永久就職しませんか?

氷室龍

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第5話

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長いです。
最後の方でアメリカ人との会話があります。
氷室は英語がダメダメなので英語の会話は【】で表記させていただいてます。
ご了承ください。
********************************************
第5話

薫は胸に走るチクリとした刺激で意識を覚醒させられる。
焦点の定まらない中、見えたのは自分の胸に顔を埋めその頂にむしゃぶりつく伊達の姿。

「て、輝臣さん?!」
「ああ、やっと目を覚ました…。」
「な、何?」

薫は起き上がろうとした拍子に下腹部に違和感を覚える。
驚いて伊達の顔を見上げる。
すると彼は嬉しそうに目を細めて爆弾発言をした。

「薫の寝顔が可愛くて我慢できなかった。」

薫はあまりのことに反論の声を上げようとしたができなかった。
何故なら、伊達が激しく抽挿を始めたから。
そう、伊達は薫の寝顔に欲情し、意識のないにも関わらず、熱杭を挿入していたのだ。

「寝起きは感じやすいだろ?」
「あ、はぁん、だ、ダメ!!」
「ダメ? 薫は嘘つきだな。 こんなに喜んでるじゃないか?」
「ひゃっ、 あぁぁぁぁぁぁん!!

薫の弱いところは既に知られている。
伊達はその熱杭で薫の最も感じる場所を穿つ。
あっという間に達する薫。
中は蠢き、精を絞り取るように絡みつく。
伊達はそれに贖うことなく白濁を解き放つ。

「薫…。 まだいけるだろ?」
「え?」

伊達はニヤリと笑い、薫の腰を掻き抱くとそのまま体を起こす。
二人はあっという間に対面座位となる。
一度と吐き出したくらいでは固さを失わない伊達の熱杭が薫の奥をさらに穿つ。
薫は達したことでさらに敏感になっており、もはや与えられる快楽に溺れるよりほかなかった。
薫は両腕を伊達の背中に回し、しがみつく。
伊達はお構いなしに激しい抽挿を繰り返す。
口では嫌がっても体がそれを欲していることがわかっているからだ。
いつしか、薫も自ら快感を拾おうと腰を使い始める。

「薫、そんなにいいか?」
「あぁぁんっ! て、輝臣さぁん…。」
「そんなにいいか?」
「うん、うん、イイのぉぉぉぉ。」

薫は更にしがみつき、密着する。
伊達もそれに答えるように大きくグラインドさせてていく。
薫の限界はすぐにやってきた。
どのタイミングで絶頂に達するか、既に把握している伊達は一際深く中を穿った。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

今までにないほど大きく喘ぎ、背を仰け反らせ、薫はイッた。
伊達は再び薫を横たわらせる。
その目にはもはや何も映っていない。
ただ与えられた快感に溺れ恍惚の表情を浮かべている。
伊達はそれがすべて自分が与えたものであることに酷く興奮した。
薫がこのような表情を見せるのが自分だけかと思うと優越感でいっぱいになる。
すると、またしても熱杭は固さを取り戻す。

「薫、もう一回だ。」
「も、もう、無理…。」
「そんなことはない。 薫のここはもっと欲しいって締め付けてくるぞ?」
「ち、違…。 あうっ!」

達したばかりなの薫の奥を深く穿つ伊達。
もはや、何も考えられない。
ただただ、快楽の波に呑まれ、流される。
やがて薫は自らその快楽の先を強請るようになる。

「て、てる、おみ、さん…。」
「はっ、はっ、なんっ、だ?」
「お、お願い…。 アレを…。 アレでイかせて…。」
「フフ、随分と強請りが上手くなったじゃないか。」
「あぁぁぁんっ! お願い、輝臣さん…。」
「そんなにアレがよかったのか?」
「うん…、輝臣さんをいっぱい感じられるから…。」
「分かった。 少し苦しくても我慢しろよ。」

