花に溺れ恋に純情~僕様同期御曹司の愛が私を捕らえて離さない~

美凪ましろ

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behave yourself

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「綺麗な顔した男の子と女の子がおるな、ってのは印象に残っておって。これがそんときの絵なげ」

 アユちゃんが送ってくれた絵は、禅雨と理生の顔を描いている。服装、顔立ちに至るまで。

「芸能人みたいに綺麗な子がおるってたまげたげ」

「……と友人のひとりが申しておりまして。こちらがその画像です」

 じっと私のスマートフォンに表示されるアユちゃんの絵を見つめる恋乃の目の動きに注視するが、特に、焦りや怖れといったものは見当たらない。恋生と同じく経営者として頭角を現した人間は、日ごろの挙動からして違う。落ち着き払っていて、驚きや怒りを表出させることなどない。

「それに。あなたに実際に会って確信しました。あなたは恋生の双子の妹だと」

「何故、わたくしが禅雨を名乗った。その理由までは分かりますか?」

「あなたは神宮寺の子として、恋生と一緒に本当は育ちたかった。でもそれが出来なかった。だからあの合宿の場で……復讐をした。神宮寺恋生のアナグラムの名を名乗ることで、呪いの連鎖を断ち、恋生として一瞬でも生きたかった。……それが私の思う、答えです」

「拍手ね。どうやってわたくしの出生まで?」

「この絵を見たときに、違和感があったんです。……恋生が禅雨を名乗るのなら恋生の面影がそこに残っているはず。ですが、この友人を見ると、理生のほうが恋生を思わせる。青い帽子の子がおぼろげながらも記憶に残っていたことからすると……恋生が理生と考えるのが自然だと」

 黙って私の答えを待つ恋乃。特に、驚嘆も驚きも見せない。焦点が合っていないように見えるが、落ち着いた経営者の顔をあくまでも貫く。

「となると、禅雨という、ふたごのきょうだいがいると考えるのが自然で。もうひとりのふたごの片割れは恋生になりたくて憧れていた。恋乃のアナグラムの名である理生を名乗るのが恋生であれば、禅雨のアナグラムが、神宮寺恋乃というところまでは理解出来ました」

「そう。でも、あなたの想像の範囲の話よね」

 大人しく認める。「はい。推測に過ぎません。ですが……」

 私はバッグから一通の手紙を取り出す。

「この手紙の送り主が『五尻禅雨』であったことからすると……理生の本体はやはりあなただと思いました。……私はいま恋生の宅に住んでおり、たまたま、部屋を片付けていたときに、『池水恋乃』に関するスクラップ記事を見つけました」

 棚のあんな分かりやすいところに置いていたことからすると、恋生は、私がこの答えをはじき出すのを待っていた、いや、そう誘導していた。

「写真こそありませんでしたが。……あなたは用心深い人間のようですから……。記事は、あなたの中学時代からの活躍を扱ったもので、スピーチコンテストで優勝。ボランティア活動に貢献。新たな事業を立ち上げた……様々な記事があり、記事を通して私は、あなたへの理解を深めていきました」

「そう? それであなたは、それを伝えるためだけにここにわざわざ?」

「いえ。実際あなたをこの目で見て、感じたかったのです。他人の与える二次情報ではなく、自分の目で感じて、実際お会いして、あなたがどんなかただというのを、この目で感覚で確かめたかった」

「そう。……まぁ、わたくしのほうも同じね。恋生が長らく恋をしているお相手のことは大体分かってはいましたけれど。会うのは十五年ぶりかしらね。幼い頃とはやはり印象が異なりますし、いまの恋生がどんな相手を選んでいるのか。わたくしもいずれ、あなたとは直接お会いしたかったのよ」

「ええ。最後にひとつ質問です」

 じっと耳を傾ける恋乃に、

「いま、あなたは、その目でもう一度恋生を見たいと思いますか?」

「酷な質問をなさるのね」と彼女は笑った。「いつから? 気づかれていたのかしら?」

「手紙を取り出したときに確信しました。……手紙の送り主は、本当は、理生です。あなたの正体は神宮寺恋乃なので、恋乃のアナグラムである理生を名乗るほうが自然です」

「そう。……気づかれないことも多いのに、軽率でしたわ」

「いえ。試したのはこちらです。試すような真似をして申し訳ありません」

「いいのよ。恋生がどんな相手を選んだのかが知れて……よかったわ。また会うこともあるでしょう。では、お元気で」

 立ち上がった恋乃の動きはとても自然だった。身のこなしといい、視覚障害者とはとても思えない。全盲なのか、弱視なのかすら判断出来ないほどだ。もしかしたら弱視という可能性もあるが。

 彼女の秘書に見送られ、私はビルを出た。小雨が降っていた。折り畳み傘をケースから取り出し、歩き出す。

 恋乃が視力を失ったきっかけまでは分からなかった。だが、あんなにも、大人への復讐を企て、試みるほどには、徹底的になにかを憎んでいる。

 愛するひとの双子の片割れ。私が言ったのは想像に過ぎなかったが、彼女の顔色を見る限り、大体は外れていなかったようだ。

 いま、私になにが出来るだろう。振り返り、高層ビルのひとつにいまも敏腕経営者として働く、ひとりの女性のことを思う。なにを抱え、苦しんでいたのか。短い時間の会話だけでは分からない。

 確かめるべきことはもうふたつ。そう。チケットを取ろう。どちらから行こうか。いや、大人しく時系列を辿ろう。スマートフォンで恋生に「しばらく不在にします」とLINEを送り、そのままアプリを立ち上げ、新幹線を予約する。

 軍資金はまだすこしはある。恋生宅に住まわせて頂いて、アパートはまだ引き払っていないが、恋生は、特にお金は入れなくていいと言ってくれている。あれだけ見目形姿に恵まれた現代の貴公子たる恋生に、微々たる金を渡すのも、かえって失礼に当たる気がして、あまえている。

 さあ、行こう。――私の記憶を辿る旅へと。
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