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第九章 飲み会明けの機動部隊
混沌を求める者
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「そんなに簡単にいくんですか?」
誠に出来ることはそう尋ねることだけだった。
「なあに、やらにゃあならん。『官派』の有力者である近藤は、特に公然と活動を行っている武闘派として知られてる男だ。ゲルパルトの残党連中や東和の経済界とのコネを使って、遼州星系ベルルカン大陸の失敗国家に、非正規ルートでヤバい物資を捌いて財力をつけつつある。実際その資金で政治活動を行っている政治家はこの東和だけでも相当な数だ」
嵯峨の言葉の規模が、誠の理解できるキャパシティーを完全に超え始めた。額を流れる脂汗を拭いながら誠は嵯峨を見つめる。
「そんな人物を中隊規模以下の我々が対応するって言うんですか?」
ただ誠の想像力から離れた話が続くのに耐えられずに誠は恐る恐るそうたずねた。
「逆だな。この規模だから何とかなるんだよ。たとえ証拠をそろえた上で艦隊引き連れて身柄の引渡しを求めても、今度は第六艦隊は面子にかけて自分で内密に処理しようとするだろうな。近藤さんは元々参謀部付の武官だ。前線部隊のたたき上げの本間さんより軍の後ろ暗い仕事についちゃ熟知している」
いかにも状況を楽しんでいる。誠から見て今の嵯峨の姿はそう見えた。
「まあ本間さんの手際じゃ身柄を確保しようとして、逆に感づかれて逃亡されるのがおちだな。まんまと逃げおおせて軍の組織と言う枷のなくなった近藤の野郎は今度は一民間人として大手を振って政治組織を再構築するだろうな。つまり今回の件に関しては、あくまで第六艦隊の意表をつかなければどうにもならん」
そう言うと嵯峨派吸い終わったタバコを灰皿に押し付けてもみ消した。
「そんなものですか?」
「そんなものさ。世の中なんてのは、多少混沌としているのがいいんだよ……誠、『混沌』と言う言葉の語源が古代中国の空想上の動物の事だって知ってるか?」
話の飛躍にまたもや誠はついていけなくなった。嵯峨は自分を文系と言うが、まさにその典型と言える男なんだと誠は確信した。
「いいえ……」
「そうか。中国の幻獣と言うと『麒麟』とかは有名だが、それと同じように『混沌』と言う動物が紹介されているんだ。その『混沌』と言う動物だがな、目も頭も口も足も無い、まるでアメーバーのような生き物なんだそうな」
嵯峨は再びタバコを取り出して火をつけると一ふかしして話を続ける。
「その『混沌』は自らの姿にコンプレックスを持っていてな、ちゃんと一丁前の動物の姿になろうとするんだ。だが、残念なことに『混沌』は普通の動物のような均整の取れた姿になると死んでしまうんだそうな」
「師範代は何が……」
そう言いかけた誠の顔を狂気とすら思える表情を浮かべた嵯峨が見つめている。
「世界もまたしかり、法と秩序と意思とで一つのまとまった形にしようとすれば、死んでしまう。死にはしないとしても、どこかに無理が来る。俺はね、神前。そんなこの世界を自分勝手な理想という型に押し込めようとする奴を、潰して回ることが俺の使命だと思ってるんだよ」
最後の言葉を吐き出した嵯峨の表情はいつもの昼行灯のそれでは無かった。どれほどの悲劇と喜劇を見てきたのか、そんな老成した雰囲気のある男の顔だった。
「理想を語るのは結構だが、その理想が啜る血のことまで想像力を働かせることの出来ない馬鹿にはそれにふさわしい最期を用意してやるのが俺の仕事さ」
嵯峨はそう言うと二本目のタバコの吸殻をもみ消して立ち上がった。
「さあてと、ちょっと東和のお偉いさんに根回しでもしておくかなあ。神前、お前も準備あるだろ?とりあえず進めとけや。それと出港後、作戦に参加するかどうか考えさせる時間をとるからそん時までに答え出しとけ」
