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第2章 生と死
力と代償
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「次で目的地ですから安心してくださいね」
開いた扉を見ながら茜はそう言って笑う。誠は何を安心すれば良いのかわからず握り締めていた刀に目をやった。
「あの、嵯峨捜査官……」
誠は静かにそう言って手にした刀を茜に見せる。茜はそれを見てにっこりと笑う。
「そうですわね。とりあえず剣は袋から出しておいた方がよろしいのではなくて?」
茜の言葉に誠は慌てて刀の袋の紐を解いた。
「へー、そう言う風な結び方なんだ」
アイシャは珍しそうに誠の手元に目をやる。
「別に決まりなんて無いですよ。ただ昔から普通に……」
誠の言葉が出る前に通路の奥で不気味なうなり声のようなものが聞こえた。
「やっぱり怪獣を飼っているのか?」
思わず耳をふさいで島田にしがみつくサラの姿をあざ笑いながら、かなめはそう言って茜の前に出て歩き始めた。かなめはそのまま楽しむような視線であたりを見回す。茜はわざとランやラーナを壁にして誠達の足を止める。
しばらくしてかなめはふと横を向いた。そのにやけていた表情から瞬時に笑いが消えた。かなめはそのまま手の後ろに組んだ両手を離し、静かに後ずさる。
「おい……なんだよ……なんだよこれは!」
これほどうろたえるかなめを誠は初めて見た。慌てた表情を浮かべて振り向いて歩み寄ったかなめは、そのまま茜に飛びついてその襟首をつかむ。
「落ち着いてくださいな。かなめさん」
それまでは『かなめお姉さま』と呼んでいた茜が冷静にそう言ってかなめの頬に手をやる。かなめは明らかに動揺し震えた両手で茜の襟を掴んで離せないでいる。
「びびらねーんじゃ無かったのか?」
そう言って笑おうとするランをかなめはにらみつける。
「このちび!知ってたな!知っててつれてきやがったな!」
かなめが思わず怒鳴りつける。その時、聞いたことも無いような獣の咆哮が誠達の耳にも届いた。島田にしがみついていたサラは、再び驚いたようにそれを聞くと思わず耳をふさいでその場にしゃがみこんだ。そして誠も同じようにまるで子供のようにしゃがみこんでいた。
「茜ちゃん。じゃあ行きましょう」
そのままアイシャが一人歩き出す。それにあわせてカウラも誠の肩を叩く。
「これも任務だ」
カウラの声で気を取り直した誠は刀を袋から取り出して鞘を握る。振り返るとサラと島田が不安そうに誠達を見つめていた。
「大丈夫よ。技術者の方々も見てる代物よ。噛み付いて来たりはしないわよ」
そう言って進んでいたアイシャが先程かなめが表情を変えたのぞき窓の前で立ち止まった。カウラはその姿を見て警戒したように歩みを止める。そこに再び獣の雄たけびのようなものが響く。
「悪趣味ね」
アイシャはそう言い切ると誠を見つめて笑った。
「悪趣味ですか……それで済む代物なんですか?」
誠はアイシャの影に入り込みながら強化ガラスの中にある黒い塊に目をやった。
誠は最初はそこに何があるのか分からなかった。正確に言えばそれは誠の思いつく生物のどれとも違う形をしていて、種類や名前という定義づけが難しいからだった。それはあえて言えばウニかナマコと考えれば分かりやすいが、それが巨大なウニやナマコの類だったとして、それが吼えるわけも無かった。
丸い、巨大な塊、肌色のその物体から何かが五、六本突き出すように生えている。その生えているものが人間の手や足と似ていることに気づくまで数分かかった。そしてその丸い脂肪の塊は細かく震えながら床をうごめいていた。その表面に見えるのは目のようなもの、口のようなもの、耳のようなもの。そしてところどころから黒い長い毛が伸びているのが分かる。
「茜さん……クバルカ中佐……」
その物体から目を離すことができた誠は近づいてくる二人の上官に目をやった。二人とも腕組みしたまま黙って誠を見つめていた。
「成れの果てですわ。法術適正者の……見ます?この物体の元となった人物に関する資料」
そう言うと茜はガラスの窓の隣の出っ張りに携帯端末を載せた。開いた画像には女子高生とサラリーマン風の中年の男の写真が映し出された。氏名、年齢、特記事項が記された事務的資料である。茜はその画面をスクロールさせる。次に映し出されたのは小学生くらいの男の子の姿が映し出された。
「こうなってはどうするべきか分からないけど、この三人の遺伝子データと一致するサンプルがこの物体から摂取した検体から検出されましたわ。三人とも法術適性検査を受け、適性者との結果が出ている人物と言うのは共通しています。この物体の重量と、ご覧いただけるような手足や耳の残留状況からこの物体を構成している原料となる法術適性者はおそらく十人以上……」
「おい茜。こいつはどこで見つかったか……って聞くまでも無いか」
かなめの言葉に茜は静かにうなづく。寮で見せられた出来たてにミイラの写真が撮影された場所、東都港湾地区で発見されたのだろう。黙り込む茜達の纏う雰囲気で誠もそれを察した。
開いた扉を見ながら茜はそう言って笑う。誠は何を安心すれば良いのかわからず握り締めていた刀に目をやった。
「あの、嵯峨捜査官……」
誠は静かにそう言って手にした刀を茜に見せる。茜はそれを見てにっこりと笑う。
「そうですわね。とりあえず剣は袋から出しておいた方がよろしいのではなくて?」
茜の言葉に誠は慌てて刀の袋の紐を解いた。
「へー、そう言う風な結び方なんだ」
アイシャは珍しそうに誠の手元に目をやる。
「別に決まりなんて無いですよ。ただ昔から普通に……」
誠の言葉が出る前に通路の奥で不気味なうなり声のようなものが聞こえた。
「やっぱり怪獣を飼っているのか?」
思わず耳をふさいで島田にしがみつくサラの姿をあざ笑いながら、かなめはそう言って茜の前に出て歩き始めた。かなめはそのまま楽しむような視線であたりを見回す。茜はわざとランやラーナを壁にして誠達の足を止める。
しばらくしてかなめはふと横を向いた。そのにやけていた表情から瞬時に笑いが消えた。かなめはそのまま手の後ろに組んだ両手を離し、静かに後ずさる。
「おい……なんだよ……なんだよこれは!」
これほどうろたえるかなめを誠は初めて見た。慌てた表情を浮かべて振り向いて歩み寄ったかなめは、そのまま茜に飛びついてその襟首をつかむ。
「落ち着いてくださいな。かなめさん」
それまでは『かなめお姉さま』と呼んでいた茜が冷静にそう言ってかなめの頬に手をやる。かなめは明らかに動揺し震えた両手で茜の襟を掴んで離せないでいる。
「びびらねーんじゃ無かったのか?」
そう言って笑おうとするランをかなめはにらみつける。
「このちび!知ってたな!知っててつれてきやがったな!」
かなめが思わず怒鳴りつける。その時、聞いたことも無いような獣の咆哮が誠達の耳にも届いた。島田にしがみついていたサラは、再び驚いたようにそれを聞くと思わず耳をふさいでその場にしゃがみこんだ。そして誠も同じようにまるで子供のようにしゃがみこんでいた。
「茜ちゃん。じゃあ行きましょう」
そのままアイシャが一人歩き出す。それにあわせてカウラも誠の肩を叩く。
「これも任務だ」
カウラの声で気を取り直した誠は刀を袋から取り出して鞘を握る。振り返るとサラと島田が不安そうに誠達を見つめていた。
「大丈夫よ。技術者の方々も見てる代物よ。噛み付いて来たりはしないわよ」
そう言って進んでいたアイシャが先程かなめが表情を変えたのぞき窓の前で立ち止まった。カウラはその姿を見て警戒したように歩みを止める。そこに再び獣の雄たけびのようなものが響く。
「悪趣味ね」
アイシャはそう言い切ると誠を見つめて笑った。
「悪趣味ですか……それで済む代物なんですか?」
誠はアイシャの影に入り込みながら強化ガラスの中にある黒い塊に目をやった。
誠は最初はそこに何があるのか分からなかった。正確に言えばそれは誠の思いつく生物のどれとも違う形をしていて、種類や名前という定義づけが難しいからだった。それはあえて言えばウニかナマコと考えれば分かりやすいが、それが巨大なウニやナマコの類だったとして、それが吼えるわけも無かった。
丸い、巨大な塊、肌色のその物体から何かが五、六本突き出すように生えている。その生えているものが人間の手や足と似ていることに気づくまで数分かかった。そしてその丸い脂肪の塊は細かく震えながら床をうごめいていた。その表面に見えるのは目のようなもの、口のようなもの、耳のようなもの。そしてところどころから黒い長い毛が伸びているのが分かる。
「茜さん……クバルカ中佐……」
その物体から目を離すことができた誠は近づいてくる二人の上官に目をやった。二人とも腕組みしたまま黙って誠を見つめていた。
「成れの果てですわ。法術適正者の……見ます?この物体の元となった人物に関する資料」
そう言うと茜はガラスの窓の隣の出っ張りに携帯端末を載せた。開いた画像には女子高生とサラリーマン風の中年の男の写真が映し出された。氏名、年齢、特記事項が記された事務的資料である。茜はその画面をスクロールさせる。次に映し出されたのは小学生くらいの男の子の姿が映し出された。
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「おい茜。こいつはどこで見つかったか……って聞くまでも無いか」
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