花に溺れ恋に純情~僕様同期御曹司の愛が私を捕らえて離さない~

美凪ましろ

文字の大きさ
39 / 45

眩しい影(1)

しおりを挟む
 二年で初めて一緒のクラスになった。喜びを堪えるのに必死だった。

 当時俺は格好つけている男子高校生だったから。勿論裏では自慰したり好きな女の子で妄想したりもしたさ。

 だがそんな裏の顔はおくびにも出さず、爽やかな表の顔を演じた。

 クラスで休み時間にあんまり周りとつるまず自席にて本を読む。そんな姿が周囲の男たちの目を引いた。

 周りときゃっきゃ言っている陽キャな女子を好む男もいれば、……おまえのような、大人しい女を好む男もいる。

 俺は陸上部所属で陸上に夢中だった。女子陸上部の女たちと関わる機会は多かったが、俺のこころのなかには常におまえがいた。

 ……だからな。

 初めて一緒に図書委員になった日には、嬉しくて、カツカレーが食べたくなったほどだよ。実際母に頼んだ。

「……よろしく。高峰くん」

 目を合わせようとしない、伊達メガネをかけて、おさげのおまえは、まるで少女向けの小説から出てきた女の子のようで。愛おしい気持ちを加速させたよ。

 初めて、俺の部屋のベッドで愛を確かめ合った。

 せっかく俺の部屋にいるのに本なんか読むおまえを背後から抱き締めて。散々刺激してやって邪魔をした。

 そんな日々は永遠には続かなかった。三年生に進学すると、理系の国立大学進学を志望するおまえとは別のクラスになった。実家で家業を継ぐことが決定していた俺は、必然、おまえとの距離を感じた。どうせおまえは東京で進学をするのだ。一年後には離れ離れになる……そんな未来が俺たちの関係を決定的なものにしてしまったね。

「分かっておるよ。海我と私は、……別の道を進むって」

 最後に抱き締めたときのおまえの髪の香りを一生忘れられない。

 自然消滅で恋愛を終わらせるのはおまえが最初で最後の女だった。以降の女はみんな、俺にすがりついて、考え直してとか、そういう姿を見せた。おまえはいつでも毅然としていた。

「じゃあ、……ありがとう。またね」

 見事東京の国立大学への進学を決めたおまえは、俺から卒業アルバムを受け取ると切なそうに微笑んだ。その笑顔がいまも胸に焼き付いて離れない。永遠に、俺は、おまえの影。眩いひかりに包まれた道を進むおまえは俺の目から見てあまりにも眩しかった。目が眩むほどに。

 *

「……は。なんでおまえが派遣で働いているんだよ……おかしいだろ」

 開口一番。

 偶然西新宿で出会ったおまえから話を聞いた俺は驚いた。俺は、おまえの高校時代の成績を知っている。誰もが知る日本一の国立大学への合格を決めた。あの田舎では珍しい、ただ、一定数いる、ハイスペックの間違いない地頭のいい女だったはずが。

「彼氏はなにも言わないのかよ」

「うん。……まぁ、花の進みたい道を選びなって」

「なんだそれ」花がひとりでいてくれればいいのに。未練がましい自分に嫌気がさす。「ちゃんとした彼氏だったら、止めるだろう普通。おかしいよそいつ。おまえ、そいつと本当に……本気なのか?」

 頭に血がのぼる。こんな未来が待っていると知っていたなら、俺は、おまえのことを離さなかったのに。

 あの頃は、自分が商売を成功させて、頻繁に東京に来られるだなんて思ってもみなかった。

 一応、緑川に住む必要はあるが。職人と顔を合わせる仕事なので、オンラインだと伝わり切らないものがある。対面で腹を割って話すことを大事にしている。それは東京のたとえば百貨店に対しても同じで。俺は、ビジネスとして、緑川塗を日本中に広める活動をしている。

