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第62話 学校を作りましょう!
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「何か閃いたようでございますわね、皇后様」
「そう見えますか? 劉貴妃様」
劉貴妃が美華の口元を覗き込んでいる。
「そういえば……あの患者の方、文字の読み書きが出来ないとおっしゃっておりましたね」
「ええ、私も聞きましたわ」
この国では庶民農民下級兵士だけでなく、裕福な娘達の中でも決して珍しくない事ではある。なんなら玉成淑妃だって文字の読み書きは出来ないのだから。
(……今はどれくらい読み書き出来るのかしら。玉成淑妃様は)
ちなみに劉貴妃など他の妃達には漢字が読める者が多く、後宮の女官は字が読める者と読めない者で大体半々と言った具合だ。
「それで、私。文字の読み書きや薬草などを教える場を新たに作りたいと思いまして」
「教える場、ですか」
美華の頭の中には、浩明と交わした会話が浮かび上がる。
――新たに医師薬師を養成する養成所を建てる必要があるな。
――そうですね……誰が教えるか……やはり宮廷の医師や薬師が教える役にふさわしいでしょう。
――そうだな。美華と同じ考えだ。
医師や薬師になりたい者はまず読み書きが出来る者でなければならない。治療院で働いてきた美華はそれをよく知っているのだ。
あの紹介状だって、書いたのは医師である。
「そうです。下地を伸ばしていくのも必要だと感じまして」
「ええ、良い考えだと思いますわ」
「ありがとうございます。劉貴妃様」
治療院が終わり夜。美華はさっそく女官に文を書かせて己の考えを浩明に伝えた。
「なるほど、読み書きを教える場も必要……か」
(今日はもう遅い。明日の……昼食会を開いて美華と考えを共有しよう)
浩明は明日の昼、ミハイル夫妻を連れてくるようにと家臣団に指示を出した。
「急ではあるが、昼食会を開く。皇后も同席させる。準備を頼む」
「はっ、かしこまりました。陛下」
指示を受けた家臣団や宦官達がちりぢりになって消えていく。するとその場に残った老いた家臣ひとりが浩明の顔を目に焼き付けるようにして眺め始めた。
「なんだ? 何かあるか?」
「いえ。陛下のお顔が活き活きされている事と、この龍の国が大きく変わっていくのが、感慨深く……」
「そうか。……美華のおかげだよ」
「皇后様はまことに素晴らしいお方でございます。あの方が皇后となってくれて、私も嬉しゅうございます」
最初は目が見えなくて、周りに迷惑をかける者だと思っていた。波動の力を使い、誰かを治す事に注力する傍ら、世継ぎを産む事には執着心を見せない彼女をお飾りだとも感じていたが、今は違う。
(俺の大事な皇后であり、この国の宝だ)
◇ ◇ ◇
翌日の昼。ミハイル夫妻が招かれ昼食会が開かれた。ミハイル夫妻は西洋の国の服装ではなく、龍の国の裕福な家族が着用するような衣服に身を包んでいる。
机の上には、贅の限りを尽くした宮廷料理がずらりと並んだ。
「陛下、今日は昼食会にお招きいただきありがとうございます」
ミハイルは更に流暢に龍の国の言葉を操れるようになっており、妻であるヴィンセドールス侯爵夫人も、夫と同じくペラペラと龍の国の言葉を繰り出す。
「では、昼食会をはじめよう」
食事をしながらの話し合いが始まった。美華は波動の力を借りながら、食事を進めていく。
(美味しい)
「まず、美華。そなたはまた新たな考えを思いついたようだな」
「はい。読み書きや薬草についてなどを教える場を新たに龍の国に作りたいと考えております」
「ほほう、学校の事でございますね。皇后様」
ヴィンセドールス侯爵夫人は、にこりと笑いながらお茶を飲む。
「学校? でございますか?」
「はい。school……わが国ではそのように呼んでおります」
「あの、ヴィンセドールス侯爵夫人様。学校について詳しくお聞かせ願えますか?」
ヴィンセドールス侯爵夫人からの説明をまとめると彼らの国には読み書きに算数、そして国の内外の歴史や地理に乗馬、それらに加えて女子は裁縫を、男子は剣術を習うのだと言う。
「ですが、この学校は貴族の子女が通うもので、貴族学校と呼ばれております」
「庶民はどうするのですか?」
「庶民は庶民で学校があるにはあります。貴族学校とは違い読み書き算数の最低限ですが……」
だがヴィンセドールス侯爵夫人曰く、国の全ての庶民のうち、大体3割ほどしか学校には通っていない状態だと言う。
「なぜですか? 全員通っていないと……」
「学校に通うには、授業料を支払わなければならないのです」
「授業料だと?」
「学校は国が運営している訳ではないので、大体は維持運営者へお金を支払わなければならないのです。シスター達教会が運営している学校だと無償の学校もあるのですがまだまだ稀です」
学校を建て、維持運営するにはお金は必要不可欠だ。その財源をどうすべきか……。浩明と美華は頭を悩ませる。
「……財源、軍備を割いてこっちに充てるべきか? だがそうなればいざという時が大変だ」
「陛下……」
(そうだ。もっと考えるべきだった……)
「……学校を作るなら新しく建物を建てなければならないですし……」
そこで浩明が何やら思い立ったかのような顔を見せる。
