後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第70話 黒い泥

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「皇后様……私も今考えております。高台に逃れても追いかけて来るなんて厄介が過ぎますわ……」
「そうですよね……」

 重力すら無視して襲い掛かって来る黒い泥。2人に更に他の妃達も加わって良い案が無いかと語り合ったり考えを出し合う。
 するとそこへ浩明が近寄って来た。

「皆、いい考えが無いか考えてくれているのか」
「はい、陛下。三人寄れば文殊の知恵。でしたか」
「美華……それに皆、ありがたい」

 浩明は妃達の前で深々と頭を下げた。

(もう、なりふり構ってはいられない。俺は皇帝だ。美華も頑張っているのだからこの国をどうにかしないでどうする!)
「一緒に、この危機を乗り越えたい。力を貸してはくれないだろうか」

 彼の意志が伝わったのだろう。美華達は声を揃えて勿論でございます! と力強く返事をした。

「恩に着る! 俺はやはり船が良いとは考えているのだが、まずは試した結果が出てからだな」
「陛下、ちなみに船がダメだった場合はどうお考えになりますか?」
「周徳妃。幸い、宮廷には巨大な壁が張り巡らされている。それでどうにか対処できればとは思うが……」

 だが、宮廷に入れる民の数には限りがある。ただでさえこの宮廷には多くの人達がいるのだから。

「陛下! ご報告です!」
 
 ここで別の役人が黒い馬を走らせてこちらへとやって来た。

「船に乗った者達は、被害を抑えらえている模様にございます!」
「そうか!」
「ですが黒い泥はこの近くにまで押し寄せています!」
「わかった。……よし、皆、池へ退避するぞ! そこなら大船がいくつかある!」

 浩明が言っている池とは、宮廷の中庭にある池の事だ。広大な池で時折その池の船上にて豪華な催し物が執り行われる時もある。
 浩明の指示により、宮廷の者達はこぞって池にある桟橋へと走り出した。更に彼の指示は宮廷近くの街に住む人々へも伝えられる。

「美華、君も早く行くんだ。君は移動に時間がかかる」
「いや、皆さんが移動し終えたのを見届けてから行きます。私は目は見えないですけど、人がいるとかいないとかは波動でわかるので」
「わかった。俺も残ろう」

 ふたりは最後のひとりが消えるまで見届けた後、浩明は美華を背負って走り出した。

「陛下……重くないですか?」
「これくらい、鳥の羽と同じくらいだ」

 浩明の笑顔が、美華の心を温かくさせる。その間にも黒い泥は龍の国全てを覆い尽くそうとしていた。
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