「……私の意志を尊重してくれているんだと思う……」

「けど、……ごめん。俺が口出せる問題じゃないけど……おまえ、あんなに賢くて頭がよかっただろ。アホだった俺ですらちゃんといまはビジネスをやれているんだ。おまえだったら、ポテンシャルもあるし、仕事が出来るに違いないし、派遣なんかじゃ勿体ないだろ。……別に将来的におまえがそいつに食わせて貰って生きていくつもりなら構わんが、花は、そういう女じゃなかっただろ?」

 父親はアルコール依存症の食いっぱぐれた小説家。母親はそんな夫を支え、健気に近所の病院で働く。

 経済的に余裕がないからこそ、花は、ボロアパートに住んで、いまも奨学金を返しているはずだ。

 そこまで苦労して進んだ道なのに何故。派遣が問題だというのではない。花のよさを生かし切れていない仕事、そこに問題がある。

「それに、いま派遣やると将来的にきついぜ。五十代になったときにどうすんだ? 会社員であれば、俺らの世代はきっと七十代まで働くに決まっているし、フリーランスであれば天井なしだ。……おまえ、そいつと一緒に暮らしていて、ずっと、そいつの帰りを待つのが幸せなのか?」

 惑うおまえを見ていても勝手に口が動く。余計なことをするな。頭では分かっているのに……胃の奥が煮えたぎる。おまえの馬鹿な彼氏をいますぐ蹴り倒してやりたい。

「それが、ひとつの幸せのかたちなのかもしれない……けれど」

 だよな。おまえはそういう女だ。

 放っておいても勝手に仕事がやってくる。部活は英語部に所属し、普段大人しいくせに、スピーチで英語を話すときなんかひとが変わったようになる。流行りの日本初の女性総理も顔負けの演説をお披露目する。理系で数字に強いくせに英語も出来るのかよ。おまえは英語が堪能で、模試なんか行われたら英語は全国でも上位に入っていた。独学でそこまで英語力を身につけたことに心底驚いた。あの田舎ではそこまで出来る女はひとりもいなかった。いや、男でもだ。

 あの英語力だったらおまえは外資系でもやっていけるはずだし、仕事なんていくらでもある。

「まだ二十五なんだぞ俺たち。……緑川で夫の帰りを待つ、子持ちの主婦なんざそりゃ、いくらでもいるさ。でも、別に、おまえは子どもがいるわけでもないし、……東京では三十過ぎても独身のやつなんかごろごろいる。おまえは緑川の、二十代前半で二人以上子どもを持つ、ああいう価値観に染まった女とは違うんだろ? 少なくとも、俺の知る花は、違った」

 ああ、苛々する。なんなんだこれ。何故、俺は――。

 こんな現実を知るために、別れたわけではないのに。

 こんなんだったら、大学を卒業したおまえを迎えに行けばよかった。

 そいつといるより、俺といるほうがずっとずっと幸せになれる。いますぐおまえを奪い去りたい。

 けど……。

 口数が少ないのは、悩んでいるからなんだろう。

「俺さ。これでも、ちゃんとした経営者やってるから。従業員は百人を超えるし、職人や業者とのやり取りにも長けている。……東京に来ることもしょっちゅうだから、いつでも相談に乗るから。あまり考えないで、なんとなく、連絡してくれてもいいから」

 LINEはまだ繋がっている。連絡を取ろうと思えばいつでも取れる状況にいる。

 フェードアウトして気まずかったから。そんな理由だけで連絡を取らなかった自分が悔やまれる。おまえにこんな未来が待っていると知っていたら……もっと力になってやればよかった。おまえと将来の道が隔たれているなんて思いこまずに、自由に、もっとおまえの傍に……。

 おまえのことに親身になってやる一方で頭のなかで冷静な自分が戦略を組み立てる。――これは。

 外堀から埋めるべきだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

譲れない秘密の溺愛

恋文春奈
恋愛
憧れの的、国宝級にイケメンな一条社長と秘密で付き合っている 社内一人気の氷室先輩が急接近!? 憧れの二人に愛される美波だけど… 「美波…今日充電させて」 「俺だけに愛されて」 一条 朝陽 完全無欠なイケメン×鈴木 美波 無自覚隠れ美女

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました

藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。 そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。 ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。 その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。 仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。 会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。 これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

処理中です...