レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
308 / 1,557
第19章 制圧戦

投下

しおりを挟む
『むー……』 

『どうしたんだ?西園寺。くしゃみでも出るのか?』 

 誠の05式はすでにすべての射出準備を終え、モニターで先発を切るカウラと後詰のかなめの二人の顔がモニターに浮かんでいる状態だった。

『噂話でもしてるのかねえ。ったくどこの馬鹿だ』 

 サイボーグ用の特殊なその特徴的なタレ目を隠しているゴーグルのついたヘルメットの下でかなめは閉じた口と鼻を動かす。

『投下予定ポイントまで一分!』 

 パーラの叫び声と共に輸送機は大きく傾いた。

『このまま対空射撃でどかんは勘弁してくれよ』 

 ようやく落ち着いたかなめの口元にいつも戦線に立つ彼女特有の薄ら笑いが口元に浮かんでいるのが見える。誠は何度も操縦棹を握りなおした。手袋の中は汗で蒸れている。気が変わり右手で腰の拳銃に手をやる。

『落ち着けよ少しは』 

 そう言って笑うかなめに誠もただ苦笑する。

『レーダーに反応!9時の方向より飛行物体3!信号は東和陸軍です!』 

 パーラの鋭い声。誠のモニターに今度はパイロットのヘルメット姿のランが映った。

『待たせたな!どこの機体だろうがオメー等は落させねえよ!そのまま予定通り侵攻しろ!』 

 ランの言葉に合わせるようにして輸送機が降下を始める。

『ハッチ開きます!』 

 それまで三体のアサルト・モジュールを眺めていた整備班員が次々に隣の加圧区画に消えていく。

『カウント!テン!ナイン!エイト!……』 

 パーラのカウントが始まるとカウラのヘルメットの中の顔が緊張して引き締まって見える。誠はその姿に目を奪われた。

『射出!』 

『ブラボー・ワン!カウラ・ベルガー、出る!』 

 誠の機体がカウラの一号機のロックが外れた反動で大きく揺れる。そして一号機をロックしていた機器が移動して誠の機体が射出ブロックに押し込まれる。誠は自分の05式乙型が装備している長い非破壊広域制圧砲を眺めた。

『大丈夫だって。そいつを入れての飛行制御システムは完璧なんだ。自信を持てよ』 

 そんなかなめの言葉を背に受けた誠は黙って操縦棹を握りなおした。

『カウント!テン!……』 

『私は信じているから』 

 パーラのカウントの声にかぶせるようにアイシャの一言が聞こえた。誠は呼吸が早くなるのを感じる。手のひらだけでなく背中にも汗が染みてきていた。

『ツー!ワン!ゼロ!』 

「神前誠!ブラボー・スリー!出ます!」 

 パーラのカウントに合わせて誠が叫ぶ。

 がくんと何かが外れるような音がした後、レールをすべるようにして05式乙型は輸送機から空中へと放り出された。シートに固定されていた体に浮遊感のような感覚が走った後、すぐさま重力がのしかかるがそれも一瞬のことで、すぐに重力制御の利いたいつものコックピットの状態になりゆっくりと全身の血流が日常の値へと戻っていくのが体感できた。誠はそのまま機体の平行を保ちつつ、予定ルートへと反重力エンジンを吹かす。

 かなめの言ったとおり、長くて重い法術兵器を抱えていると言うのに誠の乙式はいつもと同じようなバランスで降下していくカウラ機のルートをなぞって誠の機体は高度を落して行くことができた。

 誠の機体の高度は予定通りの軌道を描いて降下を続けていた。そこに突然未確認のアサルト・モジュールから通信が入る。

『進行中の東和陸軍機及び降下中のアサルト・モジュールパイロットに告げる!貴君等の行動は央都条約及び東和航空安全協定に違反した空域を飛行している。速やかに本機の誘導に……何をする!』 

 イントネーションの不自然な日本語での通信が入る。誠は目の前を掠めて飛ぶ機体に驚いて崩したバランスを立て直す。ヨーロッパの輸出用アサルト・モジュール『ジェローニモ』。空戦を得意とする軽アサルト・モジュールである。西モスレムの国籍章を付けた隊長機らしい機体が輸送機に取り付こうとしてランの赤い機体に振り払われた。

『邪魔はさせねーよ!菰田、そのまま作戦継続だ!』 

 ランの叫び声にモニターの中のパーラが指揮を取るアイシャを見上げていた。

『作戦継続!かなめ、アンタのタイミングでロックを外すわよ』 

『任せとけって……3、2、1、行け!』 

 かなめの叫び声が響くが、誠にはそれどころではなかった。一機のジェロニーモが誠の進行方向に立ちはだかっていた。手にした法術兵器が作戦の鍵を握っている以上、誠は反撃ができない。それ以前に相手はバルキスタン紛争に関心と利権を深く持っている同盟加盟国の西モスレム正規軍機である。

『空は任せろよ!レッドヘッド・ツー、スリー、各機ははブラボー・スリーの護衛に回れ!あれが墜ちればすべてはおじゃんだ!』 

 誠はひたすらロックオンを狙うジェロニーモから逃げ惑う。手にしている馬鹿長い砲を投げ捨てて格闘戦を挑めば万が一にも負けることの無いほどのパワーの差があるのが分かっているだけに、誠はいらだちながら逃げ回る。

 そこに敵にロックオンされたと言う警告音が響く。誠が目を閉じる。

 ランの部下の89式が目の前のジェローニモに体当たりをしていた。バランスを崩して落下するジェローニモが誠の目に映った。

「ありがとうございます!」 

『仕事だ、気にするな。アタシのレーダーでは他にあと四機迎撃機があがりやがった。しかも東和陸軍のコードをつかってやがる……東和陸軍はバルキスタンに軍を派遣していないから国籍詐称のテロリスト扱いってことでこっちは落とせるな。これからは輸送機の護衛任務に専念するからあとはカウラ、何とかしろ』 

 その通信が切れると誠の機体のレーダーには取り付いていた三機のジェローニモがランの部隊の威嚇で誠達から距離を置いたと言う映像が浮かんでいた。

『対空砲火、来るぞ』 

 ジェローニモから逃れるために回避行動を取っていた誠の機体に追いついてきていたかなめの2番機が手にしたライフルで地上を狙う。すでに高度は千メートルを切っていた。誠の機体のレーダーには今回の標的である反政府軍のアサルト・モジュール2機と30両を超える車両の存在が写っている。

 誠の機体をすり抜けるようにかなめのライフルが火を噴いた。現在基地のレーダーは使用不能ということもあり機体の光学照準器の扱いに慣れていないのか、まったく無抵抗に敵のアサルト・モジュールは撃破された。

『あまり派手に動くな!あくまで目標地点への到達が主任務なんだからな』 

 カウラはすでに禿山の続くバルキスタン中部にふさわしい渓谷の合間に機体を降下させていた。

『でもまあ駄賃くらいは……』 

 かなめはそう言うとライフルを腕のロックに引っ掛けると残りの一機のアサルト・モジュールにサーベルを抜いて突撃する。反政府軍の明らかに錬度の低いパイロットは何もできずに胴にサーベルが突き立つまでただ浮いていただけだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

兄の婚約解消による支払うべき代償

美麗
恋愛
アスターテ皇国 皇帝 ヨハン=シュトラウス=アスターテ アスターテ皇国は周辺国との関係も良く、落ち着いた治世が続いていた。貴族も平民も良く働き、平和で豊かな暮らしをおくっている。 皇帝ヨハンには 皇妃に男の子が一人 妾妃に女の子が一人 二人の子どもがある。 皇妃の産んだ男の子が皇太子となり 妾妃の産んだ女の子は降嫁することが決まっている。 その皇女様の降嫁先だった侯爵家の とばっちりを受けた妹のお話。 始まります。 よろしくお願いします。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...