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第74話 黒い泥の巨人
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曇天だった空は更に暗さを増してきた。分厚い灰色の雲が先ほど以上に降下してきている。
「雨が降って来るかもな」
浩明の呟きに、美華はそうなるかもしれないですね……。と小さな声で返事をする。
「今いる場所は屋根があるから、多少は雨をしのげるだろう」
(そう考えるとやっぱり宮廷の船は豪華だなあ……)
黒い泥に覆われた事で、街並みも全く見えなくなっている。時折仏塔のような高い建物がちょこちょこ顔を出しているのが見えるだけで、そこに避難している庶民の姿も浩明らの目には見える。
「おい! あれは船だ!」
「皇帝陛下の船だぞ!」
「陛下! ご無事でよかったです!」
「陛下! 助けてください!」
助けを求める者達に対しては、今は黒い泥を食い止める為に邪龍の死体を再封印に向かっており、それゆえ助ける事が出来ない。と前置きしたうえで、船を作れば移動が出来るという事を伝えた。
「なるほど、船ですか」
「ここに木材がいくつかある! 簡易な船なら作れるはずだ!」
船での移動という良い情報を聞いた民達は早速船を作り始めたり、たまたまあった船での移動を開始し始めたりした。行動力の速さに浩明はすごいな……。と感嘆しつつ彼らの無事を願う。
「はやく黒い泥を食い止めねば」
「そうですね、陛下」
「周山へ急ごう!」
浩明の指示を受けて船は更に速度を増す。すると山がいくつかひょっこりと顔を出してきた。木々こそ見えてはいるが、山々の地面には全て黒い泥であふれかえっている。
(高台に逃げても無駄。というのが伝わって来るな。仏塔は大丈夫だったのはなぜだろうか……やはり御仏の加護があるからか?)
仏塔はその名の通り御仏を祀る場所でもある。邪龍の弱点は御仏なのに変わりはないのだろう。と浩明は考える。
(邪龍には御仏の関連するものが効く……となれば、何かあるか……?)
浩明が顎の下に指をあてて考えに耽っている時、前方に黒い泥が人型に固まったかのような巨大な何かが姿を現した。
「なんだあれ?!」
(まるでおとぎ話に出てくるような巨人……!)
話を聞いた美華は手を前へとかざそうとしたが、自身の波動の力が黒い泥と共鳴する事を思い出してすぐにやめる。
「皆! 黒い泥の巨人がいるぞ!」
巨人型の黒い泥はのっそりと歩きながら、こちらへと近寄って来る。それに右手は天高く伸ばし始めたのを見た浩明は、このままでは船ごと叩き潰される! と予感する。
(御仏が弱点なら……そうか!)
浩明は両手を合わせて拝む体制を取ると、そのままお経を唱え始めた。
「へ、陛下?! なぜお経を?!」
「おそらく邪龍同様黒い泥は御仏が弱点だ。美華、君もお経を唱えてくれ!」
「! わかりました、陛下を信じます!」
合掌し、お経を唱え始めた美華。すると効果があったのか巨人型の黒い泥に変化が見られる。
「動きが鈍くなってきたか?」
巨人型の黒い泥は、固まってしまったかのように動かなくなる。
「読経が効いてるな! 皆、読経だ! 大きな声でお経を唱えよ!」
船のあちこちから沸き起こるお経を唱える声がさらに大きくなる。巨人型の黒い泥は、完全に動きを封じられたかのように固まってしまった。
そんな巨人型の黒い泥の横を、船が通り過ぎていく。
(よし、切り抜けられたか。まだ油断できない)
彼の姿が小さくなるまで、お経を唱える声は続いていく。その間にも次々と巨人型の黒い泥が現れるが何も出来ずにただ、留まるだけであった。
「陛下、よく気が付きましてね。お経を唱えるのが有効だなんて」
「仏塔は全部覆い尽くされていないのを見て、もしかして? と思ったんだ。美華」
「周山までは……あと少しでしょうか」
「そうだな。外は大分暗くなってきたが」
浩明は松明に火を付けるか否かを考えたが、もう少し粘る事にした。
火を付けると自らの居場所が分かってしまう事になるので黒い泥がそこを狙ったり、盗賊が現れて襲われるのを出来るだけ回避したいのが狙いである。
「そろそろ周山に到着するはずだ。美華、容易をしておくように」
「わかりました。祠まで無事にたどり着けたら良いのですが」
「……板を用意するか」
浩明はもしもの時は板を並べ、そこに美華を歩かせようと考える。しかし美華は波動の力が使えない以上何にも見えないままなので、危険性を感じて断ったのだった。
「確かにそうだな、すまない」
「いえ……むしろ歯がゆいです。力が使えないと……」
「君の気持ちはわかる。まずは……」
「周山の祠に、ですね。御仏様のおっしゃった事を信じるのみです」
すると右前方の山の中に、黄金の光が見え隠れしているのを浩明が発見した。
「! あれが……祠か!?」
浩明が声を挙げた瞬間、祠から黄金の道が真っ直ぐに伸びてきた。
その道は朧げではあるが、美華の真っ暗闇な視界にも映り込んでいる。
「この道を渡れという事ですね、御仏様!」
「美華、俺も行く!」