薫は頷く。
伊達は薫の両足を肩にかけ、グッと押し込むように倒れ込む。
それは屈曲位と呼ばれる体位で子宮口を直に刺激する。
押し込まれた瞬間、薫は甲高い嬌声を上げ、軽くイク。
だが、まだ始まったばかりで伊達の抽挿で意識を引き戻される。
あとは、与えられる快感をただひたすら貪るだけだった。
伊達は容赦なく攻め立てる。
だが、薫の中はそれに喜び震えた。
中は伊達の放つ精を強請り、蠢いている。
やがて、伊達にも限界が訪れる。

「薫! 俺も、もう…。」
「はぁん、輝臣さん! 来て!! 奥にいっぱい出して!!」
「くぅぅぅぅっ!!!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

薫はボルチオオーガニズムに酔いしれる。
なにより同時に伊達も果てたことが嬉しくてたまらなかった。

「輝臣さん…。 大好き…。 愛してる。」
「ああ、俺もだ。薫、愛してる…。」

伊達は体を起こし、ようやく力を失った自身を引き抜く。
伊達の熱杭を収めていた秘裂からは収まりきらなかった白濁がトロリと溢れ出しシーツを汚していく。
伊達はそれを目を細めて見ていた。
かつての女たちはここまですることを許してくれなかった。
だが、薫は違う。
むしろこうなることを自ら望んでいる。
伊達にとってそれは幸福以外のなにものでもない。
ありのままの自分を受け入れてくれたと思えたから。
すると薫が手を伸ばし、伊達の頬を両手で包む。
薫は優しくほほ笑み、伊達に告げる。

「輝臣さん、ありがとう…。」

その言葉は伊達の心にしみわたる。
そしてどちらともなく唇を重ねる。
甘く蕩けるような感覚が二人を包む。
だが、次の瞬間この甘い雰囲気は一人の女性の声で霧散する。

「人のこと呼び付けといて、朝っぱらからお楽しみとはどういうことかしら?」
「ハ、ハル?」
「まーったく!! 電話にも出ないから慌てて来てみたら…。
 若い女とナニの真っ最中とはね。」
「あ、いや、その…。」
「どういうことか説明してもらおうかしら?!」
「あ、あはははは…。」

突然現れた女性は明らかに怒っている。
伊達が後ずさるのがわかる。

「ハル、そのくらいにしなよ。」
「でも、シゲ、この馬鹿…。」
「あー、それはあとで、ね?
 出ないと、そっちの彼女が居たたまれないよ。」
「あ…。」

女性に『シゲ』と呼ばれた彼は薫のことを顎で指した。
どうやら女性も薫がすっかり怯えて縮こまっているのに気づいたようで慌て始める。

「やれやれ…。 だから、いきなり踏み込むのやめようって言ったのに…。」
「だ、だって…。」
「そんなことは置いといて。
 テル、僕たちはリビングにいるからその娘とシャワー浴びてきなよ。」
「あ、ああ…。」
「ただし! 短めにね。」
「わ、わかった。」
「ということで、ハル、リビングに行くよ。」
「仕方ないわね。」

と言う訳で、二人は出て行った。
あとに残った伊達と薫がいそいそとバスルームに消えたのは言うまでもない。

****************************************************************

――――――――10分後――――――――

薫と伊達向かい側には『ハル』と呼ばれた女性、その隣に『シゲ』と呼ばれた男性が座る。

「あ、あの…。お茶、入れてきます。」

『ハル』の怒りのオーラに居たたまれなくなったのだろう。
薫はキッチンへと逃げ込んだ。

「ハルのせいだよ。」
「私?」
「そう。 そんなに不機嫌オーラ出してるから、彼女が怯えちゃうんだよ。」
「もとはと言えば、テルが!!!」
「まぁ、そうだけど。 今は確認が先。」
「………。」

そこへ薫が湯のみを四つと急須をもってきてお茶を注ぐ。
その所作は無駄がなく美しい。

「そ、粗茶ですが…。」
「ありがとう、お構いなく。」

『シゲ』は礼を述べて、薫が出したお茶を一口飲む。

「さてと、何から話そうか。
 って、その前に自己紹介が先かな?。
 僕は片倉重綱。で、こっちの彼女は僕の妻の晴海。」

そう言って差し出されたのは二枚の名刺。
そこには『片倉クリニック院長 片倉重綱』『片岡クリニック副院長 片倉晴海』とあった。

「お、お医者さま?」
「そう、僕が小児科でハルは産婦人科ね。」
「あと、内科も診てるわ。
 ついでに言うと、私はそこのバカの双子の姉です。」
「へ?」

薫は手にした名刺をぽろっと落してしまう。
それほどの衝撃だった。
目の前にいる女性が伊達の双子の姉と言う事実。
それに驚かないなどありえない。
思わず、伊達の方を見ると酷く複雑な顔をしていた。

「その様子だと、僕たちが今日来ること話してなかった?」
「……………………。」
「話してなかったんじゃなくて、忘れてたんじゃない?」
「……………………。」

片倉夫妻の容赦ない攻撃に伊達の体がみるみる小さくなる。
そして、ダラダラと変な汗をかいている。
ように見えた。

「そうだ。 これは返しておくね。」

そう言って重綱がローテーブルの上に置いたのは薫の免許証と学生証。

「そこに置きっぱなしになってたから…。」
「す、すみません…。」
「で、えっと…。」
「あ、薫です。 結城薫…。」
「薫ちゃん、そう呼んでいいかな?」
「はい。 構いません。」
「この二つから君はK大史学部の四年生だってことは分かった。
 で、学科も考えるとテルの教え子だってことでいいかな?」

薫は黙って頷いた。
すると、晴海の不機嫌オーラが濃くなった。
気がして、背筋が凍る。

「ふ~~~~~~~ん、つ・ま・り!
 テルは教え子にてを出したんだ。」

まるでドライアイスの煙か何かのように晴海からそれはそれは恐ろしい絶対零度の不機嫌オーラが漂い始める。
隣に座っている重綱が苦笑していて、伊達は蛇に睨まれた蛙よろしく固まっている。

「まぁまぁ、落ち着いて。」
「これが落ち着いていられるかってーの!!
 34にもなるいい大人が!
 一回りも年下の、しかも自分の教え子に手出して、避妊もしていない!!
 しかも朝から盛りまくってる!!!
 おまけに自分からした約束もきれいさっぱり忘れてる!!!!」
「ハル、そのくらいにしてあげて。」
「シゲは何でそんなに…。」
「だって、テルは本気みたいだからね。」
「はぁ?」
「そうだろ? でなかったら、指輪なんて贈ったりしないよね?」
「シゲ…。」

重綱は薫の左手薬指に嵌ったシルバーリングに視線をやっていた。
伊達はその視線から庇うように薫の手に自分のそれを重ねる。

「なんでそんなに焦ってるんだ?」
「そ、それは…。」
「テル、僕は別に怒ってるんじゃないんだ。
 ただ、納得がいかない。
 こんな囲い込むような強引な手を使う必要性を見いだせない。」
「そ、それ、多分、私のせいです。」
「薫ちゃん?」
「どういうことか説明してもらえるかしら?」
「ハル、だから、それ怖いって…。」
「うるさい!」
「あのぉ、話、進めても?」
「ああ、どうぞどうぞ。」

重綱に勧められて薫は自身の家庭環境について語り始める。
自分が母の着せ替え人形だったこと。
何時しかその母を疎ましく思い始めたこと。
そして、7年前に感情がコントロールできずにすべてを壊そうとしてしまったこと。
父や弟、叔父夫婦の助けがあって平静を取り戻せたこと。
伊達にも打ち明けていなかったことも含め、薫はすべてを語った。

「そんなことがあったのねぇ。」
「えっと、は、晴海さん?」
「あぁ、もう、私のことは『お義姉ねえさん』って呼んでいいから。」

いつの間にか隣に来た晴海はぐりぐりと頬擦りしながら薫のことを抱きしめてる。
それを伊達が不機嫌な顔をしながらどうすべきか攻めあぐねている。
ただ一人、重綱だけが難しい顔をしていた。

「シゲ、どうしたの?」
「うん?」
「お前、かなり難しい顔をしてる。」
「その自覚はあるね。
 薫ちゃん、いくつか聞きたいことがあるんだけどいい?」
「あ、はい。」
「薫ちゃんのお父さん。
 もしかして、O.T.C.ホールディングの結城猛専務?」
「!!!」
「ああ、やっぱりそうなんだ…。」
「重綱さんは父をご存じなんですか?」
「知ってるというか…。 僕の父の顧客クライアント。」
「え?」
「片倉景綱って言ったらわかるかな?」
「ま、まさか、そんな…。
 じゃあ、あのこと・・・・もご存じなんですか?」
「うん、まあね。
 もともと僕はM医科大学で結城ゼミに在籍してたんだ。
 教授から『いい弁護士を紹介してほしい』と頼まれてね。
 それで、父を紹介したってわけ。」
「そうだったんですか…。」
「シゲ、そこで結城教授が出てくるの?」
「薫ちゃんは結城教授の姪御さんだからだよ。
 今は養子縁組して教授の娘さんになってるんだっけ?」
「はい、その、片倉弁護士のおかげで…。」
「そうか。」
「シゲ、お前、薫の何を知っている?」

今度は伊達が不穏な空気を纏っている。
重綱をこれでもかと睨み付けているのだ。

「テル、そんなに睨んでも何も出ないよ。」
「でも、何か、気に入らん。」
「僕の父が弁護士で、恩師がたまたま薫ちゃんの叔父さんで、『弁護士を紹介してほしい』と頼まれたから父を紹介しただけ。」
「何で…。」
「今、薫ちゃんが話したことに関係してる。」
「もしかして、教授が話してたのって薫ちゃんのことなの?」
「今聞いた話と僕らの知ってる話を総合すると辻褄が合う。」
「だからあの時…。」

晴海はそこで口を噤み、視線を泳がせ始める。

「恐らくそうだろう。
 父さんには守秘義務があるから僕に言うことはない。
 でも、クライアントである教授が明かしたとあれば問題はないはず。
 そう思ったんだろうね。」
「それだけ、教授は薫ちゃんの行く末を案じてたってことね。」
「おい、お前たちだけで納得するな!!」
「あ、ごめんごめん。」
「で?」
「うん、あれは7年前の夏だったかな?
 兄夫婦が揉めて収拾がつかなくなってて困ってるって相談を受けたんだよ。」
「相談?」
「姪御さんが母親との軋轢に耐え切れず暴れて、手が付けられない。
 非常にデリケートな問題なので極秘裏に処理したいので、優秀な弁護士を僕に仲介してほしいって。」
「そういうことか…。」
「で、テルはこの話聞いても薫ちゃんの手を取ることを躊躇ためらわない?」
「は? なんでそこで俺が躊躇うと思うんだ?」
「だって、今の話ってかなりヘビーだと思うけど。」
「それを言ったら、俺の女性関係と性癖の方がヘビーだ。」
「テル、あんた、ソレ、自慢にならないから。」
「輝臣さん…。」

晴海はおろか薫も呆れた顔をしている。
が、伊達本人は至って真面目なので重綱は苦笑するしかなかった。

「まぁ、そう言うならいいか。」
「シゲ?」
「実は薫ちゃんの養子縁組は母親には知らせていない。」
「どういうことだ。」
「母親には『一時的に預ける』とだけ伝えてあるって。」
「それが今になって、母親の知るところになった?」
「そうらしい。
 で、すべての矛先が薫ちゃんに向いたみたいだね。」
「随分、勝手な人ね。」
「考えようによってはその程度で済んでよかったよ。」
「そうだな、傷害事件が起こらなかっただけマシだ。」
「あの人にそんな気概はありませんよ。」
「薫?」
「所詮、その程度の人なんです。
 自分の意見を通そうとしなかったくせに、すべてを周りのせいにして…。」

