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恋人編~同棲始めました~
那須高原へ行こう~其の弐~
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えっと、視点が何度か変わります。
そして途中、人外の視点が登場します。
********************************************
那須高原へ行こう~其の弐~
私たちは車に揺られて那須高原を目指してます。
雅之さん、とっても嬉しそう。
全然起きないから、ちょっと意地悪なこと囁いたら顔面蒼白になって飛び起きたのには笑ってしまった。
多分、デートプランとか考えてくれてたんだろうなぁ。
次の週末は彼に付き合おうと思う。
だって、彼のカバンの中に私が見たいって言ってた映画のチケットが入ってたから…。
「雅之さん、疲れてないですか?」
「大丈夫だが、無理しすぎるのもよくないな。
どっかのSAで休憩するか。」
「そうですね。」
そうやって休憩を取りつつ目的のコテージに到着したのはお昼前。
しょっちゅう利用しているので勝手知ったるなんとやら。
荷物の片づけはあっという間に終わって二人で昼食取ってます。
「佳織はここへはよく来るのか?」
「はい、近くの牧場に馬を預けてるので…。」
「馬?」
「中川物産の野田専務が私の母の弟なのは知ってますよね。」
「ああ。 遥香の結婚式の時に…。」
「実家が生産牧場をしていることは?」
「去年、専務と会った時に聞いた。」
「牧場に預けてる馬はそこで生まれた仔なんです。
でも、色々事情があって競走馬になれなくて…。
無理を言って私が引き取ってそこの牧場に預けてるんです。」
「なるほど、その仔に会いに来てるという訳か。」
「はい。」
食後のコーヒーを飲みながらその話をしつつ、私はここに来た目的も話すことに。
「で、この後その牧場に向かいたいんです。」
「俺も一緒に?」
「一緒に乗馬を楽しみたいと思ってるんです。
ダメ、ですか?」
「ダメってことはないが、俺、初心者だぞ?」
「そこは心配しなくてもいいですよ。
私が手取り足取り教えます。」
「ぶっ!」
あ、雅之さんがむせた。
もう、絶対変な想像してる。
「兎に角、この後牧場に向かいたいんで車出してくださいね。」
「あ、ああ、わかった。」
そのあと、二人で件の牧場に向かいました。
本当の目的は話さずに…。
でも、なんとなく大丈夫なような気がする。
きっとあの仔は雅之さんこと分かってくれるはずだから…。
****************************************************************
俺はいつも通り、放牧場で草を食んでいた。
ここは故郷によく似ていて、静かで穏やかな時が流れている。
俺の名前は『アリオーン』。
競走馬になれなかった俺を助けてくれた彼女が付けてくれた。
遠い異国の神話に出てくる神様の息子で神速の名馬の名前だそうだ。
出来損ないの俺にどうしてそんな名前をくれたのか?
周りの人間たちも不思議がった。
「だって、この仔の走る姿は今まで見てきた中で一番キレイだから。」
彼女はそう言ってほほ笑んで、俺に生きる場所を与えてくれた。
本来なら俺はこんなところでのんびりしてる場合じゃない。
俺のことを救ってくれた彼女のためにもここにいる他の奴ら同様に観光客を背に乗せて乗馬ツアーに参加しなきゃならない。
でも、俺は嫌だった。
彼女以外は乗せない。
それは俺のなけなしのプライドだ。
そんな彼女としばらく会っていない。
≪佳織、どうしてるのかなぁ?
そういや、こないだ来たとき新しい恋人ができるかもって言ってたなぁ。
そいつと楽しく過ごしてるからここに来ないのかなぁ。≫
などと、ぼんやり考えながら草を食んでるとどこからともなく口笛が聞こえてくる。
それは俺のことを呼ぶ口笛。
会いたくてしょうがない彼女の口笛だ。
俺は口笛のする方へと駆け出した。
彼女が会いに来てくれた。
それだけで俺は嬉しくて、体は高揚感でいっぱいになる。
やがて見えた彼女の姿。
だが、その隣には今まで見たことのない男が立っていた。
それは彼女の好みど真ん中の男だった。
****************************************************************
「ブルルルル…。≪佳織…。≫」
「アリオーン!
