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第八章 新たな日常
バレバレよ
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二人の関係について、親しい友人たち以外にはまだ公表していない。とはいえ、察しの良い友人たちは直人と健の変化に気づいているようだった。
一番最初に気づいたのは美月だった。さすがは恋愛マスター、直人の表情の変化を見逃さなかった。後期の授業が始まった日、美月から声をかけられた。
「ねえ、直人くん。例の後輩くんと、うまくいったの?」
ニヤニヤしながら聞かれて、直人は頷くしかなかった。美月の前では、隠し事などできたものではない。それに、隠したいという気持ちもなかった。健との関係は、隠すようなものではない。誇らしく、美しいものだった。
「う……うん。色々あったんだけど、最終的には……」
頬を赤く染めながら答えると、美月は顔を輝かせて嬉しそうに笑った。その笑顔は、心からの祝福に満ちていた。
「よかったじゃない! ようやく直人くんにも春が来たのね」
「うん。相談に乗ってくれて、ありがとう」
どれだけ美月の言葉に背中を押されただろうか。あの時、もし美月がいなかったら、直人は自分の気持ちに気づくことすらできなかったかもしれない。感謝してもしきれない。
「あの時、『恋愛ってシンプル』って言ってくれた言葉。あれが僕の背中を押してくれたんだよ」
すると美月は「そんなこと言ったっけ?」と首を傾げた。本人は覚えていないようだが、その何気ない一言が直人の人生を変えたのだ。
「まあ、とにかくよかった! で、どうなの? 彼との同棲生活は」
『同棲』という言葉に、思わずドキリとした。
──そうか。恋人と一緒に住んでるんだから、同棲になるんだ。
そう考えると自然と顔がほころんだ。同棲という響きが、なんだかとても大人びて聞こえる。自分たちの関係が、確実に前進しているのだという実感があった。
それを見た美月が目を細める。
「何よぉ、そんなに同棲生活、充実してるの?」
肘で小突かれながら「うん、まあ……」と答えると、美月は大きくため息をついた。
「はあぁ……幸せオーラが滲み出てていいわね。でも、よかった。うまくいって」
美月の表情には心からの安堵が浮かんでいて、本気で直人のことを心配してくれていたのだということがわかる。友人としての深い愛情を感じて、直人の胸は温かくなった。
「ごめん。色々と、本当に」
「いいのよ。友達が幸せになるのが一番よ。その代わり、今度その後輩くんに会わせてよ」
「うん、健に聞いてみる」
美月に健を恋人として紹介するということは、二人の関係を正式に公言するということだ。その責任の重さと、同時に誇らしさを感じた。
次の授業に向かう美月と別れて、直人は部室に向かおうとしたが、ふと立ち止まった。確かに部室は居心地の良い場所だが、一時間半もの空きコマを過ごすには少し暑苦しい。自分一人のためにエアコンをつけるのも気が引けた。
それに、今の直人は一人でいると健のことを考えてしまう。健の笑顔、健の声、健の仕草──思い出すだけで胸がキュンとして、勉強に集中できなくなってしまうのだ。
思い直して図書館へ向かう。室内はエアコンが効いていて快適だった。いつもの指定席に向かおうと書架の間を抜けていくと、そこに涼太の姿があった。
「涼太先輩」
小声で呼びかけると、涼太は振り向いて「あ、直人くん」と応えた。久しぶりに見る涼太は、相変わらずシンプルな出立ちなのにロックな雰囲気を纏っていた。
「次、空きコマ?」
「はい。先輩は調べ物ですか?」
涼太は眉根を寄せてため息をついた。
「そうなんだよ。なかなか進まなくてねぇ……」
苦笑いを浮かべた後、ピクッと眉を動かした。涼太の観察眼の鋭さは、軽音部時代からよく知っている。
「あれ? 直人くん、なんとなく雰囲気変わった?」
そうだろうか。自分では特に変わったつもりもなく、首を傾げる。でも確かに、鏡を見た時の自分の表情が以前とは違って見えることがある。なんというか、生き生きしているような気がするのだ。
その時、涼太に言われた『後悔しない選び方』という言葉を思い出した。
「あ! もしかしたら、先輩が夏休みに言ってくれた、後悔しない選択をしたからかもしれません」
「えっ? そうなの?」
涼太は嬉しそうに微笑んだ。その表情は、まるで自分のことのように喜んでくれているようだった。
「それまで、自分でこうしたいって選び取ったことってなかったんです。高校や大学、学部も部活も、全部なんとなく流されてそこに辿り着いたって感じで。でも今回、初めて自分から掴み取りたいと思ったものを手に入れました」
