後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第56話 西洋の国から

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「じゃあ、どんな仕事がしたいですか?」
「そうだなぁ、お金たくさんくれるなら」

 両腕の無い少女は一家の長女で、弟妹がたくさんいるそうだ。

「とくに弟達は食べ盛りなんだよねぇ。だから食費が大変で」
(……下女として働いたら、かなりのお金は稼げそうだけど)

 試しに美華は下女として働いてみるのはどうかと少女に尋ねるが、家族と二度と会えなくなるのも困ると言う。

(……このまま治さない方がいいかなぁ)

 すると彼女の母親が皇后様! と叫びながら美華の足元にすがりつくようにして土下座してきた。

「お願いします! 娘の両腕を生やしてください!」

 美華は先ほど彼女は無くてもいいと言っていた事を話すが、母親は受け入れようとしない。

「何を言っているのよ! 治してもらわないとずっといじめられるのよ!」
「でも……別に私は……」

 他の4人の患者からはそのままでいいのでは? という意見や、治さないと嫁のもらい手が無いだろうとの意見も出る。

「私はあなたの為に連れてきたのよ! あなたも治したいって言ってたからここに来たんじゃない!」
「あれは嘘だよ。私はやっぱりこのままでいい」
「だめよ! 嫁のもらい手が無いと困るのよ!」
「だったら尼にでもなるよ」

 達観した様子を見せる彼女に、母親ははあ……。とため息を見せる。

「だったらここで働かせてもらいなさい」
「でも、皆と離れ離れになるのは……」
「うるさい! お母さんの言う事を聞けない子は家に帰ってこなくてよろしい!」

 いきなり声を荒げた母親に、両腕の無い少女は肩を震わせる。4人の患者も呼応するかのように母親をじろりと見た。

「ここで働くのも嫁にいくのも変わらないわ」
「お母さん……いやだよ」
「皇后様、よろしくお願いします」

 頭を下げる母親と固まる両腕の無い少女。美華はどちらが良いのか必死に思考を巡らせる。

「……皇后様。どうするおつもりなのですか?」

 たまたま近くにいた劉貴妃が眉をひそめながら美華に聞いた。

「劉貴妃様はどうします?」
「私ならお引き取り願いますね。話し合うべきかと」

 ここで美華の脳裏には正妻に虐げられていた過去がよぎる。彼女とは一方的な関係で、対等に話し合う事は無かった。

(私は話し合う事は無かったな……)
「おふたりとも。今日は家にお帰りください」

 美華の発言に、2人はえっ。と小さな声を出す。

「おふたりでどうすべきかしっかり話し合うべきかと思います」
「こ、皇后様……!」
「治す覚悟が決まりましたらまたこちらに来てください。それと……」

 美華の言葉にふたりはしっかりと耳を傾けている。

「娘さんは家族思いな子だと、私は思いました」

 両腕の無い少女と母親が共に治療院から姿を消したのと同時に美華は4人の患者に手をかざす。

「おおっ……!」

 波動の力は4人の患者をまとめて治していく。そして複数の患者に手かざししても美華の息がきれない。

(これなら……これならいける!)

 病が治り喜びあう患者達の側で、閃くような手応えを掴んだ美華は右手をぐっと力強く握りしめた。

◇ ◇ ◇

 次の日の午前中。玉座に座る浩明の元にミハイルが現れる。ミハイルは相変わらず西洋の国の服装のままだ。そこが彼らしいといえば彼らしいのかもしれない。
 傍らにはミハイルの妻がおり、ミハイルと同じ金髪碧眼で色白な彼女はドレスという名の白く美しい衣服を身に纏っている。

「陛下。ご機嫌麗しゅうございます」
「ああ、どうやらだいぶ龍の国の言葉に慣れてきたようだな」
「まだ少し難しいがありますが、だいぶ慣れました」
「今日はどのような件でこちらに来たんだ?」

 するとミハイルが顎を使って近くにいた召使に指示を出す。そして召使が彼の後ろから文を渡した。

「我が国には難病奇病を抱えた者が未だ数多くおります。彼らを救うために、皇后様にはぜひ我が国においでてほしいのです」

 ミハイルの言葉に浩明は絶句した。
 その頃の治療院では、家臣団が予告もなく突然に治療院に姿を現し、美華を呼びに行っていた。

「皇后様。陛下がお呼びでございます」
「……今から行かないといけない感じでしょうか?」

 美華からの問いに家臣団はそうです。と重い口調で返事をする。美華は椅子から立ち上がると家臣団と女官の先導を受けて、治療院から浩明のいる大広間へと移動した。

「お待たせいたしました。陛下。雪美華でございます」
「美華、来てくれたか。仕事中すまないな」
「いえ、お気遣いなく。して、何の用でございますか?」

 ここで美華の元にミハイルの妻であるヴィンセドールス侯爵夫人がやってきて、あれこれ説明を始めた。
 説明を要約すると、ミハイル夫妻の国には昔から聖女なる存在がおり、美華と同じように病を治す力を持っているようだが、百年くらい前を最後に現れていないのだという。
 医師や薬師こそいれど、聖女のような万能な存在ではない。その為聖女とよく似た存在である美華の力を借りたいと申し出に来たのだった。

「なるほど……私とよく似た存在があなた達の国にもいたのですね。なんだか運命を感じます」
「美華、それで君はどうするんだ?」

 浩明からの問いに対し、美華は迷う事無く行きたいです! と返事する。

「……やはり、君ならそういうよな」

 そんな浩明の顔はとても寂しそうなものに変化したのだった。

「君には、行ってほしくないんだよ」
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