去っていく嵯峨の後姿を見ながら、誠は呆然と立ち尽くしていた。
誠に出来ることはそう尋ねることだけだった。
「なあに、やらにゃあならん。『官派』の有力者である近藤は、特に公然と活動を行っている武闘派として知られてる男だ。ゲルパルトの残党連中や東和の経済界とのコネを使って、遼州星系ベルルカン大陸の失敗国家に、非正規ルートでヤバい物資を捌いて財力をつけつつある。実際その資金で政治活動を行っている政治家はこの東和だけでも相当な数だ」
嵯峨の言葉の規模が、誠の理解できるキャパシティーを完全に超え始めた。額を流れる脂汗を拭いながら誠は嵯峨を見つめる。
「そんな人物を中隊規模以下の我々が対応するって言うんですか?」
ただ誠の想像力から離れた話が続くのに耐えられずに誠は恐る恐るそうたずねた。
「逆だな。この規模だから何とかなるんだよ。たとえ証拠をそろえた上で艦隊引き連れて身柄の引渡しを求めても、今度は第六艦隊は面子にかけて自分で内密に処理しようとするだろうな。近藤さんは元々参謀部付の武官だ。前線部隊のたたき上げの本間さんより軍の後ろ暗い仕事についちゃ熟知している」
いかにも状況を楽しんでいる。誠から見て今の嵯峨の姿はそう見えた。
「まあ本間さんの手際じゃ身柄を確保しようとして、逆に感づかれて逃亡されるのがおちだな。まんまと逃げおおせて軍の組織と言う枷のなくなった近藤の野郎は今度は一民間人として大手を振って政治組織を再構築するだろうな。つまり今回の件に関しては、あくまで第六艦隊の意表をつかなければどうにもならん」
そう言うと嵯峨派吸い終わったタバコを灰皿に押し付けてもみ消した。
「そんなものですか?」
「そんなものさ。世の中なんてのは、多少混沌としているのがいいんだよ……誠、『混沌』と言う言葉の語源が古代中国の空想上の動物の事だって知ってるか?」
話の飛躍にまたもや誠はついていけなくなった。嵯峨は自分を文系と言うが、まさにその典型と言える男なんだと誠は確信した。
「いいえ……」
「そうか。中国の幻獣と言うと『麒麟』とかは有名だが、それと同じように『混沌』と言う動物が紹介されているんだ。その『混沌』と言う動物だがな、目も頭も口も足も無い、まるでアメーバーのような生き物なんだそうな」
嵯峨は再びタバコを取り出して火をつけると一ふかしして話を続ける。
「その『混沌』は自らの姿にコンプレックスを持っていてな、ちゃんと一丁前の動物の姿になろうとするんだ。だが、残念なことに『混沌』は普通の動物のような均整の取れた姿になると死んでしまうんだそうな」
「師範代は何が……」
そう言いかけた誠の顔を狂気とすら思える表情を浮かべた嵯峨が見つめている。
「世界もまたしかり、法と秩序と意思とで一つのまとまった形にしようとすれば、死んでしまう。死にはしないとしても、どこかに無理が来る。俺はね、神前。そんなこの世界を自分勝手な理想という型に押し込めようとする奴を、潰して回ることが俺の使命だと思ってるんだよ」
最後の言葉を吐き出した嵯峨の表情はいつもの昼行灯のそれでは無かった。どれほどの悲劇と喜劇を見てきたのか、そんな老成した雰囲気のある男の顔だった。
「理想を語るのは結構だが、その理想が啜る血のことまで想像力を働かせることの出来ない馬鹿にはそれにふさわしい最期を用意してやるのが俺の仕事さ」
嵯峨はそう言うと二本目のタバコの吸殻をもみ消して立ち上がった。
「さあてと、ちょっと東和のお偉いさんに根回しでもしておくかなあ。神前、お前も準備あるだろ?とりあえず進めとけや。それと出港後、作戦に参加するかどうか考えさせる時間をとるからそん時までに答え出しとけ」
去っていく嵯峨の後姿を見ながら、誠は呆然と立ち尽くしていた。
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