その言葉を口にした時、直人の胸には深い満足感があった。初めて自分の意志で何かを選択したという誇らしさが、心の奥から湧き上がってくる。
それを聞くと涼太は目を細めた。
「そっか。それはよかった。で、今回は何を手に入れたの?」
涼太の探るような眼差しから、直人は目を逸らすことができなかった。涼太の瞳には、すでに答えを知っているような光があった。
「好きな人……です」
その言葉を聞いて、涼太は目を見開いた。
「直人くんが……すごいよ。よっぽど後悔したくなかったんだね」
「僕もそう思います。断られることを考えると、ものすごく怖かったんですけど……涼太先輩の言葉を思い出して、当たって砕けるつもりで伝えました」
あの日の記憶が蘇ってくる。健の前に立った時、心臓が破裂しそうなほど激しく鼓動していた。声が震えて、何を言っているのか自分でもわからなくなりそうだった。でも、伝えなければ後悔すると思った。そしてその選択は正しかった。
頬に熱が籠るのがわかった。自分の言ったことが恥ずかしくて、声は消え入るように小さくなってしまう。しかし涼太はそんな直人を誇らしそうに見つめて、ずっと微笑んでいる。
「いいと思う! だって、人生一度きりだもんね。だから後悔のない選び方って大切なんだよ」
そう言うと、涼太は自分の過去を思い出したのか、顔を曇らせて俯いた。夏休みの時に教えてくれた、自分の気持ちを伝えないと言う選択をした時のことを考えているのかもしれない。
「先輩のおかげです。あの時、先輩の話を聞いていなかったら、僕は後悔のない選び方をしていなかったかもしれません。本当にありがとうございました」
直人は涼太に向かって深く頭を下げた。涼太の何気ない一言が、直人の人生を変えたのだ。
「俺は大したことしてないよ。じゃあ、健くんとうまくいったんだね。よかった」
直人は思わず体をビクッと震わせた。あの時、健と擬似恋人関係にあったが、それを涼太には話していなかったはずだ。それなのに、なぜ──。
戸惑っていると、涼太はふふっと笑って続けた。
「そんなに驚くこと? 二人を見てたらわかるよ。お互いのこと、好きでしょうがないって顔してるのに、なんか二人の間には透明な壁があるみたいだったから、何か理由があるんだろうなって思ってた」
そんなにわかりやすかっただろうかと思うと、頬が熱くなった。でも今は、隠す必要もない。堂々と愛し合っているのだから。
「今度、健も一緒に先輩にお会いしたいって言ってました。よろしければ……」
「もちろん。今度みんなでご飯でも食べよう」
涼太の温かい言葉に、直人は心から安堵した。大切な人たちに祝福される関係──それがどれほど幸せなことか、改めて実感した。
一番最初に気づいたのは美月だった。さすがは恋愛マスター、直人の表情の変化を見逃さなかった。後期の授業が始まった日、美月から声をかけられた。
「ねえ、直人くん。例の後輩くんと、うまくいったの?」
ニヤニヤしながら聞かれて、直人は頷くしかなかった。美月の前では、隠し事などできたものではない。それに、隠したいという気持ちもなかった。健との関係は、隠すようなものではない。誇らしく、美しいものだった。
「う……うん。色々あったんだけど、最終的には……」
頬を赤く染めながら答えると、美月は顔を輝かせて嬉しそうに笑った。その笑顔は、心からの祝福に満ちていた。
「よかったじゃない! ようやく直人くんにも春が来たのね」
「うん。相談に乗ってくれて、ありがとう」
どれだけ美月の言葉に背中を押されただろうか。あの時、もし美月がいなかったら、直人は自分の気持ちに気づくことすらできなかったかもしれない。感謝してもしきれない。
「あの時、『恋愛ってシンプル』って言ってくれた言葉。あれが僕の背中を押してくれたんだよ」
すると美月は「そんなこと言ったっけ?」と首を傾げた。本人は覚えていないようだが、その何気ない一言が直人の人生を変えたのだ。
「まあ、とにかくよかった! で、どうなの? 彼との同棲生活は」
『同棲』という言葉に、思わずドキリとした。
──そうか。恋人と一緒に住んでるんだから、同棲になるんだ。
そう考えると自然と顔がほころんだ。同棲という響きが、なんだかとても大人びて聞こえる。自分たちの関係が、確実に前進しているのだという実感があった。
それを見た美月が目を細める。
「何よぉ、そんなに同棲生活、充実してるの?」
肘で小突かれながら「うん、まあ……」と答えると、美月は大きくため息をついた。
「はあぁ……幸せオーラが滲み出てていいわね。でも、よかった。うまくいって」
美月の表情には心からの安堵が浮かんでいて、本気で直人のことを心配してくれていたのだということがわかる。友人としての深い愛情を感じて、直人の胸は温かくなった。
「ごめん。色々と、本当に」
