後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

第32話 浩明の後悔

　美華が四夫人らと夕食を共にしている頃、浩明はひとり自室にこもり夕食を取っていた。

（やはり、言い過ぎたかもしれない）

　美華に言い放った言葉を、何度か反芻した彼は美華へ申し訳無い気持ちを抱えていたのである。

（やはり、単なるわがままではないか。謝罪するならどうしたら……）

　だが、これしきの事で家臣や宦官に相談するのも気が引ける。ここはあくまで自らの力で解決したいと考えた彼は、鶏肉と葉野菜の炒めものを口にすると、酸味のある調味料の味が舌全体を覆った。

（酸っぱいなあ……酸味が身に染みる）

　食事を終えた彼は、皇帝の印字が必要な書類に目を通しながらも、脳内は美華の事で一杯だった。

（まずは……美華に会って直接謝罪しよう）

　次に直接謝罪するにはどういう場にすべきかを考えていく。閨だと廊下で待機している宦官に聞かれる可能性を察した浩明は、鶴龍殿に行ってから庭園の東屋に連れて行くのはどうだろうかと閃いた。

（庭園東屋なら開けているし、宦官らに聞かれる必要も無い）

　自分が手を繋いで東屋まで案内すれば大丈夫だろう。最悪おぶっていけば何とかなるはずだ。と答えを出した浩明。寝る前に彼は宦官を呼び、明日の夜に美華に会いに行く。と告げる。

「鶴龍殿に迎えに行くと伝えてほしい」
「かしこまりました」

◇　◇　◇

　四夫人らと語らい合う美華の元に、浩明の伝言を伝えに宦官が現れた。　

「皇后様。明日の夜、皇帝陛下が鶴龍殿に参られるとの事でございます」

　予想打にしていなかった浩明からの動きに四夫人は一斉に目を見開きながら美華を見る。当の美華もごくりと唾を飲み込んだ。

「皇后様、好機が訪れましたわね」

　にやりと笑う劉貴妃へ、美華は両手を固く握りしめながらそうみたいですね。と返す。

「なんだか、緊張してきました……」
「確かに、手の拳が震えておりますわね」
「劉貴妃様……変ですか？」
「いや、変ではありませんわよ」

　周徳妃と李賢妃も緊張する事は変ではない事を美華に教える。

「美華ちゃん、緊張すると胸がドキドキするよね！」
「玉成淑妃様……胸のドキドキもですけど、手の震えと手汗も感じています」
「手の汗すんごいわかる！　手汗だらけになると紙が濡れるんだよね！」

　ふふっ……と緊張のあまり無意識に歯を食いしばっていた美華の口元が緩んだ。

「玉成淑妃様とお話していたら、ちょっと緊張がほどけてきました」
「本当!?　へへっ、よく言われるんだよね！」
「まあ、確かにそれわかるかも……」
「李賢妃様!?　何を仰るのです!?」

　ははは……。と次第に朗らかになっていく空気が美華