12 / 13
◇12
しおりを挟む
二週間ぶりの成田空港。
全身英語漬け。日本語は一切使わぬようにしていた。
自分がひと回り大きくなったというのは、欺瞞か。
学校の子たちと別れたのち。
『手ぶらで帰るもんだろ、普通』彼の助言に応じて、スーツケースは宅急便で届けてもらうよう手配。
完了後、携帯の電源を入れる。
『7:05』
着信、メール無し。
問い合わせても、やっぱりか。
少し肩が落ちる。
平日、人は閑散とした成田空港。
成田エクスプレスは値が張るから、宅配で横着をした分、京成で帰ろうと思った。
歩きながら、メールを打つ。
『件名:今、帰国した
朝早くにごめんね。ただいま。
無事に帰って来た、そのことだけ伝えたくて。じゃあね』
顔文字も入れない、女っけの無さ。
親に送るメールとさして変わらないな、と思いつつ母にも打つ。
送信途中で携帯が光る。
新着メールが一件。
『件名:おつかれ
(本文無し)』
二度見した。
……そ。
それだけかいっ!
何この、そっけないメール。
けども、暗い液晶に映る自分はにんまりとしている。
直ぐ返信が来たのが、嬉しいのだ。
あのままオサラバという可能性は、考えられなくもなかった。
「ふふっ」
笑ってしまった。咳払いをするが遅く、通りすがりの出張リーマンにいぶかしげな目をされてしまった。
と、再び振動。電話だ。
「もしもし」声弾ませて出たのに、
「ああ、おはよう」
平坦な反応。そんなもんか。
あたしは、あなたの声が聞きたくて聞きたくてたまらなかったってのに。
おはよう、と返すと、少し沈黙。雑音が混じる。
――足音?
「外からかけてんの?」
「少し太ったな、香枝」
声は同時だった。
弾かれたように周囲を探す。宝くじ販売、携帯ショップ、アメックス、両替所……。
「どこ見てる、こっちだ」
あなたは、『成田空港駅』、青い表示の直ぐ下に立っていた。
「じっ、ぶんが帰る方、普通、真っ先に探すだろ」
屈託なく笑う。脇目振らず走るあたしに、
「直接言いたかった。誰よりも先に」
――飛行機の時間すら教えてなかったのに、いつから待っていた?
人目憚らず、広げる手。その胸に迷わず飛び込んだ。
「おかえり、香枝」
グレーの少しちくちくしたセーターが直ぐ滲んでしまう。
「ただ、いまぁっ……」
もう記憶している、彼の匂い。久々に知る、塩辛い味。と、鼻先に違うなにかを香る。
濡れた視界、そっと手に取ると、淡き桃色の花びら。
「これって」
よく見ると、点々、と服に付着している。
「丁度満開だ。これから見に行くぞ」
「今からですか」
からだはくたくた。
「いや。たっぷりと、休んでからな」
あたしの下まぶたを拭うその表情。艶っぽさが混ざっていることに口元を引きつらせると、
「会いたかった」
くしゃり、髪に触れられ、もう一度引き寄せられる。
「あたしも」
嬉しくても涙が出ることを、止まらないことを、初めて体感する。
真ん中に抱きしめられると、自分がこころに帰って来た気がした。
目を閉じて、思い浮かべる。
奥に潜む、紺碧の色をした池。円状に囲う木々。
鏡のように綺麗なそれは、淡い花の色を映す。
満開の桜が咲いていた。
*
全身英語漬け。日本語は一切使わぬようにしていた。
自分がひと回り大きくなったというのは、欺瞞か。
学校の子たちと別れたのち。
『手ぶらで帰るもんだろ、普通』彼の助言に応じて、スーツケースは宅急便で届けてもらうよう手配。
完了後、携帯の電源を入れる。
『7:05』
着信、メール無し。
問い合わせても、やっぱりか。
少し肩が落ちる。
平日、人は閑散とした成田空港。
成田エクスプレスは値が張るから、宅配で横着をした分、京成で帰ろうと思った。
歩きながら、メールを打つ。
『件名:今、帰国した
朝早くにごめんね。ただいま。
無事に帰って来た、そのことだけ伝えたくて。じゃあね』
顔文字も入れない、女っけの無さ。
親に送るメールとさして変わらないな、と思いつつ母にも打つ。
送信途中で携帯が光る。
新着メールが一件。
『件名:おつかれ
(本文無し)』
二度見した。
……そ。
それだけかいっ!