「いいのよ。友達が幸せになるのが一番よ。その代わり、今度その後輩くんに会わせてよ」
「うん、健に聞いてみる」
美月に健を恋人として紹介するということは、二人の関係を正式に公言するということだ。その責任の重さと、同時に誇らしさを感じた。
次の授業に向かう美月と別れて、直人は部室に向かおうとしたが、ふと立ち止まった。確かに部室は居心地の良い場所だが、一時間半もの空きコマを過ごすには少し暑苦しい。自分一人のためにエアコンをつけるのも気が引けた。
それに、今の直人は一人でいると健のことを考えてしまう。健の笑顔、健の声、健の仕草──思い出すだけで胸がキュンとして、勉強に集中できなくなってしまうのだ。
思い直して図書館へ向かう。室内はエアコンが効いていて快適だった。いつもの指定席に向かおうと書架の間を抜けていくと、そこに涼太の姿があった。
「涼太先輩」
小声で呼びかけると、涼太は振り向いて「あ、直人くん」と応えた。久しぶりに見る涼太は、相変わらずシンプルな出立ちなのにロックな雰囲気を纏っていた。
「次、空きコマ?」
「はい。先輩は調べ物ですか?」
涼太は眉根を寄せてため息をついた。
「そうなんだよ。なかなか進まなくてねぇ……」
苦笑いを浮かべた後、ピクッと眉を動かした。涼太の観察眼の鋭さは、軽音部時代からよく知っている。
「あれ? 直人くん、なんとなく雰囲気変わった?」
そうだろうか。自分では特に変わったつもりもなく、首を傾げる。でも確かに、鏡を見た時の自分の表情が以前とは違って見えることがある。なんというか、生き生きしているような気がするのだ。
その時、涼太に言われた『後悔しない選び方』という言葉を思い出した。
「あ! もしかしたら、先輩が夏休みに言ってくれた、後悔しない選択をしたからかもしれません」
「えっ? そうなの?」
涼太は嬉しそうに微笑んだ。その表情は、まるで自分のことのように喜んでくれているようだった。
「それまで、自分でこうしたいって選び取ったことってなかったんです。高校や大学、学部も部活も、全部なんとなく流されてそこに辿り着いたって感じで。でも今回、初めて自分から掴み取りたいと思ったものを手に入れました」
その言葉を口にした時、直人の胸には深い満足感があった。初めて自分の意志で何かを選択したという誇らしさが、心の奥から湧き上がってくる。
それを聞くと涼太は目を細めた。
「そっか。それはよかった。で、今回は何を手に入れたの?」
涼太の探るような眼差しから、直人は目を逸らすことができなかった。涼太の瞳には、すでに答えを知っているような光があった。
「好きな人……です」
その言葉を聞いて、涼太は目を見開いた。
「直人くんが……すごいよ。よっぽど後悔したくなかったんだね」
「僕もそう思います。断られることを考えると、ものすごく怖かったんですけど……涼太先輩の言葉を思い出して、当たって砕けるつもりで伝えました」
あの日の記憶が蘇ってくる。健の前に立った時、心臓が破裂しそうなほど激しく鼓動していた。声が震えて、何を言っているのか自分でもわからなくなりそうだった。でも、伝えなければ後悔すると思った。そしてその選択は正しかった。
頬に熱が籠るのがわかった。自分の言ったことが恥ずかしくて、声は消え入るように小さくなってしまう。しかし涼太はそんな直人を誇らしそうに見つめて、ずっと微笑んでいる。
「いいと思う! だって、人生一度きりだもんね。だから後悔のない選び方って大切なんだよ」
そう言うと、涼太は自分の過去を思い出したのか、顔を曇らせて俯いた。夏休みの時に教えてくれた、自分の気持ちを伝えないと言う選択をした時のことを考えているのかもしれない。
「先輩のおかげです。あの時、先輩の話を聞いていなかったら、僕は後悔のない選び方をしていなかったかもしれません。本当にありがとうございました」
直人は涼太に向かって深く頭を下げた。涼太の何気ない一言が、直人の人生を変えたのだ。
「俺は大したことしてないよ。じゃあ、健くんとうまくいったんだね。よかった」
直人は思わず体をビクッと震わせた。あの時、健と擬似恋人関係にあったが、それを涼太には話していなかったはずだ。それなのに、なぜ──。
戸惑っていると、涼太はふふっと笑って続けた。
「そんなに驚くこと? 二人を見てたらわかるよ。お互いのこと、好きでしょうがないって顔してるのに、なんか二人の間には透明な壁があるみたいだったから、何か理由があるんだろうなって思ってた」
そんなにわかりやすかっただろうかと思うと、頬が熱くなった。でも今は、隠す必要もない。堂々と愛し合っているのだから。
「今度、健も一緒に先輩にお会いしたいって言ってました。よろしければ……」
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