元気だった? なかなか来れなくてごめんね。」
私は目の前の青鹿毛の馬の顔を撫でてやる。
目を細め気持ちよさそうにしてるのがわかる。
でも、すぐに隣の雅之さんに気付いて鼻息荒くしてる。
「佳織、この馬がそうなのか?」
「うん、この仔がアリオーン。
競走馬にはなれなかったけど、走るフォームが綺麗だから無理言って私が引き取ったの。
調教入る前だったから、乗馬用の訓練させてここに置いてもらってる。」
「へぇ…。」
「でも、変にプライドが高くて私以外は乗せないんだけど。」
「それって牧場的には…。」
「ブルルルル!!!≪うるせぇ!≫」
「わぁっ!」
「アリオーン!」
「フゥゥ≪チッ≫」
アリオーンの鼻息がかなり荒い。
雅之さんに敵意むき出しだ。
やっぱ気に入らないのかなぁ。
出来たらアリオーンに認めてほしいんだけど…。
「佳織さ~~~ん。」
「速水さん。」
馬房のある方から声がして振り返ると、牧場の管理を任せてる速水さんだ。
「流石ですね。
口笛だけでこいつが戻ってくるなんて。
俺たちじゃどんなに呼んでもダメななのに…。」
「こいつにとって佳織は特別な存在ってことか…。」
雅之さんが真剣な顔でアリオーンを見ている。
えっと、何だか対決オーラが見えるのは気のせいでしょうか?
「佳織さん、これ…。」
「あ、すみません。」
「久しぶりだからこいつを思いっきり走らせてください。」
「分かりました。 ありがとうございます。」
速水さんが持ってきてくれたのはいつも使ってる鞍だった。
私はアリオーンに鞍をのせて腹帯を締めてやる。
準備は整ったのだけど…。
何故か、アリオーンは雅之さんをじっと見てます。
「…………。」
「ブルルルルルル…。」
まさに一触即発な感じが否めないんですが。
「佳織…。 俺、こいつに乗ってもいいか?」
「え? で、でも。 この仔…。」
「良くわからんが『乗れ』って言われてる気がするんだ。」
「そ、そう?」
「ああ。 基本的なことはさっき教えてもらったから大丈夫だ。」
雅之さんがそう言って譲らない。
それに答えるかのようにアリオーンが策に掛けてあった手綱を咥えてきて雅之さんに差し出す。
「フッ、フゥゥゥ…。≪とっとと乗りやがれ≫」
「喧嘩売ってるのか?」
手綱を受けとりながら雅之さんはアリオーンを睨んでます。
大丈夫かな?
なんか、不安になってきたんだけど…。
でも、雅之さんは受けて立つって雰囲気を醸し出しててとても止めれる状態ではないです。
雅之さんはさっき教えて通りに手綱をつけます。
その姿が様になってて思わず見とれてしまう。
あっという間にアリオーンの背に乗ってしまいました。
うわぁ、これでティンガロンハットとか被ったら完全にアウトローのガンマンじゃないですか!
ヤバい、超カッコいい。
などと、興奮気味に見とれていたら、アリオーンが嘶きとともに走り出してしまいました。
「ヒィィィィィィィン!!!≪全速力で走ってやるぜ≫」
「うぉっ!!」
それでも、雅之さんは落ち着いていて全然振り落とされる気はしない。
やっぱ、スポーツやってた人はバランス感覚が違うんだろうね。
明らかにアリオーンは振り落とす気満々なのに雅之さんは体がブレてない。
流石です、惚れ直しちゃいますわ。
――――――――一方、雅之は――――――――
「くっ! こいつ…。」
「フッ、フッ、フッ。」
俺は必死で鞍にしがみつく。
手綱を引いても止まる気配はない。
「おい、いつまでそんな走り方をするつもりだ!」
俺は一喝して思いっきり手綱を引く。
すると、コイツは前足を跳ね上げ嘶く。
「うわっ!」
俺は振り落とされてしまった。
「痛…。」
「ブルルルルルゥゥゥ≪その程度かよ≫」
「なんだ、コイツ…。」
「ブゥゥゥゥゥ!!≪俺はアリオーンだ≫」
「やっぱり、喧嘩売ってるのか?」
「フゥゥゥ!!≪よくわかったな≫」
「…………。」
何だろう、何故かコイツの言ってることがわかるような気がする…。
ああ、きっと俺は試されてるんだ、佳織に相応しい男かどうか。
「なぁ、お前から見て俺はどう見えるんだ?」
「フッ、フゥゥ!≪とりあえず、及第点≫」
何だろう、コイツの目は『認めってやっていい』と言っているようだった。
「ありがとな。」
「ヒィィン≪佳織を泣かすなよ!≫」
俺はコイツの…、アリオーンの首を撫でてやった。
すると、アリオーンが俺の頬を舐めてた。
「うぉ! 何する?!」
「ブルルルル≪友情の証だ≫」
で、結局俺は再びアリオーンの背に乗せてもらった。
さっきとは違い気持ちよさそうに走っている。
ああ、きっとこいつは走ることがとても好きなんだ。
そうわかる走りだった。
やがて元いた場所に戻ってきた。
「雅之さん、大丈夫だった?」
「ああ、大丈夫だ。 ちょっと振り落とされそうになったけどな。」
「振り落とされって、怪我とかしてないですか?」
「全然大丈夫だ。」
「ならいいですけど。」
俺は佳織を引き寄せ、そのまま唇を重ねる。
突然のことに佳織の顔が赤くなっているのがわかる。
「ま、雅之さん?!
い、いきなりどうしたんですか?」
「うん? いとしい恋人に口付けしただけだ。」
「…………。」
佳織は真っ赤になって俯いた。
俺はアリオーンに勝ち誇ったような笑みを向けた。
ヤツは地団太を踏むように前足を掻く。
すると、少し離れていき、振り返ったかと思うと走り出し、俺たちを隔てていた柵を乗り越えた。
「え?」
驚いて唖然としていると、ヤツが近づいてきて…。
「ヒィィィィィィィン!!!≪佳織から離れやがれ!!≫」
嘶きとともに噛みつかれたのだった。
「いでででで…。 や、やめろぉぉ!!」
牧場内に俺の雄たけびが響き渡った。
それでもヤツは怒りを収める様子はなかったのだが。
「アリオーン!!! それ以上やったらご飯抜きよ!!!!」
という、佳織の一喝であっという間におとなしくなった。
恐らく、佳織の後ろに真っ赤に燃え上がる炎のような怒りのオーラが見えたのかもしれない。
教訓
佳織さんは怒らせてはいけない人です。
かくして、俺とアリオーンの初対決は引き分けに終わったのだった。
コイツに認めてもらえたのはもう少し後の話である。
************************************************
アリオーンは祖父似の青鹿毛です。
父はダービー馬のSW。(Y.T氏に初めてダービー勝たせてくれた馬で、超有名な映画ではないです)
母はグランプリホースのSL(某三冠馬と同世代の遅咲きホース)産駒
って、設定です。
すみません。
氷室が昔追っかけてた馬の子供をどうしても出したくてこんなはなしになっちゃいました。
時々出てくるかもしれません。
因みにアリオーンの誕生日は父と同じ5月2日。
競走馬としては遅生まれです。
そして途中、人外の視点が登場します。
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那須高原へ行こう~其の弐~
私たちは車に揺られて那須高原を目指してます。
雅之さん、とっても嬉しそう。
全然起きないから、ちょっと意地悪なこと囁いたら顔面蒼白になって飛び起きたのには笑ってしまった。
多分、デートプランとか考えてくれてたんだろうなぁ。
次の週末は彼に付き合おうと思う。
だって、彼のカバンの中に私が見たいって言ってた映画のチケットが入ってたから…。
「雅之さん、疲れてないですか?」
「大丈夫だが、無理しすぎるのもよくないな。
どっかのSAで休憩するか。」
「そうですね。」
そうやって休憩を取りつつ目的のコテージに到着したのはお昼前。
しょっちゅう利用しているので勝手知ったるなんとやら。
荷物の片づけはあっという間に終わって二人で昼食取ってます。
「佳織はここへはよく来るのか?」
「はい、近くの牧場に馬を預けてるので…。」
「馬?」
「中川物産の野田専務が私の母の弟なのは知ってますよね。」
「ああ。 遥香の結婚式の時に…。」
「実家が生産牧場をしていることは?」
「去年、専務と会った時に聞いた。」
「牧場に預けてる馬はそこで生まれた仔なんです。
でも、色々事情があって競走馬になれなくて…。
無理を言って私が引き取ってそこの牧場に預けてるんです。」
「なるほど、その仔に会いに来てるという訳か。」
「はい。」
食後のコーヒーを飲みながらその話をしつつ、私はここに来た目的も話すことに。
「で、この後その牧場に向かいたいんです。」
「俺も一緒に?」
「一緒に乗馬を楽しみたいと思ってるんです。
ダメ、ですか?」
「ダメってことはないが、俺、初心者だぞ?」
「そこは心配しなくてもいいですよ。
私が手取り足取り教えます。」
「ぶっ!」
あ、雅之さんがむせた。
もう、絶対変な想像してる。
「兎に角、この後牧場に向かいたいんで車出してくださいね。」
「あ、ああ、わかった。」
そのあと、二人で件の牧場に向かいました。
本当の目的は話さずに…。
でも、なんとなく大丈夫なような気がする。
きっとあの仔は雅之さんこと分かってくれるはずだから…。
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俺はいつも通り、放牧場で草を食んでいた。
ここは故郷によく似ていて、静かで穏やかな時が流れている。
俺の名前は『アリオーン』。
競走馬になれなかった俺を助けてくれた彼女が付けてくれた。
遠い異国の神話に出てくる神様の息子で神速の名馬の名前だそうだ。
出来損ないの俺にどうしてそんな名前をくれたのか?
