25 / 45
studying abroad and being myself(2)
しおりを挟む
バスに乗り込むときも乗り込んだ後も、この物語の主人公は僕ではない誰かだ。みな、地元が同じアメリカ人で昔馴染みで僕には分からない話で盛り上がっている。日本と違って多国籍で肌の色が違う面々が屈託なく喋っている。共通するのはみなボストン訛りの英語を喋るということ。学生同士というものは、どうしていつまでも飽きずに喋れるのだろうと不思議だったが、共通項があるということはこんなにもひとを明るくする。
僕には参加出来ないドラマが目の前で展開されている。
アメリーがプロムに着ていくひとをもう決めた、ドレスも決まっている、アンディが誘われずこじらせている……その程度のことなら留学して一ヶ月程度の僕にも分かる。
K学園の幼稚舎にいる頃から僕は常にひとに囲まれており、いわゆるAグループの少年だった。爪弾きにされたことなんていままで一度たりともないし、どこにいたって自分が主役だった。
それが、いまは……。
砂を噛むように歯がゆい。しかし、自分で決めたことなのだから最後までやり抜きたい。
神宮寺財閥の御曹司たるもの、留学するならK学園の提携校と相場が決まっているというのに、その伝統に逆らってまで成し遂げるべき偉業なのだ。世界に名高い、一流のビジネスパーソンが所属するマンドリルクラブからの交換留学生としてならと、なんとか両親の許可を貰えただけに、下手に、途中で泣いて帰ることなど許されない。
一介のモブとして沈黙を保ち、学校への到着を待つ。
スクールバスが学校の前に到着するとみんな、弾けるように飛び出す。連れ立って和気あいあいと。
彼らの物語のなかに僕はいない。淡々と前に進むほかない。
それでも、あまり極端に離れ過ぎると目立つので、彼らとある程度の距離を保ちつつ学校へと入る。真っ先に行くのはロッカーだ。南京錠より大きな、アメリカの学校に特有の重たい丸い鍵でロッカーに鍵をかける。それを開いて、バックパックから今日使わないテキストを取り出してロッカーに戻し、今日使う分を持ち出す。
アメリカの学校では、生徒は教科書を購入せず、分厚い辞書よりも巨大な、A4サイズよりも大きい、アメリカに特有のサイズの教科書を借りる。一教科ごとに一テキストなので、そんな重たいものを常時持ち歩けるはずがないので、みんな、どかどかとテキストをロッカーに突っ込む。あとは、クラブなんか所属していたらみんな服や靴を入れる。ノートはぺらぺらのわら半紙のような薄っぺらいノートを使用し、こちらもまたアメリカ特有の「レターサイズ」。それをまとめてひとつのファイルに入れる。
アメリカのロッカーにはネズミが出る。一度、貰ったチョコレートをそのまま箱ごとロッカーのなかに入れておいたところ、一晩でかじられていた。だから、食べ物系は一切入れないとこころに決めた。チョコレートは泣く泣く処分した。
日本とは違って、クラスが決まって先生がそのクラスを訪れてくれる方式ではなく、アメリカでは、音楽なら音楽の行われる教室が決まっており、分厚いテキストとノートのセットを手に生徒があせあせと移動しなければならない。木曜日は三階の端から一階の玄関近くまで移動しなければならず、体力を使う。勿論、そんな生徒の事情などお構いなしに、休憩時間十分で生徒は必ず移動しなければならないし、遅刻などして目立ちたくもない。走るように歩くことも多々ある。
ロッカーで荷物を出し入れしながらきゃっきゃしている面々を見ながらぼんやりしているとあっという間に始業の時間となる。授業の一時間目をその教室で各自受ける前に、校内放送を聞く必要がある。僕は、急いで、Musicのテキストやノートを取り出し、教室へと向かう。こんな僕に話しかける者など誰一人としていない。けども、続けなければならない。
*
「Music club, the executives have the meeting at the room 601. Make sure to come on time, 5 o'clock. Next, about match of the American football club with A high school, we are using 2nd playing field, that is coming on Tuesday after school. For our cheerleaders, please come to 2nd playing field 30 minutes before the game starts. This is all about our school today. Have fun. Have a good day today, B school mates. The speaker is Amy tolds. Thanks. 」
僕には半分も聞き取れない早口の生徒のアナウンスが流れ、終わると、授業が開始する。
幼稚舎時代にたいていの楽器は習わされた。アメリカのどこでもそうなのかボストンがたまたまそうなのか。Music classは吹奏楽、つまり、wind instrument musicを指す。K学園のときとは大違いの、チープな楽器をそれぞれが演奏する。花のボストンにいるというのに意外とレベルが低い。公立校だからか……。ボストンは世界に名高い音楽大学もあるから期待していたのに。はっきり言って、下手である。
今日も、超絶低いクオリティの演奏をしなければならないのかと思うと苦痛だ。むかむかするのでトランペットでレスピーギのローマの祭りを演奏してやる。すると、Musicの先生であるその名もミスターミュージックが指揮棒で指揮をし始める。面白そうにみんなが見てくる。僕に注目が集まる。
チルチェンセスの獣が唸る最後のけたたましい高音を奏で、Mr. Musicが指揮棒を止めると拍手が沸いた。ふふん。いい気分である。
だが、僕は、この行動を約四時間後に激しく後悔することとなる。
僕には参加出来ないドラマが目の前で展開されている。
アメリーがプロムに着ていくひとをもう決めた、ドレスも決まっている、アンディが誘われずこじらせている……その程度のことなら留学して一ヶ月程度の僕にも分かる。
K学園の幼稚舎にいる頃から僕は常にひとに囲まれており、いわゆるAグループの少年だった。爪弾きにされたことなんていままで一度たりともないし、どこにいたって自分が主役だった。
それが、いまは……。
砂を噛むように歯がゆい。しかし、自分で決めたことなのだから最後までやり抜きたい。