「新しく建物を作る……?」
「そう見えますか? 劉貴妃様」
劉貴妃が美華の口元を覗き込んでいる。
「そういえば……あの患者の方、文字の読み書きが出来ないとおっしゃっておりましたね」
「ええ、私も聞きましたわ」
この国では庶民農民下級兵士だけでなく、裕福な娘達の中でも決して珍しくない事ではある。なんなら玉成淑妃だって文字の読み書きは出来ないのだから。
(……今はどれくらい読み書き出来るのかしら。玉成淑妃様は)
ちなみに劉貴妃など他の妃達には漢字が読める者が多く、後宮の女官は字が読める者と読めない者で大体半々と言った具合だ。
「それで、私。文字の読み書きや薬草などを教える場を新たに作りたいと思いまして」
「教える場、ですか」
美華の頭の中には、浩明と交わした会話が浮かび上がる。
――新たに医師薬師を養成する養成所を建てる必要があるな。
――そうですね……誰が教えるか……やはり宮廷の医師や薬師が教える役にふさわしいでしょう。
――そうだな。美華と同じ考えだ。
医師や薬師になりたい者はまず読み書きが出来る者でなければならない。治療院で働いてきた美華はそれをよく知っているのだ。
あの紹介状だって、書いたのは医師である。
「そうです。下地を伸ばしていくのも必要だと感じまして」
「ええ、良い考えだと思いますわ」
「ありがとうございます。劉貴妃様」
治療院が終わり夜。美華はさっそく女官に文を書かせて己の考えを浩明に伝えた。
「なるほど、読み書きを教える場も必要……か」
(今日はもう遅い。明日の……昼食会を開いて美華と考えを共有しよう)
浩明は明日の昼、ミハイル夫妻を連れてくるようにと家臣団に指示を出した。
「急ではあるが、昼食会を開く。皇后も同席させる。準備を頼む」
「はっ、かしこまりました。陛下」
指示を受けた家臣団や宦官達がちりぢりになって消えていく。するとその場に残った老いた家臣ひとりが浩明の顔を目に焼き付けるようにして眺め始めた。
「なんだ? 何かあるか?」
「いえ。陛下のお顔が活き活きされている事と、この龍の国が大きく変わっていくのが、感慨深く……」
「そうか。……美華のおかげだよ」
「皇后様はまことに素晴らしいお方でございます。あの方が皇后となってくれて、私も嬉しゅうございます」
最初は目が見えなくて、周りに迷惑をかける者だと思っていた。波動の力を使い、誰かを治す事に注力する傍ら、世継ぎを産む事には執着心を見せない彼女をお飾りだとも感じていたが、今は違う。
(俺の大事な皇后であり、この国の宝だ)
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翌日の昼。ミハイル夫妻が招かれ昼食会が開かれた。ミハイル夫妻は西洋の国の服装ではなく、龍の国の裕福な家族が着用するような衣服に身を包んでいる。
机の上には、贅の限りを尽くした宮廷料理がずらりと並んだ。
「陛下、今日は昼食会にお招きいただきありがとうございます」
ミハイルは更に流暢に龍の国の言葉を操れるようになっており、妻であるヴィンセドールス侯爵夫人も、夫と同じくペラペラと龍の国の言葉を繰り出す。
「では、昼食会をはじめよう」
食事をしながらの話し合いが始まった。美華は波動の力を借りながら、食事を進めていく。
(美味しい)
「まず、美華。そなたはまた新たな考えを思いついたようだな」
「はい。読み書きや薬草についてなどを教える場を新たに龍の国に作りたいと考えております」
「ほほう、学校の事でございますね。皇后様」
ヴィンセドールス侯爵夫人は、にこりと笑いながらお茶を飲む。
「学校? でございますか?」
「はい。school……わが国ではそのように呼んでおります」
「あの、ヴィンセドールス侯爵夫人様。学校について詳しくお聞かせ願えますか?」
ヴィンセドールス侯爵夫人からの説明をまとめると彼らの国には読み書きに算数、そして国の内外の歴史や地理に乗馬、それらに加えて女子は裁縫を、男子は剣術を習うのだと言う。
「ですが、この学校は貴族の子女が通うもので、貴族学校と呼ばれております」
「庶民はどうするのですか?」
「庶民は庶民で学校があるにはあります。貴族学校とは違い読み書き算数の最低限ですが……」
だがヴィンセドールス侯爵夫人曰く、国の全ての庶民のうち、大体3割ほどしか学校には通っていない状態だと言う。
「なぜですか? 全員通っていないと……」
「学校に通うには、授業料を支払わなければならないのです」
「授業料だと?」
「学校は国が運営している訳ではないので、大体は維持運営者へお金を支払わなければならないのです。シスター達教会が運営している学校だと無償の学校もあるのですがまだまだ稀です」
学校を建て、維持運営するにはお金は必要不可欠だ。その財源をどうすべきか……。浩明と美華は頭を悩ませる。
「……財源、軍備を割いてこっちに充てるべきか? だがそうなればいざという時が大変だ」
「陛下……」
(そうだ。もっと考えるべきだった……)
「……学校を作るなら新しく建物を建てなければならないですし……」
そこで浩明が何やら思い立ったかのような顔を見せる。
「新しく建物を作る……?」
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