周りの人間たちも不思議がった。
「だって、この仔の走る姿は今まで見てきた中で一番キレイだから。」
彼女はそう言ってほほ笑んで、俺に生きる場所を与えてくれた。
本来なら俺はこんなところでのんびりしてる場合じゃない。
俺のことを救ってくれた彼女のためにもここにいる他の奴ら同様に観光客を背に乗せて乗馬ツアーに参加しなきゃならない。
でも、俺は嫌だった。
彼女以外は乗せない。
それは俺のなけなしのプライドだ。
そんな彼女としばらく会っていない。
≪佳織、どうしてるのかなぁ?
そういや、こないだ来たとき新しい恋人ができるかもって言ってたなぁ。
そいつと楽しく過ごしてるからここに来ないのかなぁ。≫
などと、ぼんやり考えながら草を食んでるとどこからともなく口笛が聞こえてくる。
それは俺のことを呼ぶ口笛。
会いたくてしょうがない彼女の口笛だ。
俺は口笛のする方へと駆け出した。
彼女が会いに来てくれた。
それだけで俺は嬉しくて、体は高揚感でいっぱいになる。
やがて見えた彼女の姿。
だが、その隣には今まで見たことのない男が立っていた。
それは彼女の好みど真ん中の男だった。
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「ブルルルル…。≪佳織…。≫」
「アリオーン!
元気だった? なかなか来れなくてごめんね。」
私は目の前の青鹿毛の馬の顔を撫でてやる。
目を細め気持ちよさそうにしてるのがわかる。
でも、すぐに隣の雅之さんに気付いて鼻息荒くしてる。
「佳織、この馬がそうなのか?」
「うん、この仔がアリオーン。
競走馬にはなれなかったけど、走るフォームが綺麗だから無理言って私が引き取ったの。
調教入る前だったから、乗馬用の訓練させてここに置いてもらってる。」
「へぇ…。」
「でも、変にプライドが高くて私以外は乗せないんだけど。」
「それって牧場的には…。」
「ブルルルル!!!≪うるせぇ!≫」
「わぁっ!」
「アリオーン!」
「フゥゥ≪チッ≫」
アリオーンの鼻息がかなり荒い。
雅之さんに敵意むき出しだ。
やっぱ気に入らないのかなぁ。
出来たらアリオーンに認めてほしいんだけど…。
「佳織さ~~~ん。」
「速水さん。」
馬房のある方から声がして振り返ると、牧場の管理を任せてる速水さんだ。
「流石ですね。
口笛だけでこいつが戻ってくるなんて。
俺たちじゃどんなに呼んでもダメななのに…。」
「こいつにとって佳織は特別な存在ってことか…。」
雅之さんが真剣な顔でアリオーンを見ている。
えっと、何だか対決オーラが見えるのは気のせいでしょうか?
「佳織さん、これ…。」
「あ、すみません。」
「久しぶりだからこいつを思いっきり走らせてください。」
「分かりました。 ありがとうございます。」
速水さんが持ってきてくれたのはいつも使ってる鞍だった。
私はアリオーンに鞍をのせて腹帯を締めてやる。
準備は整ったのだけど…。
何故か、アリオーンは雅之さんをじっと見てます。
「…………。」
「ブルルルルルル…。」
まさに一触即発な感じが否めないんですが。
「佳織…。 俺、こいつに乗ってもいいか?」
「え? で、でも。 この仔…。」
「良くわからんが『乗れ』って言われてる気がするんだ。」
「そ、そう?」
「ああ。 基本的なことはさっき教えてもらったから大丈夫だ。」
雅之さんがそう言って譲らない。
それに答えるかのようにアリオーンが策に掛けてあった手綱を咥えてきて雅之さんに差し出す。
「フッ、フゥゥゥ…。≪とっとと乗りやがれ≫」
「喧嘩売ってるのか?」
手綱を受けとりながら雅之さんはアリオーンを睨んでます。
大丈夫かな?
