後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第86話 変わる世界

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「世界が変わっていく……」

 船に乗っていた浩明らは、黒い泥が天へと召され、その代わりに小さくなった龍が空をあちこち飛んでいる光景を目に焼き付けていた。

「龍の国が生まれる前の光景を見ているかのようですわね」
「劉貴妃、そうなのか?」
「本当かどうかはわかりませんが……当時を記した落書きが洞窟に残っているとか」

 彼らは空を自由に飛び回る龍を見ながら、当時に思いをはせる。当然、彼らの祖先がなした事は知らないままに。

「……これもまた、美華の仕業なんだろうな。人間と龍の共生を選んだのか。アイツらしい」

 浩明の呟きを他の妃達はばっちりと聞いていた。四夫人達はうんうん。と頷き鈴蘭は全く……。と言いながら腕を組む。

「龍は悪しき存在である。しかし対話を試みようとしたものもいる」
「それはなんだ?」
「わが一族に古くから伝わる言葉のひとつです」
「美華は紛れもなく後者だろうな」

 黒い泥は全て消えた。船は大地に着陸したまま動かなくなる。

「これ、どうして帰ろうかなあ。一回バラした方が良いかなあ」

 浩明は後頭部を搔きながら、温かな太陽のさす空を見上げていた。

「全く、あいつがこの国をここまで変えてしまうとはな。さすがは俺が惚れた皇后だ」
(もしかして……初代皇帝はこうなることを予言していたから龍の国と名付けたのだろうか? いや、俺の考えすぎか)

◇ ◇ ◇

 美華は浩明らと合流し、宮廷へと帰還をはたした。そんな美華には白い龍の姿の御仏も一緒に付き添っている。皇帝である浩明は人間と龍は共生していく事を改めて宣言したのであった。
 宮廷へと通じる門をくぐる際、浩明はふよふよと漂う御仏にある疑問を問いかけてみる。

「御仏よ、一緒に付いてきてよかったのか?」
「ええ、私はひとりぼっちなので」
「おい! 俺を忘れるんじゃない!」

 後ろから飛んできたのはあの邪龍だった。一同は急な登場にぽかんと口を開けて驚くが、美華と御仏はいつものようにおっとりとしている。

「俺も一緒にいく! お前がまたどこかへ消えたらたまんないからな!」
「おやおや」
「おやおや……じゃあねえんだよ! 俺は……その……」
「邪龍さんて御仏様の事が好きなのですか?」

 美華からの衝撃的は発言は、おそらく彼女が今まで口にした言葉の中で最も破壊力を持っていたようだ。

「はああっ?! なっ俺にはそんな衆道みてえな趣味だなんて」
「でもこっちまで追いかけてきたじゃないですか」
「うう……くっそ言い返せねえ……」
「おいおい美華、なんだかうるさいのが増えてるみたいだが?」

 邪龍がうるせえよ! と浩明に牙をむくが浩明は冷静だった。

「なんだよ。こいつは俺の皇后だからお前には渡さねえよ」
「結構だよ! 俺は別に……」
「私がいれば良いのですよね?」

 御仏から迫られぐっ……と睨みつけるだけしかできない邪龍。浩明は美華の背中をさすり進むぞ。と促した。

「行きましょう。あ、まずは治療院に行かないと」
「そうだな、どれ……どうなっているか確認しないと」

 地震前の姿をとどめる宮廷の中を通り、治療院の扉を開けるとそこは、以前と変わらないままの光景が広がっていた。

「……よかった……」
「そうだな、元のままだ」
「! よし、では早速はじめますか!」

 美華は椅子に座ると、すぐに患者を呼ぶようにと告げる。

「皇后様、良いのですか? 疲れているでしょう」

 女官が美華を心配するが、美華はむしろ身体がウズウズしているようだ。

「はやく治したくて仕方がないくらいなんです!」
「……では、お連れしましょう」
「お願いします!」

 美華の後ろでは、邪龍が御仏と共にぷかぷかと浮きながら見下ろしている。

「へぇ……まあ、お手並み拝見と行きますか」
「そうですね。美華は面白いでしょう?」
「まあな。それと……」

 それと? と御仏が笑みを浮かべたまま邪龍の顔を覗き込む。

「こいつには感謝しかねぇよ」
「なぜ?」
「俺達の……仲を元に直してくれたから。俺はアンタと離れたくなかったからさ」
「フッ……素直になりましたね」

 悪いかよ? と口をとがらせる邪龍に御仏は悪くないです。とすぐさま反応を見せた。

「ありがとう、美華」

 次々とやってくる患者を波動の力で治す美華を2頭は穏やかに見守り続けたのだった。

◇ ◇ ◇

「陛下は龍は怖くありませんか?」

 夜、閨にて美華は浩明に問いかける。

「いや、怖くないな。むしろわくわくする」
「ほほう……」
「これから、また彼らの力を借りる時が来るだろうな」
「そうでしょうね……」

 さて、これから龍の為に色々考えていかなきゃなと浩明は美華の髪を撫でながら語る。

「あの時の事、知りたいですか?」
「ああ、出来れば」
「では語りましょう」

 美華の言葉に浩明は静かに耳を傾ける。かつて己の祖先がなした事などを聞き終えた浩明はそうかと静かに頷いた。

「これからは共に、手を取り合って生きていかねばならない」
「……そうですね」
「例え君がその力で直しても、俺達の罪は消えないのだから」

 
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