後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第68話 絶えぬ余震

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※ この回には地震の描写が含まれています。苦手な方はご注意ください

◇ ◇ ◇

 夜明けの訪れとともに喜びを分かち合っていた宮廷近くの街の庶民達だった。が、当然これでめでたしめでたし。と済む訳ではなかったのである。

「ん? なんだ?」
「また地震が来たぞ! 皆、伏せろ!」

 地面が左右に小刻みにかつ大きく揺れ動く。先ほどの地震と同じくらいの規模の余震だ。

「皆さん、動かないで! 頭を手で覆って姿勢を低く取ってください!」
(頭を守らないと死につながりやすい……!)

 人々が悲鳴を上げたりして阿鼻叫喚の状態に至る中で揺れはまだも続く。しつこい揺れはけたたましい轟音と砂煙と共に宮廷や街の建物を再び崩壊へと導いていくばかりだ。

(せっかく力を使ったのに……この後も地震が続くなら、キリがない……!)

 揺れがひいたのを待ってから、美華はゆっくりと起き上がる。屋外にいた事が功を奏したのか、民や美華にけがはない。

「……だけど、宮廷にいる人達は……!」
「こ、皇后様!」

 一旦後宮へ戻ろうとした美華に、鈴蘭付きの女官が慌てて飛び込んできた。

「助けてください! この辺はもう……!」

 後宮の建物のほとんどが全壊或いは半壊の様相を呈していた。美華は戸惑う事無く波動の力を放出した。龍の国の建物全てが元通りに戻っていき、民の怪我も癒えていく。

「……後は……死者がいなければいいのだけど……」
「っ皇后様、無事でしたか」
「! その声は、鈴蘭さん……!」
「さっきまで押しつぶされて死にそうでしたけど、これ、あなたの力ですか?」

 怪我が癒えたばかりの腹部を抑えながらたどたどしく話す鈴蘭に、美華はそうです。と隠し立てする事無く答えた。

「さすがでございますね。しかしながらこの地震ではキリがないでしょう」
「……私も同じ事を考えてました」
「とにかく、見てまいります。死者がいなければいいのですが」

 鈴蘭はそう告げるとどこかへと消え去っていった。おそらく後宮のどこかにはいるだろうと美華は彼女へ背を向けて治療院へと戻る。

(とにかく、皆の安全を守らなきゃ……)

 だが、心の奥底では、いつまでこの力を何度も繰り返さねばならないのだろうかという疑問も孕む。

(鈴蘭さんの言ってたようにキリがない。でも、諦める訳にはいかない……!)

 終わりの見えない迷宮に、入り込んでしまったかのような感覚を抱えたまま彼女はひた走る。

◇ ◇ ◇

「来ているぞ! 逃げろ!」

 黒い泥はなおも邪龍の死体からとめどなくあふれ出している。この黒い泥に美華の波動の力は効いていないどころか、彼女が飲み込んだ邪龍の鱗と同調しより威力を強めている。
 
「うわあああああ!」

 叫んだのもつかの間、農民達はあっという間に火砕流の如き黒い泥に飲み込まれ、人型の黒い石と化する。こうなればもはや死んだのと同然だ。

「皆、逃げろ!」
「馬を持っている者は馬に跨れ! 普通に走っていたら間に合わん!」
「高台にあがったら大丈夫ではないか?」

 だが黒い泥は津波と違い、重力をも無視して全てを飲み込んでいく。気が付けばあっという間に邪龍の死体を中心に黒い湖が形成されていた。

「ああああ……これはもはやこの世の終わりじゃ……」
「もしや、邪龍が目覚めてしまうのではないか?」
「そうなれば、もうこの国は終わりじゃ、龍の国は滅びてしまう……」
「! こ、皇后様ならどうにかしてくださるのではないか?」

 ひとりの青年が、遠くから慟哭に打ちひしがれる老人達へ告げた。彼の言葉にひとり、またひとりと同調していく。

「ああ、そうじゃ! 病を治してくださる皇后様なら!」
「皇后様ならこの状況もどうにかしてくださるに違いない!」
「よし、宮廷に行こう!」
「私も行くわ! 宮廷に行って皇后様にお願いしないと!」

 この騒ぎを見ていた役人達も、皇后様の元へ行くぞ! と馬に鞭を入れて全速全身で宮廷へとひた走りだす。
 
◇ ◇ ◇

「……余震ですか。多いですね……」

 美華と浩明は宮廷の者達へなるべく外に出ているようにと伝えた事で、皆建物の外に出て身を寄せ合ったりしている。
 美華のそばには合流した浩明が離れる事無く付き添っていた。

「早く収まってくれないと……」
「そうだな、らちが明かないぞ」
「それまではしばらく外にいた方が良いですね。中は危ない」

 朝の冷たい空気が、彼女達に覆いかぶさる。
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