後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

第64話 教育は必要なんです！

「ほ、本題に戻るとしましょう」
「おや、照れているようですね。可愛いです」
「やっ……もう、陛下と皇后様の御前ですよ。やめてくださいってば……」

　ヴィンセドールス侯爵夫人は顔を赤らめたまま、良家の子女達にも教育の場を設ける事が改めて重要だと語る。

「そういえばこの国の良家の男達は基本、私塾と呼ばれる学校へ行くな。俺もそうだった」

　かつて学館と呼ばれる場所で勉学に励んでいた浩明の脳裏には、四夫人や他の妃とのやり取りが沸き起こっていた。例えば劉貴妃と周徳妃は家庭教師役の女官がいたそうだが、李賢妃は自らの努力で知識を身に着けている。
　そう。男女で差があるのだ。

（妃によっても、ばらばらだ……男達のように統一せねばならん）
「よし。良家の男女どちらも通える学びの場を新たに作ろう」

　浩明の発言に、ミハイルは貴族学校みたいな形ですか？　と問いかける。

「陛下。思いついたのですが、ミハイルさんの貴族学校から良い所を真似するのもありかもしれないのでは？」
「美華……確かにそうだな。ただ模すだけではだめだ。前からあるものとうまく合わせていく必要がある」
「そうですよね。例えば私塾や学館を貴族学校風に改築するとか……」

　あとは宮廷内にある学館は、読み書きができない妃や女官への教育の場にするというのもどうでございますか？　と美華は浩明に尋ねてみる。
　
「せっかく宮廷内にあるのです。試作品じゃないですけど、そう言った立場にもなれるのではないですか？」
「……やはり美華はかしこくて、いつも俺の先を行くな」
「そう、ですかね？」
「まあいい。確かに美華の考えは俺は良いと思う。ミハイル夫妻及び家臣の皆はどう思うか聞かせてくれ」

　ミハイル夫妻は異論がない事を身振り手振りを交えて伝える。家臣団の反応に関しては、賛成に回る者と反対に回る者両方いた。
　反対に回る者の言い分としては、そもそも女性に教育の場はそこまで必要ではないのでは？　というものである。

「それは間違っております！」

　反対派の言い分を聞いたヴィンセドールス侯爵夫人は机を両手で勢いよく叩きつけると椅子から立ち上がり、怒りを含めて目つきで彼らを睨みつける。
　睨まれた反対派の家臣団はひっ！　と小さな悲鳴を情けなく漏らした。

「男女関係なく教育は生きていくうえで必要なんです！」
「な、お、落ち着かれよ……」
「……我が妻が落ち着くとお思いで？」

　にっこりと笑うミハイルの背後にはどす黒い雰囲気が見え隠れしている。浩明も美華もこれはお怒りだな……と心の中でつぶやいた。