薫の瞳には昏く冷たい光が宿っていた。
それは母親に対すると嫌悪と憤りからくるものであろう。
三人はそう理解した。

「で、今回は薫ちゃんの就職活動の妨害ってわけか…。」
「やることせこい。」
「その程度が精いっぱいってことだね。」
「さて、薫ちゃんの話はこれくらいにして。
 次はテルね。 何でこんなことしてるのか、話せ。」
「こんなこと?」
「だから、薫ちゃんを囲って孕ませようとしてること。」
「ああ、それは、だな…。」
「?」
「俺が薫に『永久就職しないか』って言ったからだ。」
「「は?」」

伊達の言葉に片倉夫妻の疑問の声が重なる。
そして、ばつの悪そうな顔をして話を続ける伊達。

「つまり、その、だな…、既成事実を作ろうと思ったんだ。
 酔った勢いでお持ち帰りして、避妊も忘れて抱いて、その結果孕ませた。
 で、責任とって嫁にしようって…。」
「テル、最低…。」
「短絡的すぎるだろ。」
「悪かったな。 それ位しか思いつかんかったんだ。
 それに、聞いてしまったから…。」
「何を?」
「薫が母親の勧めに従って見合いして結婚しようと思ってるって。」
「それは如何ともしがたいな。」
「俺はその時になって自分の気持ちに気付いた。
 薫を誰にも渡したくない。 だったら自分のものにしようってな。
 幸い、薫も俺のことを拒まなかった。 だから、ここにこうして囲ったんだ。」
「それにしても、激しすぎだろ。
 お前、どんだけ盛ってるかわかってる?」
「いや、それは、その、あれだ!」
「何?」
「き、危険日に中出ししても妊娠確率は3割ほどだって…。」

スパーーーーーン!!!

リビングに大きな音が響き渡る。
晴海が履いていたスリッパを脱ぎ、それで伊達の頭を殴ったからだ。

「ってぇな。」
「テル! あんた、それ真に受けてたの?」
「いや、だって…。 色々検索したらそう…。」
「バカたれ! そんなもんあくまでも確率だ!! か・く・り・つ!!
 真に受けるんじゃない!!」
「そ、そうなのか?」
「そうなの!! アンタも薫ちゃんもまだ若いんだからそんなにがっつかなくてもできるもんはできる。」
「あ、そうだったのか…。」

伊達はショックを受けたようで項垂れた。

「い、一応、聞いとくけど最高何回盛ったんだ?」
「う~~~ん…。」

伊達は眉間に皺を寄せて、指折り数える。
途中で思案するようなそぶりを見せたので重綱は嫌な予感がしてきた。
案の定、伊達の発言にげんなりする羽目になる。

「最初の夜が5回だったから…。 最高は一日に10回か?」
「はぁ?」
「うん、多分10回は出した。」

その場がシーンと凍り付く。
ただ一人、薫だけが羞恥にまみれて顔を赤くし俯いていた。
その横で、晴海がわなわなと震え出す。
そして、ブリキのおもちゃのようにギギギギと音がしそうな勢いで薫に振り向く。
その顔の口からは真っ黒い怒りのオーラが吐き出されているかのようだった。

「は、晴海さん?」
「薫ちゃん、正直に答えてくれる?」
「はい、なんでしょう?」
「薫ちゃんってテルが初めてだったんだよね?」
「…………。」

晴海の質問に言葉が出ずにただただ真っ赤になって俯くばかりの薫。
その態度から晴海は伊達が初めての相手だと察した。
そして、怒りのボルテージは最高潮に達した。

「テル!! そこになおれ!!」
「はぁ?」
「その、考えなしの逸物をちょん切ってやるわ!!!」
「わっ!! ハル、いきなり何しやがる!!!」
「何じゃないわ!! この考えなしの絶倫筋肉が!!!」
「は、晴海さん?!」
「は、ハル、やめろって!!」
「ええい、離せ!! このスカポンタンをぶった切る!!!」
「き、気持ちは分かるがそれはダメだって。」
「うるさい! だいたい、どこの世界に処女相手に5回も盛る馬鹿がいる?!」
「お、俺?」
「てめぇは!!!」