神宮寺財閥の御曹司たるもの、留学するならK学園の提携校と相場が決まっているというのに、その伝統に逆らってまで成し遂げるべき偉業なのだ。世界に名高い、一流のビジネスパーソンが所属するマンドリルクラブからの交換留学生としてならと、なんとか両親の許可を貰えただけに、下手に、途中で泣いて帰ることなど許されない。
一介のモブとして沈黙を保ち、学校への到着を待つ。
スクールバスが学校の前に到着するとみんな、弾けるように飛び出す。連れ立って和気あいあいと。
彼らの物語のなかに僕はいない。淡々と前に進むほかない。
それでも、あまり極端に離れ過ぎると目立つので、彼らとある程度の距離を保ちつつ学校へと入る。真っ先に行くのはロッカーだ。南京錠より大きな、アメリカの学校に特有の重たい丸い鍵でロッカーに鍵をかける。それを開いて、バックパックから今日使わないテキストを取り出してロッカーに戻し、今日使う分を持ち出す。
アメリカの学校では、生徒は教科書を購入せず、分厚い辞書よりも巨大な、A4サイズよりも大きい、アメリカに特有のサイズの教科書を借りる。一教科ごとに一テキストなので、そんな重たいものを常時持ち歩けるはずがないので、みんな、どかどかとテキストをロッカーに突っ込む。あとは、クラブなんか所属していたらみんな服や靴を入れる。ノートはぺらぺらのわら半紙のような薄っぺらいノートを使用し、こちらもまたアメリカ特有の「レターサイズ」。それをまとめてひとつのファイルに入れる。
アメリカのロッカーにはネズミが出る。一度、貰ったチョコレートをそのまま箱ごとロッカーのなかに入れておいたところ、一晩でかじられていた。だから、食べ物系は一切入れないとこころに決めた。チョコレートは泣く泣く処分した。
日本とは違って、クラスが決まって先生がそのクラスを訪れてくれる方式ではなく、アメリカでは、音楽なら音楽の行われる教室が決まっており、分厚いテキストとノートのセットを手に生徒があせあせと移動しなければならない。木曜日は三階の端から一階の玄関近くまで移動しなければならず、体力を使う。勿論、そんな生徒の事情などお構いなしに、休憩時間十分で生徒は必ず移動しなければならないし、遅刻などして目立ちたくもない。走るように歩くことも多々ある。
ロッカーで荷物を出し入れしながらきゃっきゃしている面々を見ながらぼんやりしているとあっという間に始業の時間となる。授業の一時間目をその教室で各自受ける前に、校内放送を聞く必要がある。僕は、急いで、Musicのテキストやノートを取り出し、教室へと向かう。こんな僕に話しかける者など誰一人としていない。けども、続けなければならない。
*
「Music club, the executives have the meeting at the room 601. Make sure to come on time, 5 o'clock. Next, about match of the American football club with A high school, we are using 2nd playing field, that is coming on Tuesday after school. For our cheerleaders, please come to 2nd playing field 30 minutes before the game starts. This is all about our school today. Have fun. Have a good day today, B school mates. The speaker is Amy tolds. Thanks. 」
僕には半分も聞き取れない早口の生徒のアナウンスが流れ、終わると、授業が開始する。
幼稚舎時代にたいていの楽器は習わされた。アメリカのどこでもそうなのかボストンがたまたまそうなのか。Music classは吹奏楽、つまり、wind instrument musicを指す。K学園のときとは大違いの、チープな楽器をそれぞれが演奏する。花のボストンにいるというのに意外とレベルが低い。公立校だからか……。ボストンは世界に名高い音楽大学もあるから期待していたのに。はっきり言って、下手である。
今日も、超絶低いクオリティの演奏をしなければならないのかと思うと苦痛だ。むかむかするのでトランペットでレスピーギのローマの祭りを演奏してやる。すると、Musicの先生であるその名もミスターミュージックが指揮棒で指揮をし始める。面白そうにみんなが見てくる。僕に注目が集まる。
チルチェンセスの獣が唸る最後のけたたましい高音を奏で、Mr. Musicが指揮棒を止めると拍手が沸いた。ふふん。いい気分である。
だが、僕は、この行動を約四時間後に激しく後悔することとなる。
0
あなたにおすすめの小説
譲れない秘密の溺愛
恋文春奈
恋愛
憧れの的、国宝級にイケメンな一条社長と秘密で付き合っている 社内一人気の氷室先輩が急接近!? 憧れの二人に愛される美波だけど… 「美波…今日充電させて」 「俺だけに愛されて」 一条 朝陽 完全無欠なイケメン×鈴木 美波 無自覚隠れ美女
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました
藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。
そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。
ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。
その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。
仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。
会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。
これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。
Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜
yuzu
恋愛
人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて……
「オレを好きになるまで離してやんない。」
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる