レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
100 / 1,557
第二十章 緊張感の無い人々

最後の食事

しおりを挟む
 朝食時。食堂は各部署の隊員が混ざり合い、混雑しているように見えた。事実、食券の自販機の前では整備班員達が談笑しながら順番を待っている。

「よう!神前」 

 茫然と立ち尽くしていた誠に声をかけてきたのは島田だった。この所、05式の調整にかかりっきりだった彼をしばらくぶりに見て、誠は少し安心した。

「島田先輩。それにしても混んでますね」 

「まあな。たぶん安心して飯が食える最後の時間になりそうだからな。最後の飯がレーションなんて言うのはいただけないんだろ?」 

 そう言うと島田は特盛牛丼のボタンを押す。

「奢るけど、神前は何にする?」 

「いいんですか?それじゃあカツカレーで」 

 食券を受け取り、厨房の前のカウンターに向かう長蛇の列の後ろに付いた。

「しかし、ようやく様になってきたらしいじゃないか。模擬戦」 

 島田は笑顔で誠に話を振る。その言葉に自然と誠の頬は緩む。

「許大佐から聞いたんですか?様になったと言ってもただ撃墜される時間が延びただけですよ」 

「謙遜するなって。どうせ近藤一派の機体は、旧式を馬鹿みたいに火力を上げただけの火龍だ。観測機でも上げてこない限り05(まるご)の敵じゃないよ」 

 列はいつになくゆっくりと進む。食堂で思い思いに談笑し、食事を頬張る隊員達もいつになくリラックスしている。

「でも、大したものですねうちは、戦闘宙域まで数時間と言う所でこんなにリラックスできるなんて」 

 誠のその言葉に島田は怪訝な顔をした。

「そうか?俺もここには設立以来からだけど、いつもこんなもんだぜ。まあ、東和軍はここ二百年も戦争やってない軍隊だから、緊張感とか無理に作らなきゃ出ないもんだがな。それとも幹部候補生は見る目が違うのかな」 

 皮肉めいた調子で島田は話す。島田は技術系の専門職の下士官で、東和軍でも比較的出世が遅いコースである。遼北の技術士官の出世頭、明華には比べるまでも無いが、ゲルパルトの技術系士官コースのヨハンより格下の曹長である。一応少尉扱いの誠を嫉妬するのもうなづけた。

「幹部候補と言っても出世コースに乗ってる連中は軍学校から本部詰めの後、地方を回るコースを取れる人間の話ですよ。僕みたいに一般大学卒でいきなり出向ってのは縁が無いですよ出世なんて」 

「確かに。お前が出世するとこは想像できないしな。でも実戦で手柄立てればいいんじゃないのか?東和軍ではせいぜい紛争地帯で白塗りの機体をバリケード代わりにして、突っ立ってるくらいしか出番ないし」
 
「どうですかね」 

 誠は思わず苦笑いを浮かべる。

「汁ダク、ねぎダクでお願い!」 

 カウンターに到着すると島田は牛丼の食券を差し出して炊事班にそう告げた。

「こっちは福神漬け倍で」 

 つい誠もいらない競争心を発揮する。

「はい特盛牛丼、汁ダク、ねぎダク。それにカツカレーお待ち!」 

 島田はドンブリを、誠はトレーにカレーの入った皿を載せて空席を探した。

「正人!こっちあいてるよ!誠ちゃんもこっち来なよ」 

 遠くで燃えるような赤い髪が目立つショートヘアの女性士官が手を振っている。隣はピンク色のロングヘアの女性士官が、突っ伏している紺色の髪の女性士官に何か話しているのが見える。

「サラ!サンクス!神前。ついて来い」 

 島田に導かれ、誠はまっすぐにサラ、パーラ、そしてどう見ても二日酔いのアイシャの待つテーブルへ向かった。

「正人!久しぶりね。どうなってるのかしら?整備班の方は」 

 甘えるような調子でサラは赤い髪をかきあげる。

「まあ誰かさんの模擬戦に付き合って殆ど仕切っていないとは言え、あの許明華大佐の部下だぜ俺は。機体は完璧に仕上がってるよ。まあどう使うかは機動部隊のお仕事だからな」 

 島田はあまりにも自然にサラの隣に腰をかけながら誠の方を見つめてくる。

「はい、がんばります。西園寺さんやカウラさんがフォローしてくれればどうにかなると思いますよ」 

「どうにかなるじゃ困るんだよなあ。一応、俺がお前さんの機体動作パターンを練り直して調整に調整を重ねた機体だぜ?少なくとも三機は落とせ」 

 島田は口にくわえた割り箸を割りながらそう言った。

「無理ね……」 

 ふっと、紺色の髪をなびかせて突っ伏していたアイシャが起き上がる。それだけ言うと目の前にあった梅茶漬けをかきこみ始める。

「そんなこと無いんじゃないの?確かに荒削りだけど、反応速度や索敵能力は05のパイロット向きだと思うわよ。後は細かい状況判断能力だけど、これは実戦で経験を積むしかないわね」 

 いつものシミュレーションの時と同じく、比較的評価の甘いパーラは誠を励ます。

「一応、最終調整だけど、誠向けに比較的ピーキーにセッティングしてあるから、かなり抑え気味に乗ってくれると結果は出せそうだな」 

 島田は牛丼をかき混ぜつつそう言った。

「そうですか」 

 カレーを口に運びながらも誠は明らかにブルーなアイシャの様子が気になっていた。

「正人。そんなにぐちゃぐちゃにしたら不味そうじゃない!」 

「別に俺が食うんだからいいんだよ!それと神前。最後に乗ったシミュレーターの操縦感覚、覚えてるか?」 

 サラの注意をさえぎるように、そこまで言ってから島田はようやく牛丼を口に運ぶ。

「これまでより遊びが少なかったですね。でもまああれくらいの方が僕は操縦しやすいです」

「さすがウチの大将の指示は的確だね。神前は理系の癖に勘や感覚で機体を運用するタイプって言ってたが、まさにそんな感じだな」 

「凄いのね、神前君て。アイシャも何度か落とされたんでしょ?」 

 サラが青い顔をしたアイシャに話を振る。ようやく梅茶漬けを食べ終わった彼女は、何をするわけでもなく目の前の空間に視線を走らせていた。

「お茶漬けってさ」 

 突然アイシャが話し出す。

「整備班の酔っ払い連が食べるものだと思ってたけど、こうして二日酔いの状態で食べると……美味しいのねえ」 

「はあ?」 

 そう話しかけられても誠は対処に困った。

「あのー、大丈夫ですか」 

「何とかねえ。梅干美味しいわ」 

 アイシャは残った大き目の梅干を頬張る。

「本当に大丈夫?昨日、かなめが連れてきた時は本当にびっくりしたけど。結構疲れてたからかしら」
 
 パーラが心配そうにアイシャを諭す。確かに昨日はアイシャは二杯程度しか飲んでいなかった割にはきつそうにしていた。

「まあいいわ。……私先行くわ」 

 そう言うとアイシャはよろよろと立ち上がって茶碗を洗い場に持って行った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

れすとあ ─モンキーガール、風になる─

海凪ととかる
キャラ文芸
 中学女子の100㍍走の記録保持者で、天才スプリンターとして将来を嘱望されていた大倉香奈 《おおくらかな》はスポーツ特待生として陸上強豪校への進学が決まっていたが、競技中の怪我で引退を余儀なくされ、燃え尽き状態で日々を過ごしていた。  香奈のクラスメイトで同じ中学出身である宮本佑樹《みやもとゆうき》は母子家庭で、パン屋に勤める姉の紗羅《さら》、不登校である小学生の妹の咲良《さくら》と一緒に暮らしている。ミニバイク『モンキー』を姉共々愛しており、整備を一手に引き受け、高校にもモンキーでバイク通学している。  ある日、登校直前までモンキーを整備していた佑樹は、学校の玄関で電車通学している香奈と会い、オイルで汚れた手を見られ、バイクの整備ができることを明かす。その時は特にバイクに関心はなかった香奈だったが、その日の放課後、偶然に紗羅の勤めるパン屋に寄り、そこにあった沙羅のモンキーに一目惚れしたことで、モンキーに乗るために二輪免許を取ることにする。  すでに廃番となっている旧車のモンキーをどうやって手に入れたらいいか佑樹に相談した香奈に、佑樹は自宅にある壊れた廃車のモンキーを自分の手で再生《レストア》してみることを提案する。自分の目でそのモンキーを目にした香奈は、自分の足で走れなくなった自分自身と乗り手に見捨てられたモンキーの境遇を重ね、再び一緒に走れるようにモンキーのレストアに着手していく。  これは、自分の足で前へ進めなくなって俯いていた少女が新たな足を得て再び顔を上げて前へ踏み出すまでの"再生"の物語。  これは、乗り手から見捨てられて朽ちつつあった旧車のバイクが新たな乗り手によってレストアされて再び走り出す"再生"の物語。   ※この物語の本文にはAIは使用していません。表紙イラストおよび作中挿絵はAI生成です。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

処理中です...