なんか、不安になってきたんだけど…。
でも、雅之さんは受けて立つって雰囲気を醸し出しててとても止めれる状態ではないです。
雅之さんはさっき教えて通りに手綱をつけます。
その姿が様になってて思わず見とれてしまう。
あっという間にアリオーンの背に乗ってしまいました。
うわぁ、これでティンガロンハットとか被ったら完全にアウトローのガンマンじゃないですか!
ヤバい、超カッコいい。
などと、興奮気味に見とれていたら、アリオーンが嘶きとともに走り出してしまいました。
「ヒィィィィィィィン!!!≪全速力で走ってやるぜ≫」
「うぉっ!!」
それでも、雅之さんは落ち着いていて全然振り落とされる気はしない。
やっぱ、スポーツやってた人はバランス感覚が違うんだろうね。
明らかにアリオーンは振り落とす気満々なのに雅之さんは体がブレてない。
流石です、惚れ直しちゃいますわ。
――――――――一方、雅之は――――――――
「くっ! こいつ…。」
「フッ、フッ、フッ。」
俺は必死で鞍にしがみつく。
手綱を引いても止まる気配はない。
「おい、いつまでそんな走り方をするつもりだ!」
俺は一喝して思いっきり手綱を引く。
すると、コイツは前足を跳ね上げ嘶く。
「うわっ!」
俺は振り落とされてしまった。
「痛…。」
「ブルルルルルゥゥゥ≪その程度かよ≫」
「なんだ、コイツ…。」
「ブゥゥゥゥゥ!!≪俺はアリオーンだ≫」
「やっぱり、喧嘩売ってるのか?」
「フゥゥゥ!!≪よくわかったな≫」
「…………。」
何だろう、何故かコイツの言ってることがわかるような気がする…。
ああ、きっと俺は試されてるんだ、佳織に相応しい男かどうか。
「なぁ、お前から見て俺はどう見えるんだ?」
「フッ、フゥゥ!≪とりあえず、及第点≫」
何だろう、コイツの目は『認めってやっていい』と言っているようだった。
「ありがとな。」
「ヒィィン≪佳織を泣かすなよ!≫」
俺はコイツの…、アリオーンの首を撫でてやった。
すると、アリオーンが俺の頬を舐めてた。
「うぉ! 何する?!」
「ブルルルル≪友情の証だ≫」
で、結局俺は再びアリオーンの背に乗せてもらった。
さっきとは違い気持ちよさそうに走っている。
ああ、きっとこいつは走ることがとても好きなんだ。
そうわかる走りだった。
やがて元いた場所に戻ってきた。
「雅之さん、大丈夫だった?」
「ああ、大丈夫だ。 ちょっと振り落とされそうになったけどな。」
「振り落とされって、怪我とかしてないですか?」
「全然大丈夫だ。」
「ならいいですけど。」
俺は佳織を引き寄せ、そのまま唇を重ねる。
突然のことに佳織の顔が赤くなっているのがわかる。
「ま、雅之さん?!
い、いきなりどうしたんですか?」
「うん? いとしい恋人に口付けしただけだ。」
「…………。」
佳織は真っ赤になって俯いた。
俺はアリオーンに勝ち誇ったような笑みを向けた。
ヤツは地団太を踏むように前足を掻く。
すると、少し離れていき、振り返ったかと思うと走り出し、俺たちを隔てていた柵を乗り越えた。
「え?」
驚いて唖然としていると、ヤツが近づいてきて…。
「ヒィィィィィィィン!!!≪佳織から離れやがれ!!≫」
嘶きとともに噛みつかれたのだった。
「いでででで…。 や、やめろぉぉ!!」
牧場内に俺の雄たけびが響き渡った。
それでもヤツは怒りを収める様子はなかったのだが。
「アリオーン!!! それ以上やったらご飯抜きよ!!!!」
という、佳織の一喝であっという間におとなしくなった。
恐らく、佳織の後ろに真っ赤に燃え上がる炎のような怒りのオーラが見えたのかもしれない。
教訓
佳織さんは怒らせてはいけない人です。
かくして、俺とアリオーンの初対決は引き分けに終わったのだった。
コイツに認めてもらえたのはもう少し後の話である。
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アリオーンは祖父似の青鹿毛です。
父はダービー馬のSW。(Y.T氏に初めてダービー勝たせてくれた馬で、超有名な映画ではないです)
母はグランプリホースのSL(某三冠馬と同世代の遅咲きホース)産駒
って、設定です。
すみません。
氷室が昔追っかけてた馬の子供をどうしても出したくてこんなはなしになっちゃいました。
時々出てくるかもしれません。
因みにアリオーンの誕生日は父と同じ5月2日。
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