何この、そっけないメール。
けども、暗い液晶に映る自分はにんまりとしている。
直ぐ返信が来たのが、嬉しいのだ。
あのままオサラバという可能性は、考えられなくもなかった。
「ふふっ」
笑ってしまった。咳払いをするが遅く、通りすがりの出張リーマンにいぶかしげな目をされてしまった。
と、再び振動。電話だ。
「もしもし」声弾ませて出たのに、
「ああ、おはよう」
平坦な反応。そんなもんか。
あたしは、あなたの声が聞きたくて聞きたくてたまらなかったってのに。
おはよう、と返すと、少し沈黙。雑音が混じる。
――足音?
「外からかけてんの?」
「少し太ったな、香枝」
声は同時だった。
弾かれたように周囲を探す。宝くじ販売、携帯ショップ、アメックス、両替所……。
「どこ見てる、こっちだ」
あなたは、『成田空港駅』、青い表示の直ぐ下に立っていた。
「じっ、ぶんが帰る方、普通、真っ先に探すだろ」
屈託なく笑う。脇目振らず走るあたしに、
「直接言いたかった。誰よりも先に」
――飛行機の時間すら教えてなかったのに、いつから待っていた?
人目憚らず、広げる手。その胸に迷わず飛び込んだ。
「おかえり、香枝」
グレーの少しちくちくしたセーターが直ぐ滲んでしまう。
「ただ、いまぁっ……」
もう記憶している、彼の匂い。久々に知る、塩辛い味。と、鼻先に違うなにかを香る。
濡れた視界、そっと手に取ると、淡き桃色の花びら。
「これって」
よく見ると、点々、と服に付着している。
「丁度満開だ。これから見に行くぞ」
「今からですか」
からだはくたくた。
「いや。たっぷりと、休んでからな」
あたしの下まぶたを拭うその表情。艶っぽさが混ざっていることに口元を引きつらせると、
「会いたかった」
くしゃり、髪に触れられ、もう一度引き寄せられる。
「あたしも」
嬉しくても涙が出ることを、止まらないことを、初めて体感する。
真ん中に抱きしめられると、自分がこころに帰って来た気がした。
目を閉じて、思い浮かべる。
奥に潜む、紺碧の色をした池。円状に囲う木々。
鏡のように綺麗なそれは、淡い花の色を映す。
満開の桜が咲いていた。
*
0
あなたにおすすめの小説
譲れない秘密の溺愛
恋文春奈
恋愛
憧れの的、国宝級にイケメンな一条社長と秘密で付き合っている 社内一人気の氷室先輩が急接近!? 憧れの二人に愛される美波だけど… 「美波…今日充電させて」 「俺だけに愛されて」 一条 朝陽 完全無欠なイケメン×鈴木 美波 無自覚隠れ美女
Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜
yuzu
恋愛
人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて……
「オレを好きになるまで離してやんない。」
その卵焼き俺にも食わせろ!―ワンナイトラブから逃げたはずなのに、契約で縛られてました!?―
鷹槻れん
恋愛
新沼 晴永(にいぬま はるなが/36)は俺様上司として恐れられる鬼課長。
そんな彼に毎日のように振り回されるのが、犬猿の仲(だと彼女が勝手に思っている)部下の小笹 瑠璃香(こざさ るりか/28)だ。
飲み会の夜、酔ってふにゃふにゃになった瑠璃香を晴永がまんまと持ち帰り――翌朝待っていたのはワンナイトの証拠と契約結婚の書類!?
晴永には逃げようとする瑠璃香を逃がすつもりはないらしい!?
笑いと誤解と契約の、ドタバタラブコメディ!
○表紙絵は市瀬雪さんに依頼しました♥(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
親愛なる後輩くん
さとう涼
恋愛
「神崎部長は、僕と結城さんがつき合っているのを知りながら彼女に手を出したんですよ」
雨宮一紗(33歳)。離婚して3年。
同じ会社に勤める元夫・神崎敦朗と復縁したくて、ある日食事に誘ったら、神崎から恋人がいると知らされる。相手は20代の部下・結城史奈だという。
さらに神崎のもうひとりの部下である蓮見閑《しずか》から、彼女(結城)を神崎に略奪されたと聞かされてしまい、大きなショックを受ける……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる