花に溺れ恋に純情~僕様同期御曹司の愛が私を捕らえて離さない~

美凪ましろ

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 抜けたやつの穴なんかとっとと二週間あれば埋まる。

 それは確かに事実なのだが、ただ、その際にとんでもなく現場は苦労をする。

 俺はただそれを見ているだけ。特に出来ることはなにもない。

 うちの会社のここに常駐するチームは、裏でKの軍隊と呼ばれている。毎年一定数の新卒が人柱となり配属され、全員揃って潰れていく。生き残るのは、スキル不足の片岡のような、厚顔無恥で図太い連中ばかり。センスのいいやつは大概、からだが先かこころが先か。IT系は特に鬱の多い業界で今更誰がいつどこで病もうが誰も気にやしないしいつも通り人事が応対するのみ。

 川瀬花子は惜しかった。筋のいい若手だった。あくまで彼女自身を評価するならば、優秀なプログラマーではあった。あれほど技術のある若手を手放したことが惜しまれる。

 若手は仕事の加減が分からず、自分で背負い込む傾向にある。例に漏れず川瀬花子もそのタイプで、ふたりBPを下につけたところ、見事に潰れた。部下をつけてわずか半年足らずの出来事だった。

 ある程度面の皮が厚くないとうちの業界ではやっていけない。どんなに本人が優秀であろうが、ひとを使うことの出来ない連中に、リーダーを名乗る資格はないと俺は考えている。

 休職に入った川瀬も、果たしていまの空の色を無事に拝めているだろうか。悪くはない子だった。ただ、正義感が強すぎて、仕事を任せるのが下手すぎるだけだった。彼女自身に罪がないとまでは言いきれないが、上長としてコントロール出来なかった俺にも責任の一部がある。

 煙草が染みる。こんな、やけに空が冴え冴えと青く澄み渡った日なんかは、踏みつけられたがれきの下に埋もれたかつての新人たちはいまごろなにをしているやらと、煙草の煙を吹かしながら考えを巡らせる。こういうしんどいときに煙草なんか吸うとやけに染みる。生まれて初めて煙草を吸ったのは学生の頃、体育館の裏で先輩たちに混ざって、だったな。

 川瀬花子は煙草を吸う連中を毛嫌いしていた。煙草を吸う連中は好き勝手に離席をし、電話がかかってきても突然不在にするものだから、川瀬は嫌な顔をしていた。煙草を吸う連中がずるいと裏で言っていたと聞いたこともある。

 喫煙は権利だ。ちゃんと休憩を取りたいのなら別に吸えばいいし、吸わない連中は勝手にしろ。ここは小学校でも学校でもねえんだよ。自分の頭でちゃんと考えろ。煙草なんか吸っていないととてもじゃないが、仕事なんてやっていられない。――ああ。こうして休憩しているはずなのに考えるのは仕事のことばかり。いつもハイで、休憩中もずっとずっと予算のこととか今期の数字が何パーセント達成出来たかそんなことばかりを考えている。堂々巡りだ。

 女でもいれば違ったのにな。婚期を逃した俺は裏で一生懸命婚活アプリに登録してアピールしてみるが戦績はゼロ。頭の薄さを誤魔化すべく坊主にしているが写真だけでばれてしまうのか、或いは、仕事しか没頭することのない脳なしの人間ぷりが画面を通して伝わるのか。連絡はゼロ。メールのひとつも来やしない。

 そろそろ戻ろう。みんなが黙ってかたかたタイピングをするあの針の筵へと俺は帰っていく。いまの若いやつらは軟弱で電子タバコなんか吸っているがやっぱり男は煙草だ。もくもくと煙をくゆらせると頭の奥がぼうっとして気分がよくなる。煙草臭さが男の勲章。さぁて。はるか昔の元カノに貰ったJIPPOをワイシャツの胸ポケットに仕舞うのが合図だ。終わらせても終わらせても片付かないがれきの山を前にした俺たちは、今日も、デスマーチを続ける。

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