被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

十八話 不幸な王子

　ルイの母は侍女だった。
　父がたった一度気まぐれに手を出したときに妊娠した、その子供がルイだ。

　そのときまだ正妃が世継ぎを産んでいなかったので母は王宮に迎えられた。
　しかし身分の低い母は正妃の取り巻きに虐められてばかりいた。

　ルイが物心ついたときにはもう母は精神を病んでいた。
　でも、ほかに面倒を見てくれる人もいなかったから、ルイは自分のことを見てもくれない母のそばでいつも一人遊びしていた。

　そしてしばらくしてエドワードが生まれた。
　それから、用なしになった母は言葉にはできないほどひどい目に遭わされたらしい。

　耐えられなくなった母は首を吊って死んだ。
　きっと母はルイを恨んでいた。自分さえ生まれなければここまでひどい死に方はしなかっただろうから。

　母が死んで、ルイは一人ぼっちになってしまった。

　父はルイに関心はなく、後継も優秀な方がなればいいと放任していた。いっそのことエドワードを指名してくれればよかったのにと今でも思う。そうすれば、エドワード達と競う必要もなかった。

　ルイは後継になりたいなんて思ってもいなかった。でも、後継にならなければきっと自分は始末される。
　ルイは皇太子という身分しか持っていなかった。それを失えば何も残らない。

　だからルイは必死に努力した。
　誰もルイが王になるのを望まなくても、ルイは自分のために王になる。そう決めていた。それがルイの生きる唯一の術だと思っていた。

　誰にも頼らずに生きていく。

　ルイは母が死んでからずっと孤独だった。
　いや、母が生きているときも孤独だった。

　そうして誰にも期待しない、誰も愛さない、孤独な王子様ができてしまった。

　きっと本当は王子様は母親が、帰る家がほしかったのだ。無条件で自分を受け入れて、愛してくれる、そんな優しい場所が欲しかった。でも、誰もそんなものは与えてくれないから、諦めてしまった。

　孤独なままでは誰も愛せないのに、不幸な王子はそんなことさえ知らないのだ。