2人は黄金の道に足を踏み入れた。感触は宮廷の石畳の地面と同じく硬いものである。
「美華、腕を離すな」
浩明は美華の左腕をがっしりと組んで歩き始めようとした所で、動きを止めた。
「雨が降って来るかもな」
浩明の呟きに、美華はそうなるかもしれないですね……。と小さな声で返事をする。
「今いる場所は屋根があるから、多少は雨をしのげるだろう」
(そう考えるとやっぱり宮廷の船は豪華だなあ……)
黒い泥に覆われた事で、街並みも全く見えなくなっている。時折仏塔のような高い建物がちょこちょこ顔を出しているのが見えるだけで、そこに避難している庶民の姿も浩明らの目には見える。
「おい! あれは船だ!」
「皇帝陛下の船だぞ!」
「陛下! ご無事でよかったです!」
「陛下! 助けてください!」
助けを求める者達に対しては、今は黒い泥を食い止める為に邪龍の死体を再封印に向かっており、それゆえ助ける事が出来ない。と前置きしたうえで、船を作れば移動が出来るという事を伝えた。
「なるほど、船ですか」
「ここに木材がいくつかある! 簡易な船なら作れるはずだ!」
船での移動という良い情報を聞いた民達は早速船を作り始めたり、たまたまあった船での移動を開始し始めたりした。行動力の速さに浩明はすごいな……。と感嘆しつつ彼らの無事を願う。
「はやく黒い泥を食い止めねば」
「そうですね、陛下」
「周山へ急ごう!」
浩明の指示を受けて船は更に速度を増す。すると山がいくつかひょっこりと顔を出してきた。木々こそ見えてはいるが、山々の地面には全て黒い泥であふれかえっている。
(高台に逃げても無駄。というのが伝わって来るな。仏塔は大丈夫だったのはなぜだろうか……やはり御仏の加護があるからか?)
仏塔はその名の通り御仏を祀る場所でもある。邪龍の弱点は御仏なのに変わりはないのだろう。と浩明は考える。
(邪龍には御仏の関連するものが効く……となれば、何かあるか……?)
浩明が顎の下に指をあてて考えに耽っている時、前方に黒い泥が人型に固まったかのような巨大な何かが姿を現した。
「なんだあれ?!」
(まるでおとぎ話に出てくるような巨人……!)
話を聞いた美華は手を前へとかざそうとしたが、自身の波動の力が黒い泥と共鳴する事を思い出してすぐにやめる。
「皆! 黒い泥の巨人がいるぞ!」
巨人型の黒い泥はのっそりと歩きながら、こちらへと近寄って来る。それに右手は天高く伸ばし始めたのを見た浩明は、このままでは船ごと叩き潰される! と予感する。
(御仏が弱点なら……そうか!)
浩明は両手を合わせて拝む体制を取ると、そのままお経を唱え始めた。
「へ、陛下?! なぜお経を?!」
「おそらく邪龍同様黒い泥は御仏が弱点だ。美華、君もお経を唱えてくれ!」
「! わかりました、陛下を信じます!」
合掌し、お経を唱え始めた美華。すると効果があったのか巨人型の黒い泥に変化が見られる。
「動きが鈍くなってきたか?」
巨人型の黒い泥は、固まってしまったかのように動かなくなる。
「読経が効いてるな! 皆、読経だ! 大きな声でお経を唱えよ!」
船のあちこちから沸き起こるお経を唱える声がさらに大きくなる。巨人型の黒い泥は、完全に動きを封じられたかのように固まってしまった。
そんな巨人型の黒い泥の横を、船が通り過ぎていく。
(よし、切り抜けられたか。まだ油断できない)
彼の姿が小さくなるまで、お経を唱える声は続いていく。その間にも次々と巨人型の黒い泥が現れるが何も出来ずにただ、留まるだけであった。
「陛下、よく気が付きましてね。お経を唱えるのが有効だなんて」
「仏塔は全部覆い尽くされていないのを見て、もしかして? と思ったんだ。美華」
「周山までは……あと少しでしょうか」
「そうだな。外は大分暗くなってきたが」
浩明は松明に火を付けるか否かを考えたが、もう少し粘る事にした。
火を付けると自らの居場所が分かってしまう事になるので黒い泥がそこを狙ったり、盗賊が現れて襲われるのを出来るだけ回避したいのが狙いである。
「そろそろ周山に到着するはずだ。美華、容易をしておくように」
「わかりました。祠まで無事にたどり着けたら良いのですが」
「……板を用意するか」
浩明はもしもの時は板を並べ、そこに美華を歩かせようと考える。しかし美華は波動の力が使えない以上何にも見えないままなので、危険性を感じて断ったのだった。
「確かにそうだな、すまない」
「いえ……むしろ歯がゆいです。力が使えないと……」
「君の気持ちはわかる。まずは……」
「周山の祠に、ですね。御仏様のおっしゃった事を信じるのみです」
すると右前方の山の中に、黄金の光が見え隠れしているのを浩明が発見した。
「! あれが……祠か!?」
浩明が声を挙げた瞬間、祠から黄金の道が真っ直ぐに伸びてきた。
その道は朧げではあるが、美華の真っ暗闇な視界にも映り込んでいる。
「この道を渡れという事ですね、御仏様!」
「美華、俺も行く!」
2人は黄金の道に足を踏み入れた。感触は宮廷の石畳の地面と同じく硬いものである。
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