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第55話 両腕の無い少女
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釣りや、龍族に伝わる遊戯などを楽しんでいた時間もあっという間に流れ、いよいよ宮廷に戻るが訪れた。
(う――ん、御仏様、会えないなぁ……)
美華はあれから、御仏とは再会できていない。なので本当に御仏の言う通り力を増したかどうかはわからないままだ。
そんな今、村の入り口にて大勢の人々が見送りに駆けつけてきている。
「鈴蘭、達者でな」
「うん、お祖父様」
……鈴蘭はこれから海才人として後宮入りする事になる。宮廷入りすれば文のやり取りは出来るがもう海龍村には基本戻れない。
公務で同行するという事が無ければの話だが。
「最後に問う。本当に良いのだな?」
最終確認をかねて浩明が問うと鈴蘭はもう覚悟は出来ておりますから。と力強く返した。
鈴蘭が用意された御輿に乗り込むと、彼女の家族達や村の女達からの歓声が上がる。
「鈴蘭、がんばれ!」
「アンタ、弱音吐くんじゃないよ!」
「やぁい、インチキ呪術師!」
「わかってる! あとインチキじゃない!」
インチキ! と言い放った子供にべっ! と舌を出す鈴蘭。村長はやれやれ……。と頭をかいたがこれなら後宮でも大丈夫そうじゃな。と苦笑いを浮かべて呟いたのだった。
「動きますよ」
御輿が動き始めて海龍村が小さくなっていく。美華はまた来る日がありますように。と願いを込めながら村を後にしたのだった。
◇ ◇ ◇
「皆さん。海才人が今日から治療院にて働く事になりましたのでよろしくお願いします」
宮廷に戻り3日後の早朝。治療院では海才人こと鈴蘭の自己紹介が行われる。
「海鈴蘭と申します。後宮入りする前は巫女をしておりました。この力、必ず皇后様よりも役に立って見せます!」
気の強さと美華への対抗心は相変わらずだが、他の妃や女官達は彼女を温かく出迎えてくれた。そんな彼女に一番最初に興味を示したのは玉成淑妃である。
「ねえ鈴蘭ちゃん! 巫女なんだって?」
「そうですよ! 私は実力者でしたから!」
いきなり話しかけられるもいつものように自信を見せる鈴蘭。
そこへ周徳妃が現れる。
「玉成淑妃様。いきなり海才人に話しかけないでください」
「え――けち」
「あ、あなたは……周徳妃様」
「玉成淑妃様はいつもあんな感じなんです。私も手を焼いておりまして……」
わかりやすくため息を吐く周徳妃に、海才人はああ……。とにが笑いを浮かべた。
「私も故郷でよく子供に馬鹿にされたりしてきましたから、お気持ちはよくわかります」
「あっ、そうなのですか?」
「はい、まあ私は巫女ですから。これしきどうってことないです」
すると周徳妃は何やら思いついたのか、手をパンと叩く。
「あなた、よければ玉成淑妃様の教育係しません?」
「お目付役みたいな感じですか? いいですよ!」
……生真面目な2人が意気投合したある意味歴史的な瞬間となった。
「なんだか嫌な予感がするかも……」
玉成淑妃が気がつくも、彼女達を止める者は誰もいないのである。
美華はいつものように患者に手かざしをして病を治しているが、ある手応えを感じていた。
(治す速度が速くなっている)
そして手から放たれる波動の力も強くなっているように感じるのだ。
(……何人か並べて一気に治してみようかな)
思いついたら一直線。美華は女官に5人くらい患者を前に並べて欲しいと伝える。
「かしこまりました」
分級を終え、5人の患者が美華の前に並ぶ。4人はそれぞれ老いた男女。1人は両腕が無い少女だ。
「では、治しますからね」
「皇后様、治せるといってもこれは生まれつきのモノだよ?」
両腕のない少女が足を器用に動かしながら語る。口調は玉成淑妃を想起させるものだ。
美華はそれでも大丈夫ですよ。と語る。
「うぅん……でも私はこのままの方がいいんだ」
「そうなのですか?」
勿論美華にとって患者から治療を拒否されるのは初めてだ。美華はとりあえず理由を聞くべく対話を続ける。
「お母さんに連れられてきたんだけど、私はこのままで良いと思ってる」
理由は彼女はこの身体を見世物とする事で稼いできたからだと教えてくれた。
それに大抵の事なら足と口で何とかなる。とも語る。
「面倒なのは食事くらいかな、犬みたいに食べなきゃだから」
「ほうほう……もし、見世物以外に稼げる方法があるなら治しますか?」
