花に溺れ恋に純情~僕様同期御曹司の愛が私を捕らえて離さない~

美凪ましろ

文字の大きさ
1 / 45

プロローグ

しおりを挟む
川瀬かわせのやつ、顔はいいのに。無駄だよな」
「だよな。ちっとも笑わねえし」
「あれで彼氏いたら俺パレスチナに行ってもいいわ」
三途さんずはななだけにな。……っておまえが三途の川を渡ってどうする」
「ははは」

 だべる同期たちの話にちっとも笑えない。
 好きな人を悪く言われるのは気分が悪い。

「そうか。きみたちには川瀬花子はなこちゃんの魅力が分からないんだね。ま、僕ひとりが知っていればいいんだけど」

 言ってやりたいのはやまやまではあるが。

「プログラミングの腕は確かだけどね」
「お。神宮寺じんぐうじに言われると説得力増すなぁ。けどあいつつんけんしてんぞ」
「だよな。コバが勝手に一人で作っちまうから困るってこぼしてたぞ」
「まー、コバは遅れてる文系だしなぁ」
「おまえに言われたかねえよ」

 そこもまぁ、彼女の魅力ではあるけど。
 こんな酒の場で打ち明けるのは勿体ない。――僕だけの秘密。

 新橋の歓楽街の一角を構えるこの居酒屋には、僕たちみたいな会社員がわんさかいて、みな同じように酔い、同じように安酒を食らう。

 三途の花。
 そう揶揄されるあの子の本性を知るのはこの世で――僕だけ。

「そう言わず。色んな人間が会社にはいんだからさぁ。それなりに仲良くやっていこうよ」
「神宮寺みたいな金持ちは言うことがちげえなぁ」
「だなー」
「女子のなかでも浮いてんもんなぁ」
「女子ってこええよな。いまどきハブるとか無いだろ」
「リンダとか裏で泣いてたって聞いたぜ」
「おまえ、そこは彼氏として慰めてやれよ」
「いや、……別れた」
「は!?」

 同じ研修ルームで三ヶ月間厳しい研修を乗り越え、苦楽を共にした大切な仲間だ。彼らの話にも耳を傾ける必要がある。
 ――ああ、きみに会いたい。
 会って抱き締めたい。キスしたい。
 突然ハグなんかしたらどんな反応をされるだろう。――いや、ない、ない。こんなコンプライアンスが厳しいこの時代において。
 けど、僕の本能は常にきみを求めている。
 花のようにあでやかに笑った、あの日のきみの面影をずっとずっと追いかけている。だから親父の会社なんか入らずここまで来た。

 順風満帆に見える人生であっても、影がある。
 あの日、波に溺れ、走馬灯を追い、必死に、浜辺へと戻れるようもがいてあがきながら、たったひとり。
 きみだけのことを思って生きてきた。
 ……他に経験がないと言えば嘘になるけれど。まぁ、いずれきみは僕のものになるから。とっておきの愛を用意してあげる。

「ふふふ」
「……神宮寺。一人で笑うなよ。こええよ」
「顔がいいだけに不気味だよなぁ」
「んな可愛い顔してストーカーなんかしたら俺ぁロシアに飛ぶぞ」
「だーからおまえが三途の川を渡ってどうする」

 たったひとり、追い求める可憐な花の面影。
 そのことだけを思って生きてきた。
 そろそろ――頃合いか。

「そうか、なんか急に三途の花の話なんかしだすからおかしーと思ったぜ。おまえ、リンダから三途の花に乗り換えるつもりなんだろ」
「残念。――阻止する」

 酒の回った赤ら顔で全員「は?」とこっちを見る。
 正々堂々、真っ向勝負だ。

「川瀬花子は僕が落とす。――確実にね」

 人生、誰しも自分が主人公でありたい。
 この物語の主人公は僕である。正面切って、宣戦布告。
 みんなのことは勿論尊敬している。辛く苦しい研修を乗り切った仲間だ。
 だが、こんなうわさ話をするレベルの野卑な男どもに、川瀬花子を渡すつもりはない。

「結婚式にはみんな呼んであげるよ。三年後くらいかな」

 はええよ! おいなに言ってんだ! という野次には笑顔で応じる。――そう、神宮寺家の御曹司として培った、華麗で冷徹なる微笑みを。ピンチのときにこそ人間笑うんだ。確実に、あのときから胸の奥に根付いて脈々と走る感情を抱きながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

譲れない秘密の溺愛

恋文春奈
恋愛
憧れの的、国宝級にイケメンな一条社長と秘密で付き合っている 社内一人気の氷室先輩が急接近!? 憧れの二人に愛される美波だけど… 「美波…今日充電させて」 「俺だけに愛されて」 一条 朝陽 完全無欠なイケメン×鈴木 美波 無自覚隠れ美女

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました

藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。 そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。 ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。 その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。 仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。 会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。 これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

処理中です...