重綱は晴海を後ろから羽交い絞めにして引き離しにかかる。
伊達は憮然としてその様子を見ており、それが晴海の怒りに油を注いでいた。
結局、重綱では晴海を抑えることができず、伊達は2~3発顔に拳を受けた。

「だ、大丈夫ですか?」
つうっ。」
「ご、ごめんなさい。 痛かった?」
「大丈夫。 ちょっと滲みただけだ。」

伊達は微笑んで見せる。
薫はホッとして笑顔を見せる。
もはやそこには甘い雰囲気しかない。
そのことにイライラする晴海。
まだ、怒りのオーラがくすぶっているのが見て取れ、隣にいる重綱は苦笑せざるを得ない。

「そういや、薫ちゃんっていつからここにいるの?」
「えっと…、試験の終わった日からなので。2週間?」
「マジで?」
「はい。」
「信じられん。」
「重綱さん?」
「それから毎日毎晩テルとヤッてたってことだよね?」
「は、はい…。」
「よく、体力持ったね。」
「あ、それは、私、ずっとサッカーやってて、体力っていうか持久力はあって…。
 その…、輝臣さんは優しくしてくれてたし…。」
「いや、処女に5回も中出しは優しくない。」
「そう、なんですか?」
「てか、そうやって盛りまくるから女に逃げられて、今まで独身だったんだよ。
 あ、でも、ちゃんと避妊はしてたけどね。」

伊達は過去の女性関係に触れられて、眉間に皺が寄る。
だが、薫はそのことについて特に気にしてないらしくてキョトンとしている。
薫にとって伊達が初めての男でそれ以外を知らないから比べようがない。
故に今まで自分が強いられて行為が激しかったという認識がないのだ。

「まぁ、なんていうか。 『割れ鍋に綴じ蓋』ってことだね。」
「何よ、それ。」
「テルにとって薫ちゃんは似合いの相手で、逆も然りってこと。
 まぁ、アレで中イキできるんだから、体の相性はいいんだろうしね。」

重綱の言葉は先ほど見た二人の痴態を思い出す晴海。
アレでイケるようになるのはそれなりの回数と体の相性が必要だ。
だから、この二人は結ばれるべくして結ばれた二人なのだろう。

「まぁ、もう、いいや。」
「ハル?」
「薫ちゃんがテルでいいって言うなら、私らは口を挟むことじゃないから。」
「晴海さん…。」
「じゃ、そろそろ本題に入ろうか。」
「シゲ…。」
「テルは僕たちに『お願い』があってここに呼んだんだろ?」
「ああ。」

伊達はソファを立ち、寝室に入る。
戻ってくるとその手には例の用紙を持っていた。

「その、これの保証人になってほしいんだ。」

そう言って伊達が差し出したのは婚姻届。
既に伊達と薫の署名が入っていた。

「それで印鑑持って来いって言ってたのか。」
「頼めるか?」
「署名しないと一生恨むつもりだろ?」
「…………。」
「しょうがないなぁ。書くよ。 ハル、いいよね?」
「そうね。 お互い本気なら私も何も言わないわ。」

こうして薫の永久就職はまた一歩近づいた。

「テル、薫ちゃんとデートくらいはしなさいよ。」
「わかってる。 金曜日に思い出に残るのをを計画してる。」
「それなら良かった。」
「デートコースとか困ったらいつでも相談に乗るよ。」

重綱が伊達の肩を叩きながら、耳打ちをする。

「オイスターバーでディナーにしろ。」
「は?」
「やり過ぎると精液が薄くなるんだよ。
 牡蠣食ってそっちも濃くなるからさ。」

シゲは不敵な笑みを浮かべて部屋を後にしたのだった。

****************************************************************

「はぁ…。」
「大丈夫か?」
「あ、はい。 ちょっとビックリしたくらい。」
「すまん。 二人を呼んでたのすっかり忘れてた。」
「輝臣さんでもそんなことあるんですね。」
「それだけ俺は薫に夢中なんだ。」
「あ、あんまり、恥ずかしいこと言わないでください。」
「本当のことだから仕方ない。」
「もう…。」