この美華からの問いに対して、少女は悩む表情を見せた。
「……仕事によるかなぁ」
(う――ん、御仏様、会えないなぁ……)
美華はあれから、御仏とは再会できていない。なので本当に御仏の言う通り力を増したかどうかはわからないままだ。
そんな今、村の入り口にて大勢の人々が見送りに駆けつけてきている。
「鈴蘭、達者でな」
「うん、お祖父様」
……鈴蘭はこれから海才人として後宮入りする事になる。宮廷入りすれば文のやり取りは出来るがもう海龍村には基本戻れない。
公務で同行するという事が無ければの話だが。
「最後に問う。本当に良いのだな?」
最終確認をかねて浩明が問うと鈴蘭はもう覚悟は出来ておりますから。と力強く返した。
鈴蘭が用意された御輿に乗り込むと、彼女の家族達や村の女達からの歓声が上がる。
「鈴蘭、がんばれ!」
「アンタ、弱音吐くんじゃないよ!」
「やぁい、インチキ呪術師!」
「わかってる! あとインチキじゃない!」
インチキ! と言い放った子供にべっ! と舌を出す鈴蘭。村長はやれやれ……。と頭をかいたがこれなら後宮でも大丈夫そうじゃな。と苦笑いを浮かべて呟いたのだった。
「動きますよ」
御輿が動き始めて海龍村が小さくなっていく。美華はまた来る日がありますように。と願いを込めながら村を後にしたのだった。
◇ ◇ ◇
「皆さん。海才人が今日から治療院にて働く事になりましたのでよろしくお願いします」
宮廷に戻り3日後の早朝。治療院では海才人こと鈴蘭の自己紹介が行われる。
「海鈴蘭と申します。後宮入りする前は巫女をしておりました。この力、必ず皇后様よりも役に立って見せます!」
気の強さと美華への対抗心は相変わらずだが、他の妃や女官達は彼女を温かく出迎えてくれた。そんな彼女に一番最初に興味を示したのは玉成淑妃である。
「ねえ鈴蘭ちゃん! 巫女なんだって?」
「そうですよ! 私は実力者でしたから!」
いきなり話しかけられるもいつものように自信を見せる鈴蘭。
そこへ周徳妃が現れる。
「玉成淑妃様。いきなり海才人に話しかけないでください」
「え――けち」
「あ、あなたは……周徳妃様」
「玉成淑妃様はいつもあんな感じなんです。私も手を焼いておりまして……」
わかりやすくため息を吐く周徳妃に、海才人はああ……。とにが笑いを浮かべた。
「私も故郷でよく子供に馬鹿にされたりしてきましたから、お気持ちはよくわかります」
「あっ、そうなのですか?」
「はい、まあ私は巫女ですから。これしきどうってことないです」
すると周徳妃は何やら思いついたのか、手をパンと叩く。
「あなた、よければ玉成淑妃様の教育係しません?」
「お目付役みたいな感じですか? いいですよ!」
……生真面目な2人が意気投合したある意味歴史的な瞬間となった。
「なんだか嫌な予感がするかも……」
玉成淑妃が気がつくも、彼女達を止める者は誰もいないのである。
美華はいつものように患者に手かざしをして病を治しているが、ある手応えを感じていた。
(治す速度が速くなっている)
そして手から放たれる波動の力も強くなっているように感じるのだ。
(……何人か並べて一気に治してみようかな)
思いついたら一直線。美華は女官に5人くらい患者を前に並べて欲しいと伝える。
「かしこまりました」
分級を終え、5人の患者が美華の前に並ぶ。4人はそれぞれ老いた男女。1人は両腕が無い少女だ。
「では、治しますからね」
「皇后様、治せるといってもこれは生まれつきのモノだよ?」
両腕のない少女が足を器用に動かしながら語る。口調は玉成淑妃を想起させるものだ。
美華はそれでも大丈夫ですよ。と語る。
「うぅん……でも私はこのままの方がいいんだ」
「そうなのですか?」
勿論美華にとって患者から治療を拒否されるのは初めてだ。美華はとりあえず理由を聞くべく対話を続ける。
「お母さんに連れられてきたんだけど、私はこのままで良いと思ってる」
理由は彼女はこの身体を見世物とする事で稼いできたからだと教えてくれた。
それに大抵の事なら足と口で何とかなる。とも語る。
「面倒なのは食事くらいかな、犬みたいに食べなきゃだから」
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この美華からの問いに対して、少女は悩む表情を見せた。
「……仕事によるかなぁ」
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