後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第85話 それが私ですから

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 美華は大きく息を吸い込む。すると新鮮な空気が胸いっぱいに充満し、心地よい気分を感じた。

「今の私なら、やれそうな気がするんです」
「はあ? なんだそれ。バカ言え。何度も言うが今からお前がやる事はなあ、死者をよみがえらせるって事でもあるんだぞ」

 これまで美華は死者をよみがえらせた事は一度もない。だが、美華の心の中には根拠のない自信がたくさん出てきてあふれかえっている。

「なんとなく、ですがね。それでもやれそうな気がするんです」

 美華は両手の手のひらを前へと向ける。そしてもう一度息を吸うと、波動の力を放出できる分だけ一気に放出した。

「うおっ」

 黄金の光の束が手のひらから放たれると、天へ向かって伸びていく。そして宙の果てまで届くとそこで木の枝のように光の束が分裂し放射線状に広がっていった。

「なんだあれ?!」
「よく見てください。あれが美華の力です」
「いや、お前の力だろ?!」
「美華の思いも乗っていますから」

 光の束は流れ星となって宙からこちらへと優しく降り注ぐ。

「なんだか胸が温かくなってきたな……にしても美華お前ホント掴みどころがねえのな」
「あっ本当はあなた達の心の傷も治したいのですが……どうします?」
「治すな。治したら俺が俺ではなくなる。だからいい。治すんじゃねえぞ」
「私もです。ですがあなたの考えには感謝を送ります」

 草原に覆われていた台地が少しずつ、龍の国の村へと戻っていく。黒い泥の下に埋もれていた村の建物に覆われていくのと同時に、黒い石になった者達は元通りの姿へと治っていった。

「おおっ!」

 そして邪龍の後ろには、龍が何頭かいた。

「お前ら……」
「よお、なんだか久しぶりだな」
「もしかしてここが天国って言うやつか?」
「死んじまったと思ったよ……また会えてうれしいよ」

 美華の視界は少しずつ黒くなり、元に戻っていこうとしている。視野が欠けていく中最後に後ろを振り返るとそこには白い龍がたたずんでいた。

「美華……」
「御仏様も元に戻ったのですね」
「そうみたいです。当時よりちょっと身体は小さくなっていますが」

 息を吹き返した龍達の身体の大きさは確かに人間の2倍くらいまでには変化……いや、縮小している。

「私の力がまだまだ足りなかったのかもしれないです」

 苦笑いを浮かべた美華へ、御仏はそのような事はありません。と告げる。

「あなたのおかげです。あなたがこの世界を変えた。そこだけは誇りを持っていてほしいです」
「わかりました。御仏様……」
「あの、最後にあなたへ返すものがありましたね」
「いや、それはあなたが持っていてくださいな」

 御仏の言っている返すものというのは、美華の視力である。

「私の視力があった方が、見えやすいんでしょう?」
「そうですね……私は元来目が悪いのもありますが」
「だったらなおさらです。大事に持っていてください」
「! ありがとうございます……!」

 視野が完全に無くなり、真っ暗闇になった瞬間。邪龍の声が聞こえてきた。

「お前、本当に人間と龍が共生できると思ってんのかよ。あの人間だぜ? 無理だって――」
「出来ますよ。だってここは龍の国ですから」
「はあ? まあそういやそうだったわ……」

 邪龍は共生できるかどうかお前に賭けてみるか。と言おうとしたがやめた。言ったらそれはそれで負けだと即座に感じたからである。

「結局あなたは地縛霊だったという事でいいのですか?」

 美華からの問いに、邪龍はそうだろうな。とあいまいに返す。

「勿論理屈では理解しているけど、人間への恨みもあったり心全部が認めきれなかったりしてさ。今更だけど言葉には言い表せないくらいにはもやもやが溜まってたんだな、俺って」
「なるほど……もし、この世界ではどう生きようと思います?」
「とりあえずまずはゆっくりのんびり過ごす事にする。そっから考える」

 最後までぶっきらぼうな部分は崩さなかった邪龍へ、美華は優しく笑いかけたのだった。

「なんで笑うんだよ」
「これが私なので」
「まあ、そうだわな……あ~あ! なんだか俺がバカみてえじゃねえか!」
「バカじゃないと思いますよ?」

 生きていれば誰だってもやもやする事はあるので。と美華からの言葉に邪龍はそうだな。と笑いながら返したのだった。

「じゃあ、またな。なんだかお前と会えてちょっとはすっきりしたわ。ほんと不思議なやつだな」
「そうですか、それならよかったです」
「なんだか俺……大人になれた気がするかもな」

 元に戻った世界で、美華は見えない宙を見上げながら立ち尽くしていた。
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