自分の甘い言葉に更に恥ずかしがる薫。
それを優しく抱きしめ、キスをする。
それだけで、伊達の心は満たされていく。
すると、収まっていたはずの熱が再び集まってくる。

「薫…。 もう一度…。」

そう言いかけたところで、スマホの着信音が鳴る。

「あ、私のだ。」

肩透かしを食らった伊達は少し不機嫌な顔になる。
それをよそに薫は自身のスマホの画面を見て訝しむ。
そこに表示されていたのは見知らぬ番号。

(あ、国際電話か。 あれ? この国番号は…。)

嫌な予感がしたが、薫は通話ボタンを押した。

【ハ、ハロー?】
【やっと繋がった!!】
【え?】
【もう、メールしても返事ないし、ツイッターにも反応ないから心配したよ。】
【ク、クレア? ど、どうしてこの番号…。】
【マサトよ。 彼に聞いたの。
 カオルと連絡が取れないって言ったら色々調べくれたわ。
 で、カレッジの友人にコンタクト取ってくれて。】
【里佳子?】
【そう、そのリカコって人からカオルが長年の片思いを成就させて、彼と一緒にいる筈だって教えてくれたの。】
【片思いを成就って…。】
【あら、違った?】
【違わない…。】
【でも、良かったね。
 これでディーノとシャーリーも安心させれるわ。】
【あの二人、元気なの?】
【ええ、去年のクリスマスにベビーが生まれたのよ。
 男の子と女の子の双子のね。】
【そうなんだ。】
【あ、それでね。 突然なんだけど、来月そっちに行くから。】
【は?】
【シャーリーがどうしてもカオルにベビーを会わせたいんだって。
 そしたら、ディーノも久しぶりに会いたいっていうの。】
【な、何言ってるのよ。 ディーノは試合が…。】
【今はシーズンオフよ。】
【あ、そっか…。】
【ついでに、カルロスも休暇中だから私のプライベートジェットで行くからね。】
【ほ、本気なの?】
【勿論よ。 あ、宿泊先はこっちで手配するから迎えだけよろしくね。】
【迎えって…。 私、車持ってないわよ。】
【あら?彼氏は持ってるでしょ?】
【うぅぅぅ…。】
【そいうこと。 じゃ、また近くなったらメールするわ。】
【う、うん…。】
【えっと、マサトからモバイルのアドレス聞いてるんだけど、そっちの方がいい?】
【ええ、そうして。】
【じゃ、また連絡するわ。】

薫は通話終了ボタンを押した。
クレアとの怒涛の会話が終わり一気に脱力する。
もう、ため息しか出てこない。
ソファにへたり込むように座る。
ふと、顔を上げると伊達が唖然としていた。

「輝臣さん?」
「薫、今のは?」
「アメリカの友人からの国際電話。」
「アメリカ?」
「うん。 子供のころからやってたサッカー関係の…。」
「サッカー関係って…。」
「一時期、日本代表候補に挙がるくらいだったから、夏休みに渡米してたことがあるの。
 その時からの友人・・・。」
「日本代表候補?!」
「あ、あくまでも候補だから…。」
「い、いや、候補に挙がるだけでもすごいじゃないか?!」
「でも、もうやめちゃったから…。」
「やめた理由、聞かない方がいいか?」
「うん、近いうちに話すけど、今は…。」
「わかった。 今は聞かない。」
「ありがとう…。」

伊達は薫の隣に座り、優しく抱きしめる。
どこか泣きそうなその顔にそうせざるを得なかったのだ。
薫はその広く大きな背に手を回す。
伊達の大きく力強い胸に顔を埋めると心が凪いでいく。
それが心地よくて薫はまどろみの海へと漕ぎ始める。

「薫? 少し寝るか?」
「うん…。 ここで寝ていいかな?」
「ああ、構わんよ。」
「お願い、このまま抱きしめてて。」
「分かった。」

薫は伊達の温もりの中、眠りに落ちていったのだった。

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