後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第60話 君の為に

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 翌日の午前中。美華の異母弟である福勝が浩明の元を訪れた。

「陛下、お目通りが叶いまして恐悦至極に存じます」
「雪福勝、久しぶりだな」
「そうでございますね。姉上はご息災でしょうか?」
「ああ、美華も元気だ。変わらず治療院でも頑張っているよ」

 福勝はほっと笑みを浮かべると、実は……。と話を切り出した。

「わが雪家も治療院を開きたいと考えております」
「ほう、そうか」
「父上もわが提案を後押ししてくださいました」
「なるほどな。勿論良いぞ。思う存分力を注ぐと良い」

 浩明からの許可が降りたのを確認した福勝は、ありがとうございます! と感謝の気持ちを表したのだった。

◇ ◇ ◇

「治療院が増えますね、陛下」

 この日の夜。皇帝の閨にて美華が嬉しそうに語りながら治療院の新たな計画について振り返り始めた。

(美華……嬉しそうだな)
 
 まず龍の国の南と西にひとつずつ。そして福勝の申し出により雪家にも新たに治療院が誕生する。計画を再度浩明から聞いて振り返る美華だったが、何かを思い立ったような口元になる

 
「ですが、それだけでは少し不安ですね。いかんせん龍の国は広大ですから」
「そうだな。増やすとしても、どこに……」
「……移動式の治療院はどうでしょうか?」
「……船、とかか?」

 船なら河川に乗って様々な場所へと移動が可能だ。龍の国には大きな大河がいくつか存在する為大型の船もある程度の距離なら往来が出来る。

「船か、良いな。船を造るか。あとは大量の医師や薬師が必要になるな」
(そういえば……ミハイルの国には、医師や薬師を養成する養成所があると聞いたな)

 しかし、龍の国には医師も薬師も専用の養成所は無い。そして教える役割を担える者もいないのだ。

「新たに医師薬師を養成する養成所を建てる必要があるな」
「そうですね……誰が教えるか……やはり宮廷の医師や薬師が教える役にふさわしいでしょう」
「そうだな。美華と同じ考えだ」

 閨の中で計画を膨らませていく2人の顔は綻んでいる。

「養成所はどこに建てます? やはり宮廷から近い方が良いでしょうが……」
(宮廷から近い場所……西側に空き地があるな)

 浩明が思いついた場所を美華に教えると、美華はではそこに致しましょう。と返した。

「それにしても陛下、すごい熱の入れっぷりでございますね」

 美華から指摘された浩明は、確かにそうだな。と前置きしたうえで閨に横たわる美華の髪をなでながら切り出す。

「君は本当ならミハイルの国に行って難病の患者を治したいと語ったな」
「そうでございます……見捨てるのは、少しばかり……」
「だから、そんな君を支えたいと思ったのだ。もっと君の為に動きたいって」

 そっと髪をかきやる浩明の手つきに美華の心臓は高鳴っている。

「君のおかげで今、この国は大きく変わろうとしている」
「……! あ、ありがとう、ございます……?」
「ああ。そして君は俺の大事な皇后だ。だからもっと自信を持って良い」

 彼から紡がれた言葉が、美華の心を温かくさせてくれる。美華は自身の髪をすく彼の手の甲にそっと自身の手を重ねたのだった。

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