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プロローグ
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「川瀬のやつ、顔はいいのに。無駄だよな」
「だよな。ちっとも笑わねえし」
「あれで彼氏いたら俺パレスチナに行ってもいいわ」
「三途の花なだけにな。……っておまえが三途の川を渡ってどうする」
「ははは」
だべる同期たちの話にちっとも笑えない。
好きな人を悪く言われるのは気分が悪い。
「そうか。きみたちには川瀬花子ちゃんの魅力が分からないんだね。ま、僕ひとりが知っていればいいんだけど」
言ってやりたいのはやまやまではあるが。
「プログラミングの腕は確かだけどね」
「お。神宮寺に言われると説得力増すなぁ。けどあいつつんけんしてんぞ」
「だよな。コバが勝手に一人で作っちまうから困るってこぼしてたぞ」
「まー、コバは遅れてる文系だしなぁ」
「おまえに言われたかねえよ」
そこもまぁ、彼女の魅力ではあるけど。
こんな酒の場で打ち明けるのは勿体ない。――僕だけの秘密。
新橋の歓楽街の一角を構えるこの居酒屋には、僕たちみたいな会社員がわんさかいて、みな同じように酔い、同じように安酒を食らう。
三途の花。
そう揶揄されるあの子の本性を知るのはこの世で――僕だけ。
「そう言わず。色んな人間が会社にはいんだからさぁ。それなりに仲良くやっていこうよ」
「神宮寺みたいな金持ちは言うことがちげえなぁ」
「だなー」
「女子のなかでも浮いてんもんなぁ」
「女子ってこええよな。いまどきハブるとか無いだろ」
「リンダとか裏で泣いてたって聞いたぜ」
「おまえ、そこは彼氏として慰めてやれよ」
「いや、……別れた」
「は!?」
同じ研修ルームで三ヶ月間厳しい研修を乗り越え、苦楽を共にした大切な仲間だ。彼らの話にも耳を傾ける必要がある。
――ああ、きみに会いたい。
会って抱き締めたい。キスしたい。
突然ハグなんかしたらどんな反応をされるだろう。――いや、ない、ない。こんなコンプライアンスが厳しいこの時代において。
けど、僕の本能は常にきみを求めている。
花のようにあでやかに笑った、あの日のきみの面影をずっとずっと追いかけている。だから親父の会社なんか入らずここまで来た。
順風満帆に見える人生であっても、影がある。
あの日、波に溺れ、走馬灯を追い、必死に、浜辺へと戻れるようもがいてあがきながら、たったひとり。
きみだけのことを思って生きてきた。
……他に経験がないと言えば嘘になるけれど。まぁ、いずれきみは僕のものになるから。とっておきの愛を用意してあげる。
「ふふふ」
「……神宮寺。一人で笑うなよ。こええよ」
「顔がいいだけに不気味だよなぁ」
「んな可愛い顔してストーカーなんかしたら俺ぁロシアに飛ぶぞ」
「だーからおまえが三途の川を渡ってどうする」
たったひとり、追い求める可憐な花の面影。
そのことだけを思って生きてきた。
そろそろ――頃合いか。
「そうか、なんか急に三途の花の話なんかしだすからおかしーと思ったぜ。おまえ、リンダから三途の花に乗り換えるつもりなんだろ」
「残念。――阻止する」
酒の回った赤ら顔で全員「は?」とこっちを見る。
正々堂々、真っ向勝負だ。
「川瀬花子は僕が落とす。――確実にね」
人生、誰しも自分が主人公でありたい。
この物語の主人公は僕である。正面切って、宣戦布告。
みんなのことは勿論尊敬している。辛く苦しい研修を乗り切った仲間だ。
だが、こんなうわさ話をするレベルの野卑な男どもに、川瀬花子を渡すつもりはない。
「結婚式にはみんな呼んであげるよ。三年後くらいかな」
はええよ! おいなに言ってんだ! という野次には笑顔で応じる。――そう、神宮寺家の御曹司として培った、華麗で冷徹なる微笑みを。ピンチのときにこそ人間笑うんだ。確実に、あのときから胸の奥に根付いて脈々と走る感情を抱きながら。
