせた後、覚悟したかのように何度も首を縦に振ってから、何人か治療院へと走っていった。

「失礼します! 皇后様、少々よろしゅうございますか!?」

 李賢妃付きの女官達の必死な声を聞いた美華は、なにかあったのですか? といつも通りな穏やかな口調で返す。

「李賢妃様が気を失われたのです!」
「皇后様なら、李賢妃様を治してくださるかもしれないと考えまして……!」
「! では、李賢妃様をこちらに連れてきてくださいますか? あっえっと……担架にお乗せした方が良いですよね……」

 すると薬師の女性と美華付きの女官が治療院の奥から即席の担架を引っ張り出してきた。

「皇后様! 李賢妃様をお迎えしに行きます!」
「わかりました! お願いします……!」

 しばらくして、即席担架に乗せられた李賢妃が治療院に運び込まれてきた。医者が李賢妃の首元に触れて脈はある事を美華に伝える。

「わかりました。では、治します」

 治療院内の架子床の上で、仰向けに横たわる李賢妃に両手をかざすと、数秒後李賢妃が目を覚ました。

「あ、ここは……?」
「李賢妃様。雪美華ですよ~。ここは治療院です」
「はあっ!?」

 ガバっと勢いよく飛び上がる李賢妃を薬師と医者が制する。その傍らで李賢妃付きの女官達が互いに身を震わせていた。
 彼女達は治療院に運んだ自分達に李賢妃から罰が与えられるやもしれないと恐怖に苛まれているのである。

「な、なぜ……」
「助けたのかって? 当たり前では無いですか。私は分け隔てなくお助けします」
「……どうせ、陛下目当てなんでしょ!?」

 ――皇后様は素晴らしいお方だわ! お飾りの皇后様だなんて嘘よ。
 ――きっと陛下が皇后様を独り占めしたい嘘に決まっているわ。

 美華への言葉が脳裏に溢れている最中、李賢妃は頭を抱える。一体だれを信じればいいの? という叫びが彼女の心の中で何度も繰り返された。

「私、陛下目当てなんて事は無いですよ? だってただのお飾り皇后ですもの」 
「うそに決まって……」
「私、陛下からのご寵愛だなんてどうだっていいんです」
「……本当に?」

 はい。と即答する美華。ひとつの疑いが晴れた事でやっぱり皇后の素質なんてないんじゃないの。と李賢妃の中で美華を見下す感情が再燃し始める。

「私が五大名家の娘だったら、今頃私は皇后の座にいたはずなのよ……!」
「李賢妃様?」
「お飾りだからって、皇帝からの寵愛を賜る事を諦めるだなんてそれはもう皇后としての責務を放棄しているのと同じだわ!」
「……そうなのですか?」

 まるでわかっていないとでも言うような美華へ、李賢妃はさらに追い打ちをかける。

「私はそんな女がのうのうと皇后の座にいるのが許せない!」

 彼女の叫びは、列をなしている民達にもばっちり聞こえていた。すると彼らから小さい声が湧く。

「俺は……民の事を考えてくれる皇后様の方が良いなあ」
「世継ぎを産むだけじゃなくて、俺らの事もちゃんと考えてくれる人が良いよ」
「皇后様は、こんな貧しくて醜くていい所ひとつもない私達にも、こうして分け隔てなく接してくれているのに……」
(なっ……ここにいる人達は皆、皇后様の方が良いって事?!)

 目をかっ開いて民達の言葉を聞いている李賢妃の中では何かが崩れ落ちていくような、そんな感覚が胎内で起こり始めていた。

「……何よそれ。世継ぎよりも民に寄り添った方が皇后にふさわしいって事?」
「繰り返しますけど、私は世継ぎなんかどうでもいいんです。何ならあなたが産んでくださって大いに結構ですし」
「なんなら会話になってない気がするけど……もういい。わかったわ。この治療院を荒らしたのは私よ」

 ついに白状した李賢妃。美華を直視できずに床に目を向けている。

「そうだったんですか。あなたが犯人だったのですね。それで?」
「それで? って……あなたは皇后でしょ? 私に罰を与える事なんてたやすいんじゃないの?」
「そんな事はしませんよ。時間の無駄なので。では私は人々を病を治すのに戻りますので」
「時間の無駄ぁ?! ちょ、ちょっと待ちなさいったら!」

 ほんと、何なのこの皇后! 意味が分かんない! と李賢妃は心の中で叫びながら、架子床より起き上がり美華の元へ駆け寄る。
 だが、民達は彼女へ嫌そうな視線を向けていたので、今日の夜にお茶会しましょう。と誘いを出すのにとどめたのだった。

「いいですよ。夕食もかねてお茶会を開くとしましょう」
「ええ、約束忘れたら許さないんだから」
「勿論忘れませんとも。大事な方からの約束ですものね」
(はあ、私が大事な方……? 全く、何を考えているか分からない皇后様ね……)

 治療院を退出した李賢妃は念のためという事で自室で医師からの診察を受けた。彼女が意識を失ったのは貧血によるものだったというのが判明したのである。

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