「だよな。ちっとも笑わねえし」
「あれで彼氏いたら俺パレスチナに行ってもいいわ」
「三途の花なだけにな。……っておまえが三途の川を渡ってどうする」
「ははは」
だべる同期たちの話にちっとも笑えない。
好きな人を悪く言われるのは気分が悪い。
「そうか。きみたちには川瀬花子ちゃんの魅力が分からないんだね。ま、僕ひとりが知っていればいいんだけど」
言ってやりたいのはやまやまではあるが。
「プログラミングの腕は確かだけどね」
「お。神宮寺に言われると説得力増すなぁ。けどあいつつんけんしてんぞ」
「だよな。コバが勝手に一人で作っちまうから困るってこぼしてたぞ」
「まー、コバは遅れてる文系だしなぁ」
「おまえに言われたかねえよ」
そこもまぁ、彼女の魅力ではあるけど。
こんな酒の場で打ち明けるのは勿体ない。――僕だけの秘密。
新橋の歓楽街の一角を構えるこの居酒屋には、僕たちみたいな会社員がわんさかいて、みな同じように酔い、同じように安酒を食らう。
三途の花。
そう揶揄されるあの子の本性を知るのはこの世で――僕だけ。
「そう言わず。色んな人間が会社にはいんだからさぁ。それなりに仲良くやっていこうよ」
「神宮寺みたいな金持ちは言うことがちげえなぁ」
「だなー」
「女子のなかでも浮いてんもんなぁ」
「女子ってこええよな。いまどきハブるとか無いだろ」
「リンダとか裏で泣いてたって聞いたぜ」
「おまえ、そこは彼氏として慰めてやれよ」
「いや、……別れた」
「は!?」
同じ研修ルームで三ヶ月間厳しい研修を乗り越え、苦楽を共にした大切な仲間だ。彼らの話にも耳を傾ける必要がある。
――ああ、きみに会いたい。
会って抱き締めたい。キスしたい。
突然ハグなんかしたらどんな反応をされるだろう。――いや、ない、ない。こんなコンプライアンスが厳しいこの時代において。
けど、僕の本能は常にきみを求めている。
花のようにあでやかに笑った、あの日のきみの面影をずっとずっと追いかけている。だから親父の会社なんか入らずここまで来た。
順風満帆に見える人生であっても、影がある。
あの日、波に溺れ、走馬灯を追い、必死に、浜辺へと戻れるようもがいてあがきながら、たったひとり。
きみだけのことを思って生きてきた。
……他に経験がないと言えば嘘になるけれど。まぁ、いずれきみは僕のものになるから。とっておきの愛を用意してあげる。
「ふふふ」
「……神宮寺。一人で笑うなよ。こええよ」
「顔がいいだけに不気味だよなぁ」
「んな可愛い顔してストーカーなんかしたら俺ぁロシアに飛ぶぞ」
「だーからおまえが三途の川を渡ってどうする」
たったひとり、追い求める可憐な花の面影。
そのことだけを思って生きてきた。
そろそろ――頃合いか。
「そうか、なんか急に三途の花の話なんかしだすからおかしーと思ったぜ。おまえ、リンダから三途の花に乗り換えるつもりなんだろ」
「残念。――阻止する」
酒の回った赤ら顔で全員「は?」とこっちを見る。
正々堂々、真っ向勝負だ。
「川瀬花子は僕が落とす。――確実にね」
人生、誰しも自分が主人公でありたい。
この物語の主人公は僕である。正面切って、宣戦布告。
みんなのことは勿論尊敬している。辛く苦しい研修を乗り切った仲間だ。
だが、こんなうわさ話をするレベルの野卑な男どもに、川瀬花子を渡すつもりはない。
「結婚式にはみんな呼んであげるよ。三年後くらいかな」
はええよ! おいなに言ってんだ! という野次には笑顔で応じる。――そう、神宮寺家の御曹司として培った、華麗で冷徹なる微笑みを。ピンチのときにこそ人間笑うんだ。確実に、あのときから胸の奥に根付いて脈々と走